『千年の祈り』スペシャルトークショーが開催されました

  • 2009年12月21日更新

2009年12月9日、恵比寿ガーデンシネマでの『千年の祈り』の上映後、木藤幸江プロデューサーを招いてスペシャル・トークショーが開催されました。黒沢清監督の「トウキョウソナタ」のプロデュースをはじめ、アメリカでのビジネス経験を生かして国内外で活躍中の木藤幸江さんが、映画プロデュースの仕事や、『千年の祈り』の制作秘話について語ってくださいました。

プロデューサーという仕事

『JUNO/ジュノ』のプロデューサーのRussel Smithさんによると、プロデューサーには二種類あるそう。ビジネスから出発してプロデューサーになるタイプ、映画をつくる現場からプロデューサーになるタイプ。木藤さんは、どちらかというと、ビジネスとしてのお仕事からプロデュース業に携わられたとのこと。「ビジネスのほうから来た人は現場のことがわからない。現場から来た人は、お金のことがわからない。このふたつをマッチさせた人間はなかなかいない」というのがRussel Smithさんの弁であり、木藤さんも同意見だそうです。

「どういう脚本にするか、プロデューサーと監督どちらかあるいは相談してつくるかどうかについては、企画次第。『トウキョウソナタ』は、売り込まれた脚本が面白いと思い、黒沢清監督のところに行くと、『ホラーじゃないのが嬉しい』と言ってくださいました。『千年の祈り』では、原作を読んで自分が絶対やりたい思い脚本を原作者とすすめている段階で、『よかったら一緒にやらないか』とウェイン・ワン監督が声をかけてくださったのがきっかけです。『トウキョウソナタ』では、キャスティングに関しては相談しながら決めました」。『千年の祈り』については、アメリカを舞台にした中国人のストーリーということからも、ウェイン・ワン監督のネットワークによるものが大きいとのこと。『ジョイ・ラック・クラブ』で20歳くらいだったフェイ・ユーがちょうど良い年頃になってきているということで、監督によりキャスティングされたそうです。

 

ウェイン・ワン監督との出会い

「アメリカで、日本の会社で映画の仕事をしていたときに知り合い、F.コッポラ監督を主導にアジアの監督で低予算でつくる映画の企画がありました。コッポラ監督の下の若手で指示をうけていたのがウェイン・ワン監督。心の大きな方で、私にもお話をしてくださいました。帰国後も、監督に『君とは気が会うから、友達でいよう』と言われ、交流がつづいていました。私も近況報告していたところ、ある時『いい時期が来た、プロデューサーと監督として一緒に仕事をしよう』ということになりました」。『スモーク』の後、『チャイニーズ・ボックス』で監督が忙しい頃だったそうです。

ウェイン・ワン監督と木藤さんの関係は、『千年の祈り』の制作を通して、とても家族的になったそうです。

「以前は偉大な監督に声をかけていただけること自体が光栄という感じでした。奥様が女優で、香港の大スターの座を捨てて、アメリカに監督と一緒に来られた方なのですが、彼女とも家族ぐるみで仲良くさせていただきました」。

仕事中は、口も聞きたくないと思った時もあるという木藤さんだが、「『お互いに作品を良くしたかったから、ぶつかったんだよね』と監督が話すほど、今は人間的にもクリエイティブ的にも尊敬できる人になりました」と振り返りました。

ウェイン・ワン監督のキャラクターは、木藤さんによると意外な一面が。

「怒るというより、頑固、ヒステリックになる時がある。現場ではいたって紳士ですし、取材中も皆さんによくしていただいて、最初から最後まで機嫌が良かったのですが、私がうるさく細かい点まで言うと怒ります」。

 

仕事をしてみたい監督や俳優

「監督をサポートするために自分はいるという気持ちで仕事をしています。監督がいちばん仕事ができる状態をつくってあげたい」。

「黒沢清監督やウェイン・ワン監督に共通しているのは、『世の中100%はありえない。与えられたものの中から、どれだけ100%を求められるかが、自分たちの勝負なんだ』という方たちであること。自分の関わる仕事に関しては、制限がある中で最大限の力を出して、いいものを作ってくださる方たちと仕事ができるのが幸せかなと思います」。

 

字幕なしのシーン

主人公の女性と父親の会話は英語、中国語のどちらであっても字幕があるが、公園での父親とイラン人のマダムの会話で英語のみ字幕が出るシーンがある。「監督が頑固にこだわったところです。観客が実際に、マダムの言葉がわからない立場に立ってほしいと。ペルシャ語でコミュニケートできない、ということを判ってもらうために、絶対に字幕はいらないと」。

各国の配給会社とくにイタリアの会社からは、字幕を入れるよう強い要望があった。イタリア人はこだわりがあるので知りたがるという。「監督が、『入れるのは作品のために良くない』と言ったのです。最終的には、配給会社も監督の意向をのんでくれて、あの部分に関しては字幕なしで公開されています」。

 

父親役のヘンリー・オー

「ヘンリー・オーさんは、英語がペラペラで、文革を経験したでエリート、英語で舞台劇をしていた人。知識階級で何年間か牢屋に入れられていました。映画の中で、ギブスのようなものをつけるシーンは脚本になかったのですが、実際に彼が使っているのを見て、監督が『使ってもいいか』とヘンリー・オーさんに尋ねて、『かまいません』と彼が答えたので、彼の人生の歴史をみせる意味で使わせてもらいました。ヘンリー・オーさんは、J.チェン、J.リーの映画に、お父さん、おじさん役で必ず登場しています。シアトル在住で英語が上手なので、下手に話すのにかなり苦労されていました」。

映画の中の父親のように、彼には独身のお嬢さんがいて、中国人の父親としてとても心配をしているらしい。

木藤さんが「娘さんはアメリカで生まれ育っているわけだから、中国人の感覚で心配しても、娘さんはきっと幸せなんじゃないの。自分の父親は自分が海外にいる時に亡くなったので気の毒だったかも」と彼に言うと本番前に彼が泣き出してしまうという事件があった。「監督が見つけて、『何やってんだ』と。映画の通り、物静かで温和で優しい目をされている方です」。

 

本作品は、小津映画を連想させるという声も多く聞かれます。

「ウェイン・ワン監督は小津の大ファン。あえて意識してつくっている訳ではないが、後になってみると、『本当にそうだな』と言っているくらい、小津の存在は彼にとって大きいもので、この映画にはそれが随所に現れていると思います」と、木藤さんは話してくれました。

 

『千年の祈り』は、恵比寿ガーデンシネマのほか、大阪梅田ガーデンシネマでも公開中。

 

取材:ホウキョウ チアキ
改行

  • 2009年12月21日更新

トラックバックURL:http://mini-theater.com/2009/12/21/933/trackback/