6月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2020年06月01日更新
6月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 6/5(金)公開 『燕 Yan』 6/13(土)公開『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』 6/13(土)公開 『君がいる、いた、そんな時。』 6/13(土)公開『なぜ君は総理大臣になれないのか』 6/19(金)公開『サンダーロード』 6/26(金)公開『悪の偶像』 更新情報:6月27日に『悪の偶像』を追加掲載しました。 |
※公開日は変更になる場合がございます。最新情報は各作品の公式サイト、SNSでご確認ください。
『燕 Yan』
日本人、台湾人の両側面を巧みに表現
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『デイアンドナイト』などで撮影監督を務めた今村圭佑初監督作。建築設計事務所で働く燕は、病気がちの父から、台湾の高雄に住む燕の兄のもとへ書類を届けるよう頼まれる。台湾人の母は、燕が5歳のときに兄だけを連れて台湾に帰っていった。わだかまりをぬぐえないまま、燕は20年以上会っていない兄と再会すべく、高雄へと旅立つ。今村監督は若手ながら評判のカメラマンだけあって、光と影のコントラストがすばらしく、高雄の温もりのある風景を見事に切り取る。中でも燕を正反対の角度からとらえた切り返しのショットが印象的で、日本人、台湾人の両側面を巧みに表現。常に淡々とした表情の燕が最後に見せる感情の起伏にも心を揺さぶられた。(藤井克郎)
2020年6月5日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2019年/日本/86分) 監督・撮影:今村圭佑 出演:水間ロン、山中崇、一青窈 ほか 配給:catpower © 2019「燕 Yan」製作委員会
『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』
一時代を築いたヌーヴェル・ヴァーグの女神の軌跡
昨年、80歳を前にしてこの世を去ったヌーヴェル・ヴァーグの女神、アンナ・カリーナ。本作は彼女の生前に、パートナーのデニス・ベリー監督により撮影された、その人生を辿るドキュメンタリーである。祖国デンマークでの孤独な少女時代、夢を求めてやってきたパリでのゴダールとの出会いと別離、各国の監督の映画への出演や音楽活動……。監督自身が「アンナへのラブレター」だというこの作品には、人を惹きつけてやまない女優の魅力が閉じ込められている。誰もいない映画館の座席で一人、若かりし頃の映像を見ながら変わらぬ大きな瞳を潤ませる晩年のアンナ。彼女はスクリーンに映る自分自身に何を感じたのだろうか。その姿を含め、すべてを心に刻みつけたい。(吉永くま)
2020年6月13日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2017年/フランス/55分)監督:デニス・ベリー 配給:オンリー・ハーツ © Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017 ※今年限りの特別公開
『君がいる、いた、そんな時。』
子どもたちが仕掛けるさわやかな後味
広島県呉市在住の迫田公介監督が、地元を舞台に初の長編映画に挑んだ。小学6年生の正哉は母親がフィリピン人で、クラスではいつもからかわれる存在。唯一の心のよりどころは新任司書の祥子と過ごす図書室だったが、もう1人、クラスで浮いていた放送委員の涼太も祥子に接近していた。個性が強いというだけで生きづらい今の子どもたちを取り巻く日本の状況を、呉の街の素朴なたたずまいの中で丁寧に描く。今日的な社会問題も盛り込んで、子どもが直面する課題に真正面から向き合おうという真摯な姿勢に好感が持てる。支えになってくれていた祥子の心の傷を知って2人で仕掛ける冒険はいかにも映画的で、さわやかな後味を漂わせる作品に仕上がっていた。(藤井克郎)
呉、広島での先行上映に続き、2020年6月13日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/85分) 監督・脚本・プロデューサー・編集:迫田公介 出演:マサマヨール忠、坂本いろは、小島藤子 ほか 配給:とび級プログラム © とび級プログラム
『なぜ君は総理大臣になれないのか』
初志を貫こうとする熱い政治家の17年
当選5期、現在49歳の小川淳也衆議院議員を、初出馬から17年にわたって追いかけたドキュメンタリーで、図らずも今の日本を覆う絶望的な政治状況、社会状況が浮き彫りになる。大島新監督は2003年、妻と高校で同学年だった小川が官僚を辞して衆院選に出馬すると聞き、何気なくカメラを向けた。地盤も看板もない小川は、ただ社会をよくしたいという純粋な思いだけで政治家を志すが、いろんなしがらみや政治信条とは次元の違う力学に翻弄され、挫折を味わう。それでも人一倍の努力を重ね、初志を貫こうとする熱い姿には感動を覚えずにいられない。新型コロナウイルスで世界全体が変革を求められるこれからの世の中には、こういうリーダーが必要なのではないかと感じた。(藤井克郎)
2020年6月13日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/119分) 監督:大島新 配給:ネツゲン © ネツゲン
『サンダーロード』
純粋なほど、痛々しく、切なく、おかしく。
2016年サンダンス映画祭でグランプリを受賞した“12分間ワンカット”の短編『Thunder Road』を長編化し、2018年SXSW映画祭のグランプリほか、各国の映画祭で絶賛された注目作。監督・脚本・編集・音楽・主演の5役を務めるのは、米インディーズシーンを中心に活躍する気鋭ジム・カミングス。母の葬儀の日、悲しみをうまく言葉にできない主人公のジムは、彼女が敬愛したブルース・スプリングスティーンの名曲「涙のサンダー・ロード」に合わせて踊ることに……。真剣に母への思慕を表現しようするジムと、シュールな光景に苦笑するしかない参列者たち。何をやっても空回りの人生の根底にあるのは、不器用な純粋さ。切なさとおかしみが同居するオフビートな人間ドラマのなか、娘だけは幸せにしたいと奔走するジムの愛に、心をぎゅっとつねられる。本作の基となった短編も、現在ネットで無料公開中なのでぜひ、チェックを!(min)
2020年6月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画 『サンダーロード』短編(期間限定/字幕なし)
(2018年/アメリカ/92分)原題:Thunder Road 監督・脚本・編集・音楽・主演:ジム・カミンジム・カミングス 出演:ケンダル・ファー、ニカン・ロビンソン、ジョセリン・デボアー、チェルシー・エドマンドソン、メイコン・ブレア、ビル・ワイズ 配給:ブロードウェイ
『悪の偶像』
コリアン・ノワール映画好き必見! 圧巻の衝撃作
『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2013)で高い評価受け、巨匠マーティン・スコセッシが次回作を熱望したという新鋭イ・スジン監督の、待望の長編第2作。韓国を代表する実力派俳優ハン・ソッキュとソル・ギョングが、ひき逃げ事件の「加害者の父」と「被害者の父」役でW主演を務める。さらに、事件のカギを握る「消えた目撃者」を『哭声 コクソン』などで注目される若手演技派女優チョン・ウヒが演じ、3人の鬼気迫る演技バトルに圧倒される衝撃作だ。エリート官僚、しがない労働者、中国からの不法移民女性——それぞれの立場から予想外の方向へ転がっていく3人の運命。それは、本当に抗いがたいものだったのか? もどかしさと疑問を投げかけつつも、心の中に作り出した「偶像」にすがることで自らを正当化し、煩悶から逃避しようとする弱さと愚かさは、普遍的な“人”の姿ともいえる。モラルという一線を越え転がるように狂気を肥大させていく二人の男と、ナチュラルに凶暴性をはらんだ女。人間の奥底にある闇を、容赦なくあぶり出すコリアン・ノワール映画からまた一つ力作が誕生した。圧巻!(min)
2020年6月26日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/韓国/144分)原題:우상 英題:IDOL 監督・脚本:イ・スジン 出演者:ハン・ソッキュ、ソル・ギョング、チョン・ウヒ ほか 配給:アルバトロス・フィルム © 2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved
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