『日本のいちばん長い夏』

  • 2010年08月06日更新

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「原爆は落とされなかったかもしれない―」

衝撃的なキャッチコピーが印象に残る本作の監督は、大ヒット作『佐賀のがばいばあちゃん』を手掛けた倉内均。戦時を生きた自身の父親世代のメッセージの「バトン」を次世代へ。そんな監督の思いが十分込められた作品だ。

平成22年(2010年)夏。テレビ番組の演出家が料亭のセットをスタジオに作り、田原総一朗、鳥越俊太郎といった現代の文化人たちを俳優として起用する「文士劇」スタイルをとって、ある座談会を再現させた。これは、当時文藝春秋の編集部員だった作家の半藤一利が企画し、昭和38年(1965年)夏に東京の料亭に知識人や政治家、元軍人、民間人など28名を集めて行われたものである。苦しい状況を体験し生き延びてきた一人一人が当時の体験の記憶や心に秘めてきた記憶を吐き出していくこの座談会は、掲載当時大きな反響を及ぼした。

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座談会出席者それぞれの口から次々に発せられる事実は重い。なぜ、日本政府はポツダム宣言をすぐに受諾しなかったのか。受け入れていれば原爆投下を免れたのではないか。という疑問に対し、一握りの人間しか知らなかった内幕を客観的に語る政府や軍幹部の人間。一方、ビルマの一兵士や沖縄の野戦病院看護婦は当時の過酷な経験を生々しく証言する。歴史的に重要なエピソードを語る前者には犠牲になった弱者たちへの思いが感じられず、後者による心がえぐられるような悲惨な話がより際立つ。両者の間には戦後18年経った当時でも絶対的な壁が存在していたのだろう。

映画の中では、撮影の合間に原作者や役を離れた文化人に取材も行い、個々の戦争観を浮き彫りにしていく。戦争を体験した人も戦後生まれの人も、素の姿で語りながら複雑な思いを噛みしめているようだ。また、日ごろから発言の舞台に慣れている彼らの座談会での「演技」は想像以上の迫力で、周囲を固めるプロの俳優と互角に亘り合い、作品にさらなる厚みを与えている。

戦後60年を過ぎ、当時を知る人が少なくなっていく中、ここで語られる真実を心に留め後世に受け継いでいくために、自分自身に何ができるかを考えたい。

▼『日本のいちばん長い夏』作品・公開情報
日本/2010年/111分
監督・脚本:倉内均
原作:半藤一利[編]『日本のいちばん長い夏』(文春新書)
出演:木場勝己 池内万作 キムラ緑子
湯浅卓(国際弁護士) 中村伊知哉(慶応義塾大学教授) 青島健太(スポーツライター)
山本益博(料理評論家) 松平定知(アナウンサー) 富野由悠季(アニメ映画監督)
林望(作家) 鳥越俊太郎(ジャーナリスト) 立川らく朝(医師・落語家)
島田雅彦(小説家) 田原総一朗(ジャーナリスト) 市川森一(脚本家)
江川達也(漫画家) デイヴィッド・ディヒーリ(ジャーナリスト) 他 (登場順)
製作・著作:NHK/アマゾンラテルナ
配給:アマゾンラテルナ
配給協力:ティ・ジョイ
コピーライト:(c)2010 NHK/アマゾンラテルナ
『日本のいちばん長い夏』公式サイト
※2010年8月7日(土)より、新宿バルト9(東京)、丸の内TOEI2(東京)他、全国順次ロードショー。

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文:吉永くま
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原作本はこちら
日本のいちばん長い夏 (文春新書)

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