『タリーと私の秘密の時間』— 家事育児に疲れ果てた主婦がミステリアスなベビーシッターから贈られたものは?

  • 2018年08月13日更新

映画『タリーと私の秘密の時間』メイン画像「今の私は昔なりたかった自分ではない」と悶々とする、あるいはそれさえも考える時間的・精神的余裕がない毎日。そんな状況に心当たりのある大人にぴったりの人間ドラマ。『JUNO/ジュノ』『マイレージ・マイライフ』でアカデミー賞にノミネートされたジェイソン・ライトマン監督が、シャーリーズ・セロンと『ヤング≒アダルト』に続いて再タッグを組んだ。

 

謎めいたスーパーベビーシッター

映画『タリーと私の秘密の時間』サブ画像1仕事・家事・育児に孤軍奮闘してきたマーロ。夫は優しいけれど、家事育児は彼女にまかせきり。3人目の子供が生まれると、さらにマーロの仕事は増え、ついに彼女の心は折れてしまう。そんな彼女のところに夜だけのベビーシッター、タリーがやってくる。

タリーはファッションも口調も今どきの若者だが、仕事は完璧で、さらにマーロの悩みの相談にものってくれる。タリーのおかげでマーロは元気と笑顔を取り戻していく。ただ不思議なことに、タリーは何があっても夜明け前には姿を消し、自分のことはなにも語らない。彼女はいったい昼間何をしているのか、なぜマーロの前に現れたのか-。

リアルな描写とミステリアスな展開が同居する

映画『タリーと私の秘密の時間』サブ画像2作品の核となる部分のアイデアは、プロデューサー兼脚本家のディアブロ・コディが、3人目の子供を出産した後に生まれたという。マーロの奮闘ぶり、疲労困憊ぶり、心理描写はかなりリアリティにあふれたもの。思わず身につまされる人も多いのではないだろうか。

「人に頼れない」とすべてを自分で抱え、完璧にこなすマーロだが、それが自分自身を追い込んでいることに気づかない。夫は一杯一杯の状態のマーロを気遣っているように見えても、自分が率先して家事や育児をするということにまでは気が回らない(マーロもその状況に疑問を感じていない)。傍から見て「おかしい」と思っても、当事者たちはそれに気づいていない、これもまたリアルだ。

そんなときに、マーロのもとに送り込まれるのがタリーという救世主。だが、マーロが彼女に心を開き、癒され、その笑顔が本物になっていくほど、タリーの正体やマーロの前に現れた理由など謎の部分が浮かび上がり、そわそわして心が落ち着かなくなる。

役作りのための18キロ増量

映画『タリーと私の秘密の時間』サブ画像3主役のマーロを演じるのは、シャーリーズ・セロン。常に挑戦し続ける役者だ。『モンスター』では13キロ体重を増やして眉毛を抜き義歯をつけて犯罪者に、『マッドマックス 怒りのデスロード』では髪を剃り、逞しい女戦士になりきった。

今回は18キロ増量し、髪を振り乱して家事育児に奮闘する主婦に。ゆるんだ体型とそれを隠すゆったりしたファッション。目の下にはクマがくっきり。生来の美貌は隠せないものの、かなりのボロボロぶりで、役作りに対する彼女のストイックな姿勢に改めて驚かされる。

疲れた大人の心に寄り添う作品

映画『タリーと私の秘密の時間』サブ画像4若いころに思い描いていた未来はそう実現するものではない。年を重ねれば多くの人が痛いほどそれを実感する。だからこそ、自分自身をマーロに投影してしまう。そして、そんな大人たちを包み込み、寄り添い、癒してくれるタリーという存在はとても尊い。

物語はラストに向けて加速する。やがてタリーの秘密が明かされるとき、体の中から熱いものが湧き上がり、その後ふっと心が軽くなるはずだ。それを感じられる瞬間、この作品に感謝したくなる。

 

>>『タリーと私の秘密の時間』予告編映像


▼『タリーと私の秘密の時間』作品・公開情報
原題:Tully
(2018/アメリカ/英語/95分)
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ディアブロ・コディ
出演:シャーリーズ・セロン、マッケンジー・デイヴィス、マーク・デュプラス、ロン・リヴィングストン、アッシャー・マイルズ・フォーリカ、リア・フランクランド
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 2017 TULLY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『タリーと私の秘密の時間』公式サイト

※2018年8月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

文:吉永くま

 

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