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【実践映画塾 シネマ☆インパクト】 大森立嗣監督コース リポート
- 2012年03月04日更新
13人の映画監督と実際に映画を作りながら学べる、実践的な映画講座・シネマ☆インパクト。
第一期授業がはじまって、既に一ヶ月が過ぎました。
1月30日~2月11日までが大森立嗣監督。
2月13日~26日までが瀬々敬久監督。
2月27日からは鈴木卓爾監督コースがはじまりました。
どのコースも濃密な授業というか、本気の映画制作が行われており、
そこから毎日通いたくなってしまう強い磁力を発しています。
まずは大森監督の授業レポートをお届けします。
「本当に何を思っているか、あるいは何を思っていないのか」
それをさらけ出してほしいと大森監督は、授業の最初に生徒達に向かって言葉を投げかけた。
教室は、廃校になってしまったジャナ専こと日本ジャーナリスト専門学校の一室。エアコンも動かないためストーブを四隅に置いているが、ちょっと寒い。とはいえ、教室いっぱいに座っている、十代から七十代(!)までと層が広く、男女入り乱れた30人の生徒たちは、授業初日で高揚している様子だ。
監督は静かに熱く、彼らを煽る。
「他の人とひとつも混じらない、自分の財産」を見つけよ、と。
「演技の中では何をやってもいいんだ。そういう芝居を引き出せたら」。
そして生徒全員にインタビュー。生徒の履歴書を見ながら質問していく。
大森監督は名インタビュアーだった。
その人が話しやすそうな質問をさりげなく放って、生徒たちの本音をうまく引き出していく。最初、緊張していた生徒たちの口調が監督と会話していく中でみるみる緩んでいった。
確かに、話やすい話をしてる時、人はとても自然に魅力的な表情をする。大森監督はこういう作ってない顔を映画に撮りたいのだろう。
おもしろかったのが、こんなやりとり。
― 好きな食べ物は?
「食べ物ですか? なぜ食べ物? 他のこと聞いてほしいです」
基本的には「なんで俳優をやりたいのか」「好きな映画」などについて聞いていくのに監督はなぜか、メガネをかけた女性には食べ物について聞いた。
― バイトは?
「デパ地下系……」
― 食べ物でしょ?(笑)
「……サラダ屋さんです」
監督が次の人に質問を移そうとして彼女は「食べ物について聞いて終わりですか?」と不満げだったが、監督は「だいたいわかった」と笑った。
本人は物足りないのもよくわかる。けれど、傍から見ていると彼女は印象的な存在になっていた。
また、製薬会社に務めている人には薬の名前を言わせてみる。すると、ふだん言い慣れている単語がスラスラと出て来た。それは奇妙な呪文のようで、耳に残る。
映画監督って人の魅力を見つける才能のある人のことなんだなあとしみじみ感じた。
大森監督が言うには、自分が常にコンプレックスに思って防御していることが芝居にもつい出てしまうのだそうだ。さらけ出すことを覚えれば、それを克服することができる。難しそうだけれど大事なことだと思う。
生徒のひとり、三坂賢二郎さんは、「自分を壊したくて、大阪から授業を受けに来た」と言う。子供の時から日本舞踊を習っていて、歌舞伎も好きで、型の世界で生きてきた。でも、この型から脱したい。そう言う三坂さんは姿勢もよくハキハキした発声をしている。いわゆるスクエアな感じの人だった。
「そういうの、なかなか壊せないんだよねえ」と監督。果たして、彼は、二週間後に自分を壊せるだろうか?
ポスト自然ぽい演技へ
「さらけ出す」課題として選ばれたテキストは、性的な問題を描いたものだった。男性用には、オールビーの戯曲『動物園物語』をベースにして場所を日本に置き換えて書かれたもの。女性用にはジャン・ユスターシュ監督の『ママと娼婦』をベースにした『マリの部屋』というもの。これを覚えて、みんなの前で演じてみる。
『動物園物語』のようなふたり芝居を、隣のスタッフルームから聞いていた山本政志監督は「なんで、演劇やってるんだッ!」と声を上げていたけれど……。大森監督のねらいは「プライベートに密接に関わってくるものをやること」。
なかなかハードルの高いテキストだ。性体験を赤裸々に語るというのは、演技といえども躊躇する。淡々として演じてしまう人、妙に作り込んだ芝居になってしまう人、などがいた。監督はその都度、生徒たちと話し合って、芝居の精度をあげていった。生徒と一緒に床(けっこう冷たいらしい)にベタッと座って、同じ目線で語り合う。
「90年代以降、浅野忠信君の影響で自然な芝居が流行っていた。カメラも小さくなって、描く世界も狭くなっていった。でも、今、園子温監督の映画がヒットしている時代だよ。浅野君の芝居も変化しているし。自然な芝居にダサさを感じる。実は下手な人ほど自然っぽい芝居をする。感情を出すことのほうが力量がいるんだよ」と監督は生徒達に話しかけた。
この現状認識はとても興味深い。小さな世界の中の自然な演技から、もっと別の世界へ ― 。時代は変わりはじめているのだろうか。
その後、監督は生徒たちとのディスカッションを経て、映画の台本を書き上げる。そこにはかなりクレージーな世界が広がっていた(詳細は完成をお楽しみください)。
13人の監督による一連のこのプロジェクトは、早稲田~雑司ヶ谷界隈をロケ地にということだったが、大森はジャナ専の中だけで撮ることを選択。そのほうが、2日間という短期間で撮影を終らせるためには効率がいい。
ジャナ専のビルの地下から4階までをふんだんに使って撮影が行われた。血糊を使う発砲シーンやホンモノの鶏を出すなど、撮影の醍醐味を生徒たちに味わわせることも忘れない。
大量のパソコンをぶっ壊したり、クライマックスの部屋をハデに飾り込み、そこで狂乱を巻き起こしたり、ゾンビのようなメイクを施したり、徹底的にめちゃくちゃをやっている。撮影現場で目を丸くしているこちらに向かって「すごいことになっているでしょう」と監督は楽しそう。
「予算がけっこうかかった」とスタッフの吉川正文さんは心配顔だが、監督は、劇中登場する車椅子にカメラマンを乗せて移動撮影を行うなど、制約の中で工夫もこらしている。
技師たちは大森組のスペシャリストが集まった、かなり贅沢な座組だ。わずか2日の撮影なのに、制作クラスの生徒たちがとてもキビキビと動けるようになっていっていることもたのもしい。
さて、初日に「自分を壊したい」と言っていた三坂さんは、なんと女装の役(かなりの美女ふう)。「この格好で隣のスーパーに買い物に行った時に壊れた気が……。この授業は収穫でした。感動の連続」と満足そうに微笑んだ。
カメラはCanon EOS 7D。とても小型だけれど、きっと、演者たちの激しく大きな感情の変化をしっかり映し出しているはずだ。
※このワークショップの詳細・受講申し込み方法等は、「シネマ☆インパクト」公式サイトをご参照ください。
取材・編集・文・スチール撮影:木俣冬
- 2012年03月04日更新
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