『老人と海(ディレクターズ・カット版)』

  • 2010年08月22日更新

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これほど純粋に、まっすぐに、ひとつの目標に立ち向かった経験はあるだろうか。

タイトルから分かるように、アーネスト・ヘミングウェイの世界的ベストセラーをモチーフに、沖縄県の与那国島で撮影されたドキュメンタリー映画である。主人公は、サバニと呼ばれる小舟を操り、巨大カジキを追い求め漁に出る老漁師、「おじいちゃん」こと、故・糸数繁さん。ジャン・ユンカーマン監督がメガフォンを執った本作は、企画から5年あまりかけて完成し、1990年に初公開されたが、それから20年を経た2010年に、ディレクターズ・カット版としてスクリーンに蘇った。

不漁に悩まされた撮影1年目、糸数さんはそれでも諦めずに毎日漁に出て獲物を狙う。その執念とも言える姿や、与那国島での漁師の日常生活、島の美しい自然や、海の神様に感謝する伝統的な祭事などを、ナレーションを使わず、ありのままに映した作品だ。

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ヘミングウェイの『老人と海』の舞台はキューバのハバナだが、この映画の舞台である与那国島は、そのほぼ同じ緯度に位置するそうである。また、流量が多く流速が早い海流も似ているため、狙う獲物や漁法も似てくるという点でも、正に地球の裏側でヘミングウェイの作品と同じ世界が展開していたといえる。

撮影当時82才であったおじいちゃんのどこに、100キロ超の巨大カジキと闘う力があったのだろう。糸数さんは、映画完成後、カジキと思われる大魚に海に引きずり込まれ、還らぬ人となってしまう。奇しくもヘミングウェイの『老人と海』の主人公そのものだった。

この映画は、物質的には何もないようなところでも、自然と共存して、シンプルに幸せに生きることができると、明確に示してくれる。また、生きていく上で大事なこと、豊かな人生とは何なのか、ということを深く考えさせられる。そして、糸数さんがひとつの目標に向かってひたむきに邁進(まいしん)する姿を見れば、必ずや、生きることの素晴らしさを教えてもらえるだろう。

物質があふれ、また、生きる目標を見失いがちになる今の時代だからこそ、ぜひ観ていただきたい作品である。

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▼『老人と海(ディレクターズ・カット版)』作品・公開情報
日本/2010年/98分
監督:ジャン・ユンカーマン
企画・製作:山上徹二郎
撮影:清水良雄
音楽:小室等
スチール撮影:本橋成一
出演:糸数繁 他
配給:シグロ スターサンズ
コピーライト:(C)1990年シグロ
『老人と海(ディレクターズ・カット版)』公式サイト
※2010年7月31日(土)より、銀座シネパトス(東京)、テアトル新宿(東京)、キネカ大森(東京)ほかにて全国順次公開。

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文:秋月直子
改行

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