4月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2025年03月31日更新
4月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE UP 4/4(金)公開『終わりの鳥』 4/4(金)公開『HERE 時を越えて』 4/11(金)公開『シンシン/SING SING』 4/11(金)公開『Page30』 4/18(金)公開『KIDDO キドー』 4/18(金)公開『104歳、哲代さんのひとり暮らし』 4/25(金)公開『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』 公開日未定『ただ、愛を選ぶこと』 |
『終わりの鳥』
余命わずかな少女の前に現れた死の象徴
15歳の少女、チューズデーは病魔に侵され、死期が間近に迫っていた。母親のゾラはそんな娘と一緒にいるのがつらく、仕事と偽って出かけては、公園のベンチで居眠りをして過ごしていた。だが母親不在のある日、チューズデーの前にDEATHと称する鳥が「終わり」を告げに現れる。クロアチア出身のダイナ・O・プスィッチ監督の長編第1作で、死を前にした娘と母との葛藤を驚天動地の映像で紡ぎ出す。死を象徴する鳥は、耳に入るほどの小ささから天井につかえるくらいまで変幻自在にサイズを変え、娘を死に渡すまいと抗うゾラとのバトルは、戦慄と抱腹とが同時に襲ってくるほどの破天荒さだ。DEATHと向き合う大半の人はすでに生きる望みを失っているが、チューズデーはそれでも生きたいと願い、かなわないなら母親には自分の分まで前向きに生きてほしいと言う。わが子に背中を押される親の成長譚は異色だし、それをこんな異次元の描写で表現したプスィッチ監督の才覚にうなった。(藤井克郎)
2025年4月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/イギリス、アメリカ/110分)原題:TUESDAY 監督・脚本:ダイナ・O・プスィッチ 出演:ジュリア・ルイス=ドレイファス、ローラ・ペティクルー、リア・ハーヴィ ほか 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024
『HERE 時を越えて』
定点観測でつづる太古からの愛の物語
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督が、またも時間を超越した珠玉の愛の物語を紡ぎ出した。舞台は地球上のとある地点。恐竜が跋扈する太古から氷河期、先住民族の営みを経て、1907年に家が建つ。第二次世界大戦後にこの家を買ったのは、戦地から帰還したアルとローズの夫婦だった。やがて長男のリチャードが成人してマーガレットと結婚。画家を目指していたリチャードは堅実な生活を選び、夢を諦める。カメラは終始、この場所から一歩も動くことなく、気の遠くなるような時間の流れを写し取る。時代のトピックと人々の思いが時系列ではなくアトランダムにつづられることで、今を生きる私たちも長い時のうねりの一片に過ぎないことに気づかせてくれる。核となるリチャードとマーガレット夫妻を若かりしころから演じたトム・ハンクスとロビン・ライトのあまりにも自然な変容ぶりに、ゼメキス監督お得意の映画魔術を見た。(藤井克郎)
2025年4月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アメリカ/104分)原題:HERE 監督・共同脚本:ロバート・ゼメキス 出演:トム・ハンクス、ロビン・ライト、ポール・ベタニー、ケリー・ライリー ほか 配給・キノフィルムズ ©2024 Miramax Distribution Services, LLC. All Rights Reserved.
『シンシン/SING SING』
刑務所内の演劇活動に取り組む一人一人の個性
舞台は米ニューヨーク郊外に実在するシンシン刑務所。無実の罪で収監されているディヴァインGは、芸術を通じての更生(RTA)プログラムの演劇活動に取り組むことで、わずかばかりの生きる気力を保っていた。次回公演の準備を進める中、Gは刑務所随一の悪党と恐れられているディヴァイン・アイに声をかける。演劇グループに参加することになったアイだが、他のメンバーたちとの溝は深かった。Gを演じたコールマン・ドミンゴ以外の大半のRTAメンバーは、実際に刑務所に収監されていたRTAの経験者で、車座になって理想の居場所を語る場面などリアリティーにあふれている。グレッグ・クウェダー監督は、手持ちカメラを駆使して一人一人の表情を真正面から捉えるなど、個性あふれる内面をのぞき見るようにすくい取る。同じ犯罪者として画一的に見られがちな世間に対する痛烈な皮肉が込められているように感じた。(藤井克郎)
2025年4月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/アメリカ/107分)原題:SING SING 監督・脚本・製作:グレッグ・クウェダー 出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ ほか 配給:ギャガ © 2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.
『Page30』
閉ざされたスタジオで積み上げる3日間の舞台稽古
DREAMS COME TRUEの中村正人がエグゼクティブプロデューサーを務め、『SPEC』シリーズの堤幸彦の原案、監督で、ジャズピアニストの上原ひろみが中村とともに音楽を手がける実験的な意欲作。東京・渋谷に新たに誕生するテントシアター、渋谷 ドリカムシアターなどで公開される。閉ざされたスタジオに4人の女性が集められた。30ページの台本を渡され、3日間の稽古で舞台本番に臨むよう告げられる。配役は未定で、全員がすべてのせりふを覚えなければならない。演出家もいない中、立場も実力もばらばらの4人が、いがみ合い、ののしり合いながら稽古を重ねていく。4人を演じる唐田えりから4人の役者が、役柄とシンクロして虚実皮膜の芝居を積み上げる過程がすさまじく、一瞬も目が離せない。中でも本来は歌手のMAAKIIIの変容ぶりはあっけに取られるほどで、奇跡の瞬間を目撃したような気がした。(藤井克郎)
2025年4月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/113分) 原案・監督:堤幸彦 出演:唐田えりか、林田麻里、広山詞葉、MAAKIII 配給:DCT entertainment, Inc. © DCTentertainment
『KIDDO キドー』
おんぼろ車で東に向かう型破りな母と娘の二人旅
オランダの児童養護施設にいる11歳のルーの元に、離れて暮らす母親のカリーナが突然やってくる。ハリウッドスターを自称するカリーナはルーを勝手に連れ出し、ポーランドのおばあちゃんに会いに行くと告げる。施設の規則のことが心配なルーにお構いなく、カリーナはボニーとクライドを気取っておんぼろ車を東へと走らせるが……。これが初長編となるオランダの新星、ザラ・ドヴィンガー監督は、ボニーとクライドを描いた『俺たちに明日はない』に代表されるアメリカン・ニューシネマの質感を醸しつつ、親子の型破りな二人旅を珠玉のせりふをちりばめて編み上げる。カリーナがわが子に教える絶対にやってはいけないことの3つが、暴力とドラッグと「もう一つは忘れた」だけに、不穏な展開でもそう大したことは起きない。自分と娘、母と自分という2つの親子の距離感を巧妙に対照させたドヴィンガー監督の繊細な感性に目を見張った。(藤井克郎)
2025年4月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/オランダ/91分/PG12)原題:KIDDO 監督・脚本:ザラ・ドヴィンガー 出演:ローザ・ファン・レーウェン、フリーダ・バーンハード、マクシミリアン・ルドニツキ ほか 配給:カルチュアルライフ © 2023 STUDIO RUBA
『104歳、哲代さんのひとり暮らし』
地域の人々と溶け合って生きる魅力的な笑顔
広島県尾道市の山あいに住む石井哲代さんは、100歳を過ぎた今も一人で暮らしている。83歳のときに見送った夫の良英さんとの間に子はなく、近くに住む姪たちがときどき訪ねてきては面倒を見てくれるものの、基本は一人で出かけ、一人で料理を作り、一人で食べる。そんな哲代さんの101歳からの日常を捉えたドキュメンタリーで、広島県出身の山本和宏監督が中国放送のテレビ企画として取材を始めた。小学校の教師だった哲代さんは今でも美しい字で日記をつづり、かつての教え子の米寿を記念した同窓会では『仰げば尊し』を自ら指揮する。取材スタッフにも気を遣いつつ、お菓子や果物を気軽に振る舞うなど、誰に対しても分け隔てなく笑顔で接する姿は魅力的で、こんなふうに年齢を重ねたいと思わずにはいられない。病院の職員や仲よしクラブのメンバーといった地域の人々との溶け合い方に、超高齢化社会を楽しむヒントが隠されていると言えそうだ。(藤井克郎)
2025年4月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/94分) 監督・編集:山本和宏 ナレーション:リリー・フランキー 配給:リガード ©「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
『今日の空が一番好き、 とまだ言えない僕は』
緩いギャグがちりばめられたシリアスな恋愛模様
お笑いコンビ、ジャルジャルの福徳秀介のデビュー小説を原作に、『私をくいとめて』などの大九明子監督が、おかしみとシリアスさを絶妙に絡めた青春映画を織り上げた。大学生になった小西は、いつも大教室を真っ先に出ていく女子学生のことが気になっていた。学食で一人そばを食べているちょっと風変わりな彼女に、小西は思い切って声をかける。すんなり仲良くなった彼女は桜田と名乗り、「今日の空が一番好き、って思いたい」との亡き父の教えを口にする。小西が晴れていても傘を差していたり、行きつけの喫茶店のメニュー名が変てこだったり、全体にちりばめられている緩いギャグと、2人を中心としたちょっと重めの恋愛模様のギャップが不思議なコントラストを描く。何より、小西役の萩原利久、桜田役の河合優実、それに小西のバイト仲間を演じる伊東蒼の若手実力派3人の全身全霊を傾けた壮絶な表現力に魂を揺さぶられた。(藤井克郎)
2025年4月25日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/127分) 監督・脚本:大九明子 出演:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代 ほか 配給:日活 ©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
『ただ、愛を選ぶこと』
森の中で伸び伸びと育つ子どもたちに起きたこと
ノルウェーの森の中の小さな農場で自給自足の暮らしを選択したある家族を見つめたドキュメンタリー。ペイン一家は物質主義に支配された都会を離れ、自由で伸び伸びとした生活を送り始める。子どもたちは学校に行かず、自宅で学習するホームスクーリングを受けるが、写真家で稼ぎ頭だった母親のマリアががんで他界。マリアの連れ子だった長女は実の父の元に移り、一人で農場を運営できない父親のニックは、下の子ども3人を連れて街の近くに引っ越す。学校に通うことになった3人の子は初めて友達ができるが、一方でゲームやテレビのとりこになっていく。シルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン監督は、マリアが残した写真や動画も駆使しつつ、まるでカメラなど存在しないような親密さでペイン一家に肉薄する。ペイン家一人一人の思いと同時に、家族とは、教育とは、そして生きるとは、といった普遍的な問いが心に迫る。(藤井克郎)
2025年4月、全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/ノルウェー/84分)原題:Ukjent landskap 英題:A NEW KIND OF WILDERNESS 監督:シルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン 出演:ニック・ペイン、ロンニャ、フレイア、ファルク、ウルヴ、マリア・グロース・ヴァトネ 配給:S・D・P © A5 Film AS 2024
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