【スクリーンの女神たち 特別編】安楽涼監督が語る “大須みづほの魅力” と “今の自分”

  • 2022年11月12日更新

【スクリーンの女神たち】記念すべき第10回のゲストとしてご登場いただいた、大須みづほさん。ご本人のインタビューに続いては、長編監督デビュー作『1人のダンス』から多くの作品で大須さんとタッグを組んできた安楽涼監督に、「役者・大須みづほ」「人間・大須みづほ」の魅力を語っていただきました! さらに、人生の区切りとして撮り上げた自伝的長編映画『夢半ば』の公開を迎えた安楽監督自身についても伺いました。


ちゃんと我が強くて、僕の映画に出てくるなかで一番軽やかな人

― 安楽監督から見た、「役者・大須みづほ」の魅力を教えてください。

安楽涼監督(以下、安楽):ちゃんと我が強くて、納得しないと演じてくれないところですね。「ここでこうする理由」をちゃんと伝えれば、フリをするのではなく、本当に自分がそう思っているようにカタチにもしてくれる。それはすごい才能だと思います。逆に、大須さんがフリで演じると僕は一瞬で良くないとわかるので、ちょっと軌道を変えると抜群に良くなったりもする。そんな風に役の気持ちを芯から整理する人は稀だと思います。あと感覚が鋭くて、熟考しながらも直感的に役を理解したり判断したりできる人だと思います。

― 「人間・大須みづほ」の魅力も教えてください。

安楽:喜怒哀楽が、全部直線的なところです。怒ることができないから無理に笑うとかをしない。僕の好きな“青さ”に直結する部分かもしれないけど、例えば赤ちゃんがそうであるように、「さっきは泣いていて、さっきは笑っていたじゃん」みたいな、感情に素直なところが一番魅力的だと思います。

『夢半ば』での、大須さんはいかがでしたか。

安楽:『夢半ば』は、大須さんの感情から生まれたシーンも多いんです。自分がイメージしていたものと違う表現をして、何度もびっくりさせられました。「そうじゃないんだよな」って一度は思うんですけど、大須さんに「なんでそうなるの?」って聞くと、納得する理由がちゃんとある。僕が描いたみちこは僕のイメージでしかなくて、みちこを作りあげてくれたのはやはり大須さんです。それと、僕の映画に出てくるなかで、一番軽やかな人。僕だけだと重苦しくなるシーンも、大須さんが入ると緩和される。そこはすごくいいと思いますね。

何でも話すことで一回冷静になれる

― 大須さんに、一番感謝していることは?

安楽:『夢半ば』が作れたことですね。そもそもリュウイチとDEG以外と映画を撮るとも思っていなかったし、ましてや女性と映画を撮るなんてことは絶対にないと思っていたので(笑)。

― 安楽監督はこれまで怒りや苛立ちを源泉に、自身の“青さ”やリュウイチさんDEGさんと過ごした“西葛西”をアイデンティティーとして作品を描いてきました。言葉を選ばずに言えば、そこにしがみついてもいたのかなと思うんです。

安楽:いや、その通りだと思います。

― だけど本作では、抗い難い感情の一つとして “おだやかさ” も受け入れた。私自身、青くさい安楽涼が好きだし、一抹の寂しさも感じたけれど、映画を作るなかで大切な人が増えていって、自然と周囲の人にも目を向けるようになった姿を見て、とても幸せな気持ちになりました。そういう部分でも、大須さんの影響は大きいのかなと思いました。

安楽:すごく大きいと思います。何かあっても、今は話し相手がいるので怒りが収まるというか、話すことで一回冷静になれるんです。だから人に目を向けられるようになったし、他人に興味を持つようにもなったと思います。

『夢半ば』は、他人を見たり見なかったりする映画なんです。自分を演出する上で、「何を見て、何を見ないか」だけは撮影前から決めていました。みちことは向き合って話す、柳谷(⼀成)と会ったシーンはヒリヒリしている時期だったから、本当はあまり話したくなくて目を見ずにしゃべる、DEGにも後ろめたい気持ちがあるから目は見ないとか。

「俺、もう早歩きしてないや」

― 安楽監督の作品には常に疾走感がほとばしっていたけど、今作では時間が少しゆっくり流れているような印象です。

安楽:予告編にも出てきますけど、僕が歩いているところをみちこに呼び止められるシーンがあるんです。ずっとせかせか早歩きで生きてきたけど、ふと「俺、もう早歩きしてないや」って思ったんですよね。1人で歩いてきた僕が、声をかけられて足を止めるまでがこの作品のテーマでもあるし、もしそういう出会いがなかったら、きっとずっと『1人のダンス』だったと思います(笑)。

今だって怒りはあるし、納得いかないことがあればキレるし、リュウイチとDEGからは、「あんぼーは愛情の表現が変わっただけで、全然変わってねぇよ」とか、「その時どきの正直な気持ちを描いているだけで、たまたま今の正直な気持ちがこうなだけっしょ」って言われるし、自分でもそう思います。でも、一旦冷静になれるようになって、怒りの出し方は変わりました。いつかまた怒りをテーマに映画を撮るかもしれませんが、今の正直な思いを描いたのがこの作品です。

⾜を⽌めた。歩きつづけるために。

【STORY】映画監督の安楽は30 歳を⽬前で映画が撮れなくなってしまった。憧れでありともに映画を作ってきた地元⻄葛⻄の友⼈リュウイチは結婚を機に地元を離れた。同棲して4年になるみちことは結婚の話も浮上している。今撮りたいものは何なのか。友⼈と掲げ た夢は終わってしまうのか。安楽は撮る事を通して⾃らを模索していく……。

(取材:富田 旻 インタビュー撮影:ハルプードル)

<【スクリーンの女神たち】大須みづほさんインタビュー

作 品 概 要

▼『夢半ば』
映画『夢半ば』ポスター画像(2022年/135 分/5.1ch/アメリカンビスタ/DCP)
出演:安楽涼、⼤須みづほ、DEG、RYUICHI、⻑尾卓磨、ジジ・ぶぅ、柳⾕⼀成、MEEKAE 、⼤宮将司 、江⽥來花 、ジン クー、⽚⼭享 ほか

監督・脚本:安楽涼
プロデューサー:髭野純 監督補・共同脚本:⽚⼭享
撮影・照明:深⾕祐次 録⾳・MA:坂元就
⾳楽:菅原慎⼀ エンディング曲:RYUICHI「夢半ば」
編集:⼤川景⼦ スチール:杉⽥協⼠ 宣伝デザイン:中村友理⼦ (HOOH)
英訳:服部きえ⼦  助成:⽂化庁「ARTS for the future!」
補助対象事業 製作・制作:すねかじりSTUDIO
配給・宣伝:すねかじりSTUDIO/イハフィルムズ

『夢半ば』公式Twitter

『夢半ば』ポレポレ東中野 公開スケジュール

1112日(土)〜1125日(金) 連日20:20の回

1126日(土)〜122日(金) 連日20:30の回

 

◆こちらの記事もオススメ

  • 2022年11月12日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2022/11/12/55982/trackback/