2月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2021年01月31日更新
2月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 2/5(金)公開『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』 2/6(土)公開『モルエラニの霧の中』(再掲) 2/11(木)公開『春江水暖~しゅんこうすいだん』 2/19(金)公開『藁にもすがる獣たち』 2/20(土)公開『痛くない死に方』 2/20(土)公開『地球で最も安全な場所を探して』 2/26(金)公開『Eggs 選ばれたい私たち』 → 緊急事態宣言延長に伴い、4/2(金)より公開に延期となりました。 2/26(金)公開『ターコイズの空の下で』 2/26(金)公開『MISS ミス・フランスになりたい!』 2/27(土)公開『きこえなかったあの日』 2/27(土)公開『夏時間』 2/27(土)公開『二重のまち/交代地のうたを編む』 |
『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』
秘蔵映像をもとに描く英雄の光と影
2020年11月に60歳の若さで死去したサッカー界の伝説、ディエゴ・マラドーナ。その早過ぎる死は世界的に報じられ、各国の現役スター選手も次々と哀悼の意を表した。本作は、英雄と崇められたピッチでのマラドーナと、黒い交際や薬物、愛人問題などでマスコミを騒がせるプライベートでの一面から彼の半生を明かし、カンヌ国際映画祭や英国アカデミー賞でも高く評価された注目作だ。監督・製作総指揮は『アイルトン・セナ ~音速の彼方へ』『AMY エイミー』などのアシフ・カパディア。 製作のジェームズ・ゲイ=リースをはじめ、傑作ドキュメンタリーを生み出してきたスタッフが再集結し、生前のマラドーナの全面協力を得て、500時間にもおよぶ秘蔵映像をもとに映画化された。天賦の才と、思わずスクリーンにツッコミを入れたくなるスキャンダラスな言動。ドキュメンタリー映えの総本山のような生き様に、サッカーファンならずとも見入ってしまう。(min)
2021年2月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019 年/イギリス/130 分)原題:DIEGO MARADONA 監督・製作総指揮:アシフ・カパディア 製作:ジェームズ・ゲイ=リース、ポール・マーティン 出演:ディエゴ・マラドーナ、ペレ、チーロ・フェラーラ、ディエゴ・マラドーナ・ジュニア、クリスティアーナ・シナグラ、クラウディア・ビジャファーネ 配給:ツイン © 2019 Scudetto Pictures Limited
『モルエラニの霧の中』(再掲)
人の温かみ、土地のぬくもりが伝わる映像詩
『ハーメルン』(2013)などの坪川拓史監督が、居住地の北海道室蘭市を舞台に、場所と人の記憶をたどる7章からなる映像詩を織り上げた。第1話の「冬の章」で水族館のクラゲを見つめていた少年。その母親は、第2話「春の章」では写真館の一室を借りてキャンドルショップを営んでいる。それぞれが誰かとつながっていて、ささやかなハーモニーを奏でる。そんな一つの連環が、モノクロとカラーが入り混じり、画面サイズも思い思いの映像で構成される。音楽も記憶の中枢に訴えるような懐かしいメロディーで、人の温かみ、土地のぬくもりがズシリと伝わってくる。室蘭の何気ない風景も一つ一つがきらめいて見えて、改めて坪川監督の豊かな感性に感じ入った。(藤井克郎)
2021年2月6日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/214分)脚本・監督・音楽:坪川拓史 出演:大杉漣、大塚寧々、水橋研二、菜葉菜、香川京子 ほか 配給:ティー・アーティスト ©室蘭映画製作応援団2020
『春江水暖~しゅんこうすいだん』
時の流れにたゆたう大家族の人間模様
中国・浙江省をゆったりとたゆたう富春江のほとりに暮らす大家族の人間模様を、四季の移ろいとともに見つめた壮大なドラマ。グー・シャオガン監督の長編第1作ながら、カンヌ国際映画祭の批評家週間でクロージング作品に選ばれた。4人の息子を育て上げたグー家の年老いた母が、誕生日の祝宴の最中に倒れる。息子たちの世話になる母だが、4人ともそれぞれの家族に複雑な問題を抱えていた。富春江が象徴する悠久の時の流れと、急ピッチで開発が進む街の風景。変わらぬもの、変わっていくものの対照の妙が大家族の歴史と重なり合って、得も言われぬかぐわしさを漂わせる。自然と人間を溶け合わせたカメラワークも素晴らしく、孫娘が恋人と川辺を散策する長回しショットには目を見張った。(藤井克郎)
2021年2月11日(木)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/中国/150分)原題:春江水暖 英題:Dwelling in the Fuchun Mountains 監督・脚本:グー・シャオガン 出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン ほか 配給:ムヴィオラ ©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved
『藁にもすがる獣たち』
名優たちが魅せる、追いつめられた人間のゲスさ
曽根圭介による日本の小説を、チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、3月日本公開予定の『ミナリ』(A24とPLAN Bによる最新作)の演技で米国の映画賞を席巻中のユン・ヨジョンなど豪華俳優陣で映画化し、韓国で大ヒットを記録したクライム・サスペンス。『犯罪都市』『
2021年2月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020 年/韓国/109 分)原題:지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들 英題:BEASTS CLAWING AT STRAWS 監督・脚本:キム・ヨンフン 出演:チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、チョン・マンシク、チン・ギョン、シン・ヒョンビン、チョン・ガラム、ユン・ヨジョン 配給:クロックワークス ©2020 MegaboxJoongAng PLUS M & B.A. ENTERTAINMENT CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED. ©曽根圭介/講談社
『痛くない死に方』
在宅医療をテーマに幅広く問題を提起
病院ではなく自宅で最期を迎える在宅医療について、『TATTOO〈刺青〉あり』の高橋伴明監督が真正面から取り組んだ意欲作。兵庫県尼崎市で在宅医として活動する長尾和宏氏のベストセラーを原作にしている。若い在宅医の河田は、末期肺がん患者の大貫を苦しみ続けた末に死なせてしまう。「痛くない死に方」を選んだのに、と大貫の娘に責められた河田は、先輩在宅医の長野に相談する。ともすれば在宅医療のプロパガンダになりかねない素材だが、高橋監督は河田の失敗例を徹底的に見せることで、在宅医療の厳しさ、末期患者を抱えた家族のあり方を含めて幅広く問題提起する。後半、成長した河田に看取られる患者の幸せそうな死に顔と比べて、大貫を演じた下元史朗の壮絶な死に方に戦慄した。(藤井克郎)
2021年2月20日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/112分) 監督・脚本:高橋伴明 出演:柄本佑、坂井真紀、余貴美子、大谷直子、宇崎竜童、奥田瑛二 ほか 配給:渋谷プロダクション ©痛くない死に方」製作委員会
『地球で最も安全な場所を探して』
“核のごみ”の捨て場所は見つかるのか?
この60年間、世界の原子力発電所で蓄積された高レベル放射性廃棄物は35万トン以上にのぼるという。本作は、原発推進派の核物理学者で廃棄物貯蔵問題専⾨家のチャールズ・マッコンビーが、世界各国の同胞たちとこの“核のごみ”の廃棄場所の問題に取り組む姿を、反原発派のエドガー・ハーゲン監督が撮影したドキュメンタリーだ。カメラに映し出されるのは、最終処分場候補地の調査を続けたり科学的根拠を提示したりする学者や経済活性化のために処分場に立候補する自治体の長、反対の声を上げる住民たち。監督は決してヒステリックになることなく、主義主張の違いを超えて彼らの姿を冷静に捉えているが、一部の専門家の安全性に関する発言はどこか空しく響く。いったい溜まり続ける“核のごみ”の捨て場所は見つかるのか? “世界で最も安全な場所”は“絶対に安全な場所”ではない。悶々としながらも、この問題の解決を後世に先送りしてはならないという意識が喚起された。(吉永くま)
2021年2月20日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2013年/スイス/100分)英題:Journey to the safest Place on Earth 監督:エドガー・ハーゲン 出演:チャールズ・マッコンビー ほか 後援:在日スイス大使館 製作:ミラ・フィルム 配給:きろくびと
◆オススメ記事:
・『第4の革命 エネルギー・デモクラシー』-ドイツを脱原発に導いた、2010年で最も観られたドキュメンタリー
・『100,000年後の安全』-放射性廃棄物が無害になるまで10万年。10万年後の安全を想像するドキュメンタリー
・『100,000年後の安全』マイケル・マドセン監督インタビュー-答えを提示することはしません。あなたの答えはなんですか?
『Eggs 選ばれたい私たち』
卵子を提供したい女性の等身大の思いを追求
29歳の派遣社員、純子は、不妊に悩む夫婦に卵子を提供するエッグドナーへの登録を希望する。独身主義者で結婚も出産もする気がないが、30歳を間近に控え、将来、子どもを産まなかった後悔をしたくないという思いが芽生えたからだった。その説明会で偶然、いとこの葵と再会。同性の恋人と別れ、住むところのない葵は、純子のアパートに泊めてほしいと言い出す。多様な生き方が認められる時代にあって、それでも生きづらさをぬぐえない女性たちの等身大の姿を、これが長編第1作となる川崎僚監督が映画化。女性にとって子どもを産むという意味は何なのかを、女性監督ならではの当事者視点で追求する。卵を象徴的にとらえたキッチンのショットなど、監督の強い観念がほとばしる。(藤井克郎)
2021年2月26日(金)より全国順次公開 ※緊急事態宣言延長に伴い、4月2 日(金)よりテアトル新宿、4月9日(金)テアトル梅田ほかにて上映 公式サイト 予告編動画
(2018年/日本/70分) 監督・脚本:川崎僚 出演:寺坂光恵、川合空、三坂知絵子 ほか 配給:ブライトホース・フィルム ©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会
『ターコイズの空の下で』
モンゴルの大地を背景にユーモラスな演出が映える
欧米の映画に出演するなど国際的なアーティストとして活躍するKENTARO監督が、柳楽優弥を主演に迎え、日本とモンゴルで撮影を敢行した長編第1作。実業家の祖父の跡を継ぐことになっているタケシは、祖父の三郎の命を受け、モンゴルへと向かう。モンゴルで終戦を迎えた三郎が、現地の女性との間にもうけた娘を探すという目的だった。日本では放蕩三昧のタケシだったが、草原がどこまでも続くモンゴルの大地と、厳しい自然に立ち向かう遊牧民らとふれあううちに、何かが変わっていく。丘の稜線にきらめく夕日、崖の上にたたずむ人影などほれぼれするような光景に、ユーモアをたたえた演出がメリハリをつける。極力せりふを排し、映像の力で見せ切る監督のセンスに酔いしれた。(藤井克郎)
2021年2月26日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2019年/日本・モンゴル・フランス/95分)英題:UNDER THE TURQUOISE SKY 監督・脚本:KENTARO 出演:柳楽優弥、アムラ・バルジンヤム、麿赤兒 ほか 配給:マジックアワー、マグネタイズ ©TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS
『MISS ミス・フランスになりたい!』
“他人に自分の価値を決めさせるな”
9歳の美少年アレックスの夢は“ミス・フランス”になること。だが、様々な事情からその夢を封印し、本当の⾃分を取り戻せないまま成長する。ある日アレックスは偶然再会した幼馴染が夢を叶えたことを知り、忘れかけていた自分の夢に挑戦することを決意する……。主演は“圧倒的な美貌のユニセックスモデル”として活躍するアレクサンドル・ヴェテール。アウヴェス監督によると、アレクサンドルは「女性になりたいわけではなく、自分自身の中の女性の部分を強く感じているだけ」だという。カテゴライズされない本当の自分への回帰。ジェンダーの問題に限らず、主人公を通じて誰もがその大切さを感じ取ることだろう。ドラッグクイーンやインド人のお針子など多様な下宿人たちや、厳しい指導に辟易する美しいミスコン出場者たちも然り。生きづらさや苦悩、ミスコンの華やかさ、周囲の温かさ、ユーモアが溶け合った物語。下宿の大家ヨランダの「他人に自分の価値を決めさせるな」という言葉が心に突き刺さる。(吉永くま)
2021年2月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/フランス/107分)原題:MISS 監督・原案・共同脚本:ルーベン・アウヴェス 出演:アレクサンドル・ヴェテール、イザベル・ナンティ、パスカル・アルビロほか 配給:彩プロ ©2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS
『きこえなかったあの日』
東日本大震災から10年、障害者を取り巻く環境は
『友達やめた。』など、コミュニケーションをテーマにしたドキュメンタリーを発表し続けている全聾の映画作家、今村彩子監督が、東日本大震災の発生直後から撮りためていた10年の記録を1本の作品にした。今村監督が主に見つめたのは、3人の聴覚障害者とその周囲の人々。一人暮らしの高齢者、加藤褜男(えなお)さんは満足な教育を受けておらず、手話も筆談も通じない。自宅を津波で流され、仮設住宅に住むことになるが、同じ避難生活を送る被災者らとなじんでいく姿に、監督は新鮮な感動を覚える。ほかに熊本地震や西日本豪雨の現場にも駆けつけ、障害者が瓦礫撤去のボランティアにいそしむ姿など、この10年での障害者を取り巻く環境の変化も克明に撮影。障害者、健常者の枠を超えた人々の結束力の強さに胸を打たれた。(藤井克郎)
2021年2月27日(土)より全国順次公開。インターネットでも同時配信 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本/116分)監督・撮影・編集:今村彩子 出演:加藤褜男、菊地藤吉・信子、小泉正壽 ほか 配給:Studio AYA ©2021 Studio AYA
◆関連記事:9月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―:『友達やめた。』
◆オススメ記事:『星に語りて~Starry Sky~』— 未曾有の大震災直後、“障害者が消えた”のはなぜか? 多くの人が知るべき真実を基に描くヒューマンドラマ
『夏時間』
多感な少女のひと夏を懐かしくもみずみずしい映像で活写
10代の少女、オクジュは、弟のドンジュと事業に失敗した父とともに、夏休みを祖父の家で過ごすことになる。離婚寸前の叔母もやってきて、にぎやかな団欒の場となるが、ここに母の姿はない。離れて暮らす母とは弟がときどき会っていたが、そのうれしそうな笑顔がオクジュには面白くなかった。1990年生まれのユン・ダンビ監督の初長編で、優しく思いやりのある家族に囲まれながら、どこか素直になれない多感な少女のひと夏を、懐かしくもみずみずしい映像で活写。2019年の釜山国際映画祭では市民評論家賞など4冠に輝くなど、高い評価を獲得した。オクジュを演じた新人のチェ・ジョンウンの繊細な演技もさることながら、弟のドンジュ役の天才子役、パク・スンジュンの泣き笑いの表情は必見だ。(藤井克郎)
2021年2月27日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/韓国/105分)原題:남매의 여름밤 英題:Moving On 監督・脚本:ユン・ダンビ 出演:チェ・ジョンウン、パク・スンジュン、ヤン・フンジュ ほか 配給:パンドラ ©2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED
『二重のまち/交代地のうたを編む』
被災地の復興に懸ける人と土地の時間が交錯する
東日本大震災の被災地を拠点に創作活動を続ける映像作家の小森はるかと画家で作家の瀬尾夏美のアートユニットが、復興の進む岩手県陸前高田市を舞台に、人と土地の時間が交錯する実験的な作品を織り上げた。陸前高田を4人の若者が訪れ、かさ上げされた新しいまちに住む地元の人たちと2週間の交流を図る。ある者はファストフード店で女子高校生とおしゃべりし、ある者はお墓参りに同行する。4人はこの地で何を感じ、どう伝えるのか。瀬尾がつづった未来の風景を、彼らが体現するかのようにかみしめ、朗読する。その真剣な語りから、復興に懸ける被災者の思いが湧きたってきた。(藤井克郎)
2021年2月27日(土)より全国順次公開。3月6日(土)よりポレポレ東中野にて特集上映「映像作家・小森はるか作品集 2011-2020」開催 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/79分)英題:Double layered town/Making a song to replace our positions 監督:小森はるか+瀬尾夏美 出演:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至 ほか 配給:東風 ©KOMORI Haruka + SEO Natsumi
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