映画の達人-映画監督 万田邦敏さん

  • 2010年04月01日更新

soundofmusic-BHmax_SD_S1映画を愛してやまない映画の達人の皆さんにお勧めの映画を紹介していただく「映画の達人」。今回は映画監督の万田邦敏に「自然に涙があふれる映画」についてじっくり語っていただきました。「泣ける映画」「涙が止まらない映画」など、映画のキャッチコピーに「泣ける」を掲げる作品は数あれど、万田監督の選んだ「自然に涙があふれる映画」というのはそんな「泣きジャンル」とは一線を画しています。悲しくて泣くのではなく、一流アスリートの演技を見たときに自然に流れ出るような涙。頭で考えるのではなく、体が自然に涙をあふれさせる映画をぜひ体験してみてください

 理屈抜き、涙が自然に流れ出る喜び。万田監督流、泣ける映画の楽しみ方
楽観的だということもあるんだと思うのですが、めげたり、心に傷を負った時たいてい寝てしまうんです。10時間位寝て起きると、なんとなく傷も癒えている。それでも残る傷は泣いて癒します。傷ついた心を泣くという行為で発散させるんです。軟弱といえば軟弱なんですけど。今回選んだ3作品のうち、2作品はミュージカル映画。歌も踊りも身体的な発散。スポーツシーンで感動するというのもそういうことですよね。その選手がどれだけ努力して、けがをどれだけ克服したとかそんなことは知らなくていい訳で、その瞬間の動きの素晴らしさとか、見事さとか。それだけで十分こっちの心身と触れ合えるんです。


万田邦敏「涙が自然にあふれ出る映画」
1. 冒頭からジュリーアンドリュースの歌声に泣く―サウンド・オブ・ミュージック
2. 全てを許してしまう圧倒的な踊りに泣く―フレンチ・カンカン
3. のぼりつめた男女の恍惚感に泣く-曽根崎心中
 
 
冒頭からジュリー・アンドリュースの歌声に泣く―サウンド・オブ・ミュージック

soundofmusic-BHmax_SD_S2ロバート・ワイズ監督は活劇調のものから、ホラー・SF調のもの、社会的なテーマ性のあるものまで、小粒の面白い映画を撮っていて、もともと好きな監督ではあるんですけれど、(ストーリーの作りが)うまいなと思います。しかしなによりも音楽の力が圧倒的。どれも名曲ぞろい。子どもと父親、ジュリー・アンドリュースの対立している関係が、歌によってほどけて、溶解していく。冒頭のヘリコプターからの撮影でジュリー・アンドリュースが歌いだすところからもうぽろっと泣ける作品。ジュリー・アンドリュースは、当時圧倒的に(サウンドオブミュージックで)売れた人ですけれど、サウンド・オブ・ミュージックはジュリー・アンドリュースでないとできないですね。一度テレビで「サウンド・オブ・ミュージック」を見てたら、隣で一緒に見ていた娘に「あ、お父さん泣いてる!」と指摘されてしまって。一人でこっそり見たい作品ですね

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「サウンド・オブ・ミュージック」(1964年) 監督:ロバート・ワイズ

soundofmusic-BHmax_SD_J1938年のオーストリア、ザルツブルグ、院長の命により厳格なトラップ家へ家庭教師としてやって来た修道女マリア。彼女の温かい人柄と歌を歌うことで、七人の子供たちは次第にマリアを慕うようになる。しかし、父親であるトラップ大佐とマリアの衝突は絶えない。やがて大佐の再婚話が持ち上がり、マリアは大佐に惹かれていることに気づき、悩む。彼女は傷心のまま修道院に戻るのだが。

 サウンド・オブ・ミュージック ベスト・ヒット・マックス 第1弾 DVD発売中 ¥1,800(税込¥1,890) 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
 


全てを許してしまう圧倒的な踊りに泣く―フレンチ・カンカン

フレンチカンカン16ラストのカンカンシーンは、圧倒的ななにかが起こっているので、なにがなんだかわからないままこっちは泣いている。踊りが今まであった対立を溶かして、人生っていうのは素晴らしいことなんだと全肯定する。その圧倒ぶりには泣くしかない。なによりも、あの女の子たちのフレンチカンカンで、見に来ている観客も混然一体になるという、あの感覚はあの映画以外ちょっとないですね。フレンチ・カンカンが今の泣ける映画のようなストーリーだと、踊り子の足が折れて、それを克服して、最後に踊って泣かすみたいな。(この作品は)そういうところが全然ない、理屈じゃないんですよ。無理やり悲しくしている訳じゃないんですけど、自分の好きだった男が浮気ものなのは、そりゃあ彼女にとっては悲しいわけですよ。その悲しさと、最後にそれが、歌と踊りでそんな悲しさ、どっかに行ってしまうくらい、彼女は幸せになっていること。踊っている時の幸せ感を観ると感動するし、泣けるんです。

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「フレンチ・カンカン」(1954年)監督:ジャン・ルノワール
フレンチカンカン1888年のパリで上流向けのクラブを営んでいたダングラールは、下町のキャバレーで見初めた踊り子ニニに触発され、カンカンの復活を軸とした新しいショウを見せる娯楽の殿堂“ムーランルージュ”をつくろうと画策する。ダングラールとニニを中心に様々な恋が複雑に絡み合い、もつれていく中、ついに“ムーランルージュ“の幕が開く。

『フレンチ・カンカン』 DVD発売中 ¥2,625(税込) 発売・販売元:東北新社 © TELEDIS 1954
 


のぼりつめた男女の恍惚感に泣く-曽根崎心中

GNBD-1457_L恋と誇りに生きた男女の物語ってテロップが出てきますが、まさにそうですね。恋することを誇りにできる女のすごさ、美しさっていうか、そこに打たれますね。増村監督は、どっかで社会的な常識とか倫理観といったものを超えていくんですが、そこがすごい。極限まで行ったところで二人が結ばれている。その強さみたいなものに打たれる。男女のエクスタシー感のような恍惚感がのぼりつめると、涙が出てきます。

曽根崎心中 ¥4,935(税込)発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント

 


万田邦敏のこれを見ろ
「曽根崎心中」(1978年)監督:増村保造
大阪内本町の醤油屋手代、徳兵衛は、堂島新地天満屋の遊女、お初と深くいいかわした仲。その一方、店の主人は姪と徳兵衛の縁談を進め、母親に持参金銀二貫目が渡してしまう。徳兵衛は持参金を取り戻し、縁談を破棄しようとするが、親友九平次の裏切りにより、金を主人に返すことができなくなったうえに、大勢の人々の前で辱めを受ける。男の面目が立たなくなった徳兵衛はもはや生きていけないと、お初と供に曽根崎天神に向かう。

  万田邦敏

manda_dir1956年生まれ。映画監督。映画美学校講師、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。立教大学在学中、黒沢清らと共に自主映画製作を行う。その後PRビデオ、TVドラマの演出を経て、1996年『宇宙貨物船レムナント6』で劇場デビュー。続く『UNLOVED』が2001年カンヌ国際映画祭エキュメニック新人監督賞、レール・ドール賞をW受賞。2003年、「ダムドファイル エピソード・ゼロ」がカンヌ国際映画祭監督週間に正式招待される。その後『ありがとう』(2006年)『接吻』(2006年)などを発表。著書に『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』(港のひと)、共著に『映画の授業 映画美学校の教室から』(青土社)、『映像と身体 新しいアレンジメントに向けて』(せりか書房)など。

 文・取材 白玉、おすず
次回は篠崎誠監督です。お楽しみに。
改行

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