第一回監督作品『モーターズ』劇場公開 〜渡辺大知監督インタビュー〜
- 2015年11月14日更新
ロックバンド「黒猫チェルシー」のフロントマンである一方、俳優としても高い評価を得ている渡辺大知氏が、なんと監督としてオリジナル脚本の映画を撮り上げていた!そしていよいよ第一回監督作品『モーターズ』新宿武蔵野館での公開がスタートする。PFFアワード(ぴあフィルムフェスティバル)2014では審査員特別賞を受賞。大学の卒業制作でありながら、主演に実力派俳優・渋川清彦を迎え、整備工場で働くちょっぴり空回り気味の中年男と、一組のカップルの出会いと別れを味わい深く演出している。
劇場公開直前、渡辺監督に本作のエピソードや映画への思いについてお話を伺うことができました。
小説を読み、脚本を書いていた子どもの頃は、漠然と「お話を作る人」になりたかった。
−はじめまして。「ミニシアターに行こう。」と申します。
渡辺大知監督(以下、渡辺):このサイト、みたことがあります。嬉しいです。
−ありがとうございます。ミニシアター作品はよくご覧になるんでしょうか?
渡辺:そうですね。ただ、どこの映画館でかかっている、というのを気にしないというか。大作でもミニシアターでも…自主映画も観ます。大学や、ぴあのフィルムフェスティバルも毎年観ています。
−今回の『モーターズ』もPFFアワード(ぴあフィルムフェスティバル)2014で審査員特別賞を受賞されていますね。初めから応募するつもりでいらっしゃったんでしょうか?
渡辺:それはまったくないです。ぴあの映画祭が好きだったから、一応送っておこうということになって。でも送ったら受かるだろうって自信はあったと思います。この作品は卒業制作として作ったんですけど、どんなに小さい場所でも劇場公開できる作品にしたいということを考えていました。
−卒業制作なんですね。東京造形大学で映画を専攻されていたんですね。
渡辺:そうです。映画の授業で落語やラジオドラマを聴いたり、PVを観たり、幅広くいろんなことをやりました。大学は「映画にしかできないこと」とか「映画も音楽っぽいよね」とかそんな話をしながら、専門的な技術より「映画ってなんで面白いんだろう?」ということを考える場所を与えてくれました。
−脚本は子どもの頃から書かれているそうですね。
渡辺:子どもの頃は脚本家という仕事自体が何なのかよくわかっていなくて、漠然と「お話を作る人」になりたかったんです。小説を読むのも好きでした。小学校の頃は馬鹿みたいに読んでました。一番読んだ時代かもしれません、小学校は6年間もありますから。
田舎でも都会でもなく、海が全く見えない。そういう場所の切なさを撮りたかった
−「小説読み」から映画制作にシフトしていったわけではないんですか?
渡辺:小学生のときは演劇が好きでした。でも演劇は観る場所も限られてるので、だんだんと遠い存在になっていって…中学に入った頃、音楽と出会い、高校でバンドの仲間と出会って、それからは音楽が自分の居場所だと思うようになりました。自分と考えが違う人と戦ったりしながら何かを作ることに、グッときていたんです。その後、映画を観始めたときには「ああ、なんか映画って空気が音楽っぽい!」というインスピレーションを感じたんです。映画は、地元の小さなレンタルビデオ屋で借りてました。僕の住んでるのは田舎で、映画館も遠かったんで、当時はあまり行けませんでした。一番近い映画館に行くだけで往復の交通費が二千円もかかっちゃうんです。
−それは高いですね。お住まいは田舎の方だっておっしゃいましたけど、この映画『モーターズ』にでてくる風景もそんな感じですね。
渡辺:この作品では田舎でも都会でもない場所を撮りたかったんです。「都会まで出ようと思えば出られるけど面倒臭い」位の距離。それから僕の地元は山に囲まれてて、海が全く見えないところだったんですけど、そういう場所の切なさみたいなのを撮りたかったんです。
−工場という設定も、そういうイメージの風景にあったんでしょうか。
渡辺:工場は外からいろんな人が集まってくる場所です。人は来るんだけど、すぐに去っていってしまう、そんな場所。それから整備工場の「直す」いう行為もいいんです。何かを作る工場じゃなくて、車やバイクを直す整備工場がよかった。そこにドラマを感じるんですよ。それから車とかバイクに乗ってる人たちのコミュニティがあるじゃないですか。「ああ、お前も乗ってるの?」というような。そういう共通点も、予期せぬ人同士を引き合わせるでしょう。
−深いですね。ご自身の興味ある世界を凝縮できる設定なんですね。
渡辺:始めに撮りたい空気感があって、それをどうやったら撮れるか逆算して考えていきました。
ぼくも新しい渋川さんを観たかった。そして「自分の観たいもの」を、撮りたかった。
−渋川清彦さん、川瀬陽太さんも工場の風景にぴったりときてました。
渡辺:脚本も設定もができあがってから、渋川さんならバイクにも乗るし、もう役柄にぴったりだなと思ってお願いしました。
−渋川さんは、今回の作品に出てきたような、ユルさをもったかたなんですか?
渡辺:いや、渋川さんは男気があって、器もでかいし、人間の大きなかっこいい人です。今回はそのかっこよさを抑えてもらいました。ユルいというか、同級生の中にいたら本音では「こいつイヤだな」という鬱陶しさとか「こいつバカだな」って思われる感じを出して欲しいってお願いしたんです…かっこよさが出てしまわないように。
−渋川さんのニヤニヤと妄想する表情が印象に残りました。この作品で渋川さんの役者としての印象も、新しいものになるんじゃないでしょうか。
渡辺:それはうれしいですね。渋川さんはちょっと抜けてるところもあるから、素晴らしいんです。ぼくはリスペクトをこめて、最大限その部分を出してもらうよう演出をしました。新しい渋川さんを、ぼくも観たかったんです。自分の観たいものを、ぼくは撮りたかったんです。
−渋川さん演じる田中とヒロインであるミキの出会いがトイレというのが、意味深ですね。
渡辺:しょうもない状況ですよね(笑)。でも人と人が出会うのって、そういう些細な感じがいいんです。
−ミキがトイレの故障をサッと直しちゃう姿、なんだかグッときますね。
渡辺:実はこれは脚本書いてる最中に現実にあったことで、トイレが壊れたとき、友だちが同じように直してくれたんです。そしたらすごくそいつが凛々しく見えちゃって(笑)。それで「こいつが女の子だったらドキッとするかも」と考えて、そのエピソードを速攻、脚本に入れました。ぼくには、女の子を書くのが難しいんです。だからヒロインは「こんな子がいたらいいいな」なんて妄想が入ってる人物像なんです。このヒロインのキャスティングはかなり難航したんですが、木乃江祐希さんは気の強い感じが良くて、会ってすぐお願いしようと思いました。
-この作品にはプロの俳優も演技経験のないかたも両方キャスティングされてますね。
渡辺:ぼくは役者かどうかはあんまり気にしないんです。その役に合ってればいいし、人として好きな人、自分の生活に近い人に出演していて欲しい。ぼくは渋川さんとは、もともとプライベートでも交流がありました。だからオファーしたっていうより、付き合いの中で出演をお願いしたという感じです。川瀬さんも、渋川さんの紹介からつながりました。
40歳になったとき自分で「悪くないな」と思える、そんな男の映画にしたかった
−渡辺監督にとって、渋川さんが演じる主人公の田中はどういう人物像でしょうか。
渡辺:人間ってどんなに立派なことを考えていても、結局ダサい生き物だってぼくは思うんです。「かっこよくいたい」と思っている時点でダサい。でもそのダサさに愛らしさや哀愁があったり、切なさを孕んでいる。ぼくが田中ぐらいの年齢になったとき自分で「悪くないな」と思える、そんな男の映画にしたかったんです。田中の「年とってきたけど、まだ全然大丈夫でしょ?」みたいな感じ。ぼくはそうでいたいんです。50歳になっても60歳になっても、偉ぶったりしたくないと思うんです。
−若者に決して説教しない…そんな感じでしょうか。
渡辺:そうですね。同じ目線で語りたいんです。その人が何歳であろうと、ぼくはリスペクトしたい。
−これから『モーターズ』をご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。
渡辺:人が生きることって、その人に合った生活ができているかどうかが大切なんだと思うんです。幸せはいろんなところに転がっていて、ちょっと下向いたらすぐそこにある。この作品がそんな存在になれたらいいなと思っています。この映画に出てくる人たちは特別なこともなく、ずっと変わらない毎日を過ごしてる連中だけど、日々の生活の中には辛いこともあって、悩んだりもする。でもそれすら楽しめることが幸せなんじゃないかな。この映画を観て、自分の今いる場所とか、今やってる仕事とかを改めて好きになってくれたら…観た人にそういう風に思ってもらえたら、嬉しいです。
《ミニシア恒例、靴チェック!!!》
「普段はこればかり毎日履いています」という渡辺監督の足元は、愛用のコールハーンの靴。しっかり馴染んでいて、さりげないセンスがキラリ。
▼『モーターズ』作品・公開情報
(2014年/83分/カラー)
監督・編集・音楽:渡辺大知
脚本:渡辺大知、磯龍介
出演:渋川清彦、犬田文治、木乃江祐希、前田裕樹、川瀬陽太 ほか
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)2014 team モーターズ
●『モーターズ』公式サイト
11月14日(土)~11月27日(金)新宿武蔵野館レイトショー上映!全国順次公開
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取材・編集・文・撮影:市川はるひ
- 2015年11月14日更新
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