『星に語りて~Starry Sky~』— 未曾有の大震災直後、“障害者が消えた”のはなぜか? 多くの人が知るべき真実を基に描くヒューマンドラマ
- 2019年04月08日更新
2011年3月11日14時46分。マグニチュード 9.0という日本の観測史上最大規模の地震が発生し、その影響により、岩手県、宮城県、福島県を中心とする太平洋沿岸部が巨大な津波に襲われた。東日本大震災、この未曾有の大災害による死者・行方不明者は1万8千人を超え、被害を免れた人も目を疑うような被災地の光景をテレビや新聞やインターネットの報道で目の当たりにしたことだろう。
しかし、障害のある人の死亡率が、障害を持たない人の約2倍であったという事実を知っている人は、ごくわずかなのではないだろうか……。 現在、吉祥寺アップリンクにて公開中(以降、全国順次公開)の劇映画『星に語りて~Starry Sky~』は、障害をもつ人々の震災直後の状況と支援者の活動を綿密に取材し、その事実を基に描いたヒューマンドラマだ。
本作は、成人期の障害者を支援する事業所の全国組織である「きょうされん」の結成40周年記念映画として製作され、脚本は自らも被災を経験した漫画家の山本おさむ氏が務める。メガホンを執ったのは、大林宣彦監督作品の監督捕にも従事し、ドキュメンタリードラマや短篇映画で注目を集める気鋭、松本動(ゆるぐ)監督だ。
避難所にいない障害者の捜索と、個人情報保護法の壁
岩手県陸前高田市の高台にある障害者の共同作業所「あおぎり」では、直接的な津波の被害を免れたものの、仲間の一人を失ってしまう。利用者たちが気落ちするなか、女性所長は皆を懸命に励まし、一日も早く日常を取り戻せるようにと奮闘していた。 その頃、「全国障害者ネットワーク」は、日本各地のグループと連携して支援活動を開始する。しかし、「障害者が消えた」という不可思議な情報が入り、実際に避難所を回ると、障害のある人がほとんど居ないという現実に直面する。
一方、福島県の南相馬市では、原発事故により多くの近隣住民が避難を余儀なくされていた。そんななか、共同作業所「クロスロードハウス」の代表らは、放射能の危険と闘いながら、避難出来ずに取り残された障害のある人たちの支援と捜索を続ける。安否確認のためには、障害のある人の住所などの情報が必要だが、個人情報保護法を理由に役所からは開示を拒否されてしまう。法律により守られる人権は支援の障壁となり、一刻を争う人命救助との狭間で苦しむ支援員たち。被災した障害のある人たちの身には何が起きているのか。その真実とは……?
“障害者が消えた”とはどういうことか?
避難所を回っても障害者がいない——なぜか? そこには、いたたまれない現実的な理由があった。身体的理由により移動が不可能だった人、一度は避難所に行ったものの障害を理解してもらえず、周囲の人々の足手まといとなると危惧した人、実際に邪険にされた人、家族に置いていかれた人……それぞれの理由から、孤独と不安に耐えながらも、避難所に居場所を見つけられず、半壊の家に留まることを選ばざるを得なかった。
誰もが自分や家族の身を守ることに必死ななか、誰もが平常心を保つのが難しい厳しい状況のなか、他人の痛みを思いやることは難しい。しかし、それ以前に「知らない」という事実が、障害を持つ人々への意識と、他者を思いやる小さな気遣いを遠ざけていたのではないだろうか。
“知ること” から始めてみよう
東日本大震災のあと、震災を題材にした映画が数多く作られた。もちろん映画だけではなく、さまざまな支援活動が行われた。そのすべてを網羅することは不可能だ。どこから知ればいいのか、途方に暮れている人もいるかもしれないし、重いテーマの映画を観たくないと思う人もいるだろう。しかしながら、本作はそうした人にこそ観てほしい作品だ。骨太なメッセージを、分かりやすく見ごたえのあるドラマとして描き、老若男女を問わず入り込める物語になっている。螢雪次朗や、赤塚真人をはじめとする実力派の役者陣やオーディションで選ばれた障害当事者たちの演技も魅力的で、映画としての完成度もメジャー配給の作品に引けをとらないものだ。
誰かを救おうとはじめから気負う必要はない。難しいテーマだと構える必要もない。まずは、「知ること」から始めてみてはどうだろうか。知識は意識となり、いつか誰かに差し伸べる強く優しい手となるかもしれないのだから。
< 松本動 監督メッセージ>
私が強く願うことは、この映画を障害者福祉へ関心の無い人たちにこそ、ぜひ観てもらいたいという思いです。 私はこの映画に携わるまで、恥ずかしながら自分もその一人でした。 普段、障害のある人と接点が無い人たちは、きっと私と同じでしょう。 ですから、そんな人たちがこの映画を観て実情を知ってくれれば、きっと障害のある人たちの存在を意識し、関心を持ってく れるはずです。 人は、いつ障害を持つかわかりません。 それは病気や事故によるものかもしれませんし、健康である人も、歳を取ると共に何かしらの障害がある人になり得るのです が、それに気づいていない人たちが大勢いるのです。 この映画は、過去の東日本大震災を描きながら、すべての人にいずれ訪れる、未来の有り様をも描いています。 私はこの『星に語りて~Starry Sky~』を、一人でも多くの人に観てもらい、その真実を知っていただきたいのです。そのためにも、障害のある人たちを描く作品というと、教育映画的になりがちですが、一つのヒューマンドラマとして、見応えのある魅力的な作品創りを心掛けました。
>>映画『星に語りて~Starry Sky~』予告編<<
▼『星に語りて~Starry Sky~』作品・公開情報
(2019年/日本/115分/DCP/5.1ch)
※バリアフリー上映対応
監督:松本動
脚本:山本おさむ
製作統括:西村直
企画:藤井克徳
音楽:小林洋平
制作プロダクション:ターゲット
出演:要田禎子、螢雪次朗、今谷フトシ、植木紀世彦、枝光利雄、菅井玲、入江崇史、宮川浩明、生島ヒロシ、赤塚真人 ほか
製作:きょうされん
※2019年4月5日(金)アップリンク吉祥寺にて公開、全国順次上映開始
【今後の上映予定 ※自主上映会】(2020.2.29更新)
※新型コロナウイルス流行の影響などによる延期・中止の情報も含め、最新上映予定、上映時間や入場料などの詳細は映画公式サイトよりご確認下さい。
文:min
- 2019年04月08日更新
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