12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2018年11月30日更新
12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 12/1(土)公開 『彼が愛したケーキ職人』 12/8(土)公開 『マチルダ 禁断の恋』 『暁に祈れ』 12/15(土)公開 『宵闇真珠』 12/22(土)公開 『シシリアン・ゴースト・ストーリー』 『クマ・エロヒーム』 12/29(土)公開 『アタラント号』 |
更新情報:12月21日に『クマ・エロヒーム』を追加掲載しました。
『彼が愛したケーキ職人』
ジェンダーも国も宗教も超えて、求めあう心
【妻子のいるイスラエル人男性オーレンを愛した、ケーキ職人のドイツ人青年トーマス。オーレンの突然の事故死を知ったトーマスは、エルサレムで暮らすオーレンの家族の元へ。身の上を隠し、家族に静かに寄り添いながら、不慣れな異国の街で、トーマスはケーキ作りを通じて自分の居場所を見いだすが……】ジェンダーも国も超える「思いやりの愛」に心を掴まれる。作品を通し、複雑な宗教的背景を持つ「エルサレム」という街の、慣習や日常を垣間見ることができる点でも貴重な作品。エルサレムの美しい街並みと、素朴で美味しそうなケーキ&スイーツが目を楽しませてくれる。衝撃的な真実も用意され、物語の仕掛けも楽しめる秀作だ。(市川はるひ)
2018年12月1日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/イスラエル・ドイツ/109分/PG12) 英題:THE CAKEMAKER 監督:オフィル・ラウル・グレイツァ 出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー(『運命は踊る』)、ロイ・ミラー ほか 配給:エスパース・サロウ ©All rights reserved to Laila Films Ltd.2017
『マチルダ 禁断の恋』
ロシア最後の皇帝と伝説のバレリーナの悲恋
センセーショナルな題材で注目されている、史実に基づく物語。19世紀の滅びゆくロシア帝国。皇位継承直前に、その地位を捨てんばかりの激しい恋に落ちたニコライ2世と、美貌のバレリーナ・マチルダのラブストーリー。ヒロイン・マチルダには『ゆれる人魚』のミハリナ・オルシャンスカ。野心に燃え、ライバルと火花を散らし、悪女の顔を持ちながらも、ニコライ2世への愛を一途に貫こうとする、官能的かつピュアなマチルダを、情感たっぷりに演じる。バレエダンサーによる群舞、スペクタクルシーン、激しいアクションも織り込み、美術や衣装も目を見張る豪華さと、見どころがいっぱい。幅広い層におすすめしたい、エンタメ作品。(市川はるひ)
2018年12月8日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/ロシア/108分) 原題:MATHILDE 監督:アレクセイ・ウチーチェリ 出演:ラース・アイディンガー(『ブルーム・オブ・イエスタディ』『パーソナル・ショッパー』)、ミハリナ・オルシャンスカ、ダニーラ・コズロフスキー ほか 配給:シンカ ©2017 ROCK FILMS LLC.
『暁に祈れ』
タイの地獄の刑務所を格闘技で生きのびろ!
【再起をかけタイに来た英国人ボクサー・ビリーは、薬物が元でチェンマイの刑務所に収監される。そこは言葉が通じず、レイプ・殺人がはびこる生き地獄。必死に命をつなぐビリーは、所内のムエタイチームに参加、窮地を脱しようとするが……】自伝を基にした実録映画。実際の刑務所でロケを行い、主要キャスト以外は元囚人を出演者に起用。右も左も全身タトゥーの強面ばかり。迫力のカメラワークの中、タイ語の字幕はなく、動きのキレる囚人たちに囲まれ「次に何が起こるのかわからない」緊張と恐怖が体験できる。荒唐無稽な成功ではなく、次々襲う絶望に抗い生きようとする、生身の男のリアルな世界。ムエタイバトルも見どころだ。(市川はるひ)
2018年12月8日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2017年/イギリス/117分/R15) 原題:A Prayer Before Dawn 監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール 出演:ジョー・コール(『グリーンルーム』)、ポンチャノック・マブラン、ヴィタヤ・パンスリンガム ほか 配給:トランスフォーマー ©2017-Meridian Entertainment – Senorita Films SAS
『宵闇真珠』
C・ドイルの映像美で描く少女と異邦人の出会い
撮影監督として世界的な名匠たちとタッグを組み、その独特な映像美で映画ファンを魅了し続けてきたクリストファー・ドイルが、女性監督ジェニー・シュンと共同でメガホンを執った、幻想的でノスタルジックなラブストーリー。物語の舞台は、香港の片隅にある古びた漁村。日光を浴びると痩せ細ってしまう奇病に冒され、ひっそりと生きる16歳の少女が、どこからともなく現れた異邦人への淡い恋心を通して、自身のアイデンティティに目覚めていく。主演を務めたオダギリジョーの掴みどころのない存在感と、次世代アジアンビューティーとして注目される少女役のアンジェラ・ユンの魅力が、繊細で耽美な映像世界と融合して観る者を酔わせる。(min)
2018年12月15日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/香港・マレーシア・日本/97分) 原題:白色女孩 英題:THE WHITE GIRL 監督・脚本:クリストファー・ドイル、ジェニー・シュン 出演:オダギリジョー、アンジェラ・ユン、マイケル・ニン ほか 配給:キノフィルムズ/木下グループ © Pica Pica Media
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『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
シチリアを舞台にした悲しいラブストーリー
1993年に起こった実際の誘拐事件をモチーフにした、少年少女の切ない恋物語。美しい自然の残るシチリアの小さな町で、13歳の少年ジュゼッペが突然失踪する。なぜか大人たちが口をつぐむ中、彼に思いを寄せていた同級生のルナは懸命に彼の行方を追い、真相を知ろうとする……。事件の闇が深くなるほど、ピュアで透明感溢れる2人の恋は輝きを増し、その光は幻想的な世界を作り出す。怒り、恐怖、哀しさ、愛おしさなど様々な感情が押し寄せるとともに、自分自身も森と湖を彷徨っているような浮遊感に包まれる。(吉永くま)
2018年12月22日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/イタリア・フランス・スイス/123分)原題:Sicilian Ghost Story 監督・脚本:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ 出演:ユリア・イェドリコヴスカ、ガエターノ・フェルナンデス、ヴィンチェンツォ・アマート 配給:ミモザフィルムズ ©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM
『クマ・エロヒーム』
異彩を放つ新鋭・坂田貴大監督による近未来SF叙事詩
地球とよく似た惑星を舞台に、管理社会に生きるカップルの孤独を通して普遍的な愛と人間性を描く、23歳の新鋭・坂田貴大監督の意欲作。生と死をコントロールされた近未来の世界で、心を置き去りにされた若い男女の姿を捉える16ミリフィルムの映像が、幻像的でいてどこか物悲しく印象的だ。静寂で色彩を感じさせない世界のなか、秘められた激しさや情念が鮮烈に浮かび上がる瞬間、強烈に心をつかまれ、坂田監督のほとばしる気概と才能を感じずにはいられない。人間の声に最も近いといわれるヴァイオリンの音色が、排除されていく愛やアイデンティティを求める主人公たちの叫びのようで、痛みを伴いながら耳に響き、離れない。(min)
2018年12月22日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定レイトショー 予告編映像 公式Twitter(2018年/日本/76分) 監督・脚本:坂田貴大 出演:村上由規乃、古矢航之介、 高見綾、本田七海、加賀谷健 ほか ©映画「クマ・エロヒーム」製作委員会
『アタラント号』4Kレストア版
夭逝した伝説的映画作家の最後の作品
世界の名匠たちが敬愛するジャン・ヴィゴ監督の遺作。田舎町とル・アーヴル間を往復する艀船アタラント号。乗り込んだのは、船長のジャンとジュリエットの新婚夫婦、老水夫と少年水夫、そしてかわいい猫たち。田舎娘のジュリエットは船内の生活に息苦しさを覚え、こっそり船を降りて夜のパリの街へ出かけてしまう。ジャンは怒り、彼女を置いて出航するが……。相手を思いながら悶える官能シーン、水中の美しい幻影など、80年以上前に作られたとは思えないほど生き生きした描写が印象的。29歳で没し、4作品しか残さなかった監督のその他の作品『ニースについて』『競泳選手ジャン・タリス』『新学期 操行ゼロ』も同時公開される。(吉永くま)
2018年12月29日(土)より全国順次公開 公式サイト
(1934年/フランス/88分) 原題:L’Atalante 監督:ジャン・ヴィゴ 出演:ジャン・ダステ 、ディタ・パルロ、ミシェル・シモン ほか 配給:アイ・ヴィー・シー ©1934 Gaumont
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