【2016年第90回キネマ旬報ベスト・テン】表彰式〜日本映画ベスト・テン第1位は『この世界の片隅に』が受賞〜

  • 2017年02月08日更新

今回が第90回目となる「2016年キネマ旬報ベスト・テン」の表彰式が2017年2月5日、都内の文京シビックホールにて開催されました。ステージには、宮沢りえ、 柳楽優弥、杉咲花、竹原ピストル、小松菜奈、片渕須直監督などの受賞者に加え、サプライズゲストとして『この世界の片隅に』の主演声優をつとめた女優・のんも登壇。華やかな表彰式となり、各人のユーモアを交えたスピーチは、客席のファンを熱く沸かせました。受賞者のスピーチを中心に、その模様をお伝えします。






日本映画作品賞・読者選出日本映画作品賞『この世界の片隅に』

アニメーション作品では『となりのトトロ』以来の「日本映画ベスト・テン」第1位となった片渕須直監督アニメーション『この世界の片隅に』。「読者選出日本映画ベスト・テン」でも第1位。 片渕須直監督は、個人賞「日本映画監督賞」「読者選出日本映画監督賞」と、ダブル受賞の快挙を飾った。

真木太郎(プロデューサー):この映画はなかなか製作資金が集まらず、クラウドファンディングで支援者のかたから、多くのお金と支援をいただきました。その結果『この映画はいけるぞ』という大きなうねりを感じることができました

片渕須直監督:アニメーションそのものに、表現できるところが増えてきて、それを認めてもらえるようになっているんだなと感じています。たくさんいるアニメの作り手を代表して、光栄な賞をいただきました。これからも日本のアニメーションは、世の中にみなさんの心にと、いろんな表現で訴えていくことになると思います。本作では、こうの史代さんが原作で描かれた、18歳の小さな主婦”すずさん”の魂を、実在する人のように信じたかった。みなさんに、すずさんのいた空気を感じてもらえるように描いたつもり。何より、すずさんの声が備わったときに、それが完成したんだと思います。それを今回、のんちゃんにやってもらえて、本当に良かったです

のん(主演声優):監督、おめでとうございます。この映画を観てくださったかたも、制作者の一員かのように、この映画を広めてくださったんだと思います。みなさんがこの映画を評価してくださるのが、自分のことのように嬉しいです。『(リクエストに応え、観客へのメッセージとして)ありがとう。この世界の片隅に、うちをみつけてくれて』

外国映画作品賞・読者選出外国映画作品賞『ハドソン川の奇跡』

「外国映画ベスト・テン」「読者選出外国映画ベスト・テン」両第1位をクリント・イーストウッド監督『ハドソン川の奇跡』が受賞。クリント・イースウッド監督は、 8度目の外国映画監督賞の受賞。代行でワーナー・ブラザーズ ジャパン部長の出目宏が、イーストウッド監督のメッセージを読み上げた。

出目宏(イーストウッド監督代行):『この度は『ハドソン川の奇跡』を「外国映画ベスト・テン」「外国映画監督賞」という名誉ある賞に選んでいただき、主演のトム・ハンクス、アーロン・エッカートン、そして制作にたずさわったすべてのスタッフを代表して、感謝の意を表します。これはサレンバーガー機長にとっても大変喜ばしいことです。日本において、本作が高く評価されたこと、そしてこのような名誉に、心より感謝を述べたいと思います。 クリント・イーストウッド』

文化映画作品賞『ふたりの桃源郷』

「文化映画ベスト・テン」第1位は佐々木聰監督の『ふたりの桃源郷』。山で暮らす夫婦と、二人を支える娘家族の25年間の貴重なドキュメント作品。ナレーションは吉岡秀隆。

佐々木聰監督:山口放送の佐々木です。ふだんは地方局で番組制作をしていて、この映画も、日々の5分10分の放送を25年間、スタッフと一緒に積み重ねて、総集編としてまとめたものです。この映画化に関わってくださったみなさまへ、そして一番驚き感謝を申し上げたいのが、劇場に足を運んで観てくださるかたがたです。人にものを伝えられる……こんなに嬉しいことはないんだ、と再確認しました

日本映画脚本賞『シン・ゴジラ』庵野秀明

日本映画脚本賞は『シン・ゴジラ』の庵野秀明。ちなみに『シン・ゴジラ』は「日本映画ベスト・テン」「読者選出日本映画ベスト・テン」どちらも第2位に入った。庵野秀明は次回作品準備中のため『シン・ゴジラ』エグゼクティブプロデューサーの山内章弘が代行。

山内章弘(庵野秀明代行/エグゼクティブ・プロデューサー):私も手紙を代読するべきなのでしょうが、庵野は言葉少なな男なので『ありがとうございます』と一言のコメントです。作品に思いを込める人なので、ぜひ『シン・ゴジラ』を2度3度と観ていただいて、その気持ちを汲みとっていただければ。非常に挑戦的な難易度の高い脚本で、本来3時間ぐらいの脚本を収めた作品なので、それを評価していただき、庵野監督に代わってお礼を致します。


主演男優賞・柳楽優弥(『ディストラクション・ベイビーズ』)

主演男優賞は、真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』の柳楽優弥が受賞。柳楽優弥は、2004年度『誰も知らない』では新人男優賞を受賞している。

柳楽優弥:選んでくださったかた、作品に興味を持ってくださったかた、ありがとうございます。この作品はセリフが少ないので、動いているときや表情など物体としての存在が嘘になったらまずいと思って、監督とは念入りに打ち合わせをしました。ぼくは『誰も知らない』という作品で、新人男優賞をいただいたんですけど、それから12年間、ちょっと悩んだり、いろいろありました。それで主演男優賞をいただけたというのは、嬉しいことです、光栄です。引き続き、ヘビー級のトロフィーに負けないように、しっかり筋トレをしたり、ちゃんと演技に真面目に向き合って、いい作品に出られるような人でありたいと思っています。応援してくださっているファンのみなさま、心から感謝しています。これから気合を入れていきます

主演女優賞・宮沢りえ(『湯を沸かすほどの熱い愛』)

主演女優賞は、中野量太監督『湯を沸かすほどの熱い愛』の宮沢りえが受賞。宮沢りえは2002年度『たそがれ清兵衛』、2004年度『父と暮らせば』に続き3度目の主演女優賞となった。

宮沢りえ:映画『紙の月』で監督してくださった吉田大八監督は、あまり用事以外でメールをしてこないかたなんですが、この賞をとったら、とてもうれしそうに『おめでとう』というメールをくださって。最後に『うらやましい』と書いてあったので、この賞は本当に特別なんだなと思いました。そして、最近、演じるということは声や肉体だけで表現するのではなくて、自分の体の中をその役が通っていくんだなと思い、演じた役は全部自分の人生の一つなんだと思うようになりました。そういう意味で、この映画の双葉という役をやらせていただいたことは、私の人生にとって、とても豊かなものだと思います

助演女優賞・杉咲花(『湯を沸かすほどの熱い愛』ほか)

助演女優賞は、中野量太監督『湯を沸かすほどの熱い愛』、金子修介監督『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』により杉咲花が受賞。『湯を沸かすほどの熱い愛』では、主演女優賞の宮沢りえ演じる”双葉”の娘”安澄”を演じた。表彰の舞台には宮沢・杉咲への花束を両手に、中野監督も登場した。

杉咲花:すごく重いトロフィーでびっくり。重要な出会いになった『湯を沸かすほどの熱い愛』の撮影では、中野量太監督から、現場に入って演出を受けるだけではなくて、本当に深いところで愛情を受け取ったり、お互いを信じあったりして、毎日、1日1日をやっと乗り越えていく感覚で、最後まで過ごすことができました。宮沢りえさんは、カメラに映ってないところでも”お母ちゃん”になってくださって、そこで何度もすくっていただきました。名前を挙げると本当にきりがないくら、温かい人しかいない現場で、そんな作品に巡り合えたことだけでも感謝しかないのに、こんな素敵な賞までいただいて……。まだまだ未熟なところばかりですが、これからも一つひとつ向き合っていけるよう、がんばっていきたいと思います

助演男優賞・竹原ピストル(『永い言い訳』)

助演男優賞は西川美和監督『永い言い訳』により、竹原ピストルが受賞。本木雅弘演じる主人公を変えていく男・大宮を演じた。ちなみに『永い言い訳』主演の本木雅弘が、前年度の助演男優賞を受賞している。

竹原ピストル:ひとえに、丁寧に的確に、優しくお導きくださった西川美和監督のおかげだと思っています。何十年後になってもいい、また西川監督の映画に出る機会をいただけたら、監督に『そんなこともできるようになったんですね』とほめていただける、そんな成長をしていけるよう、努力していこうと思います。賞をいただけたのは、本木(雅弘)さんのおかげでもあります。こんなに素敵な賞をいただけるんだったら、こんな芸名にしなければよかった! ありがとうございました


新人女優賞・小松菜奈(『溺れるナイフ』『ディストラクション・ベイビーズ』ほか)

新人女優賞は、山戸結希監督『溺れるナイフ』、真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』、月川翔監督『黒崎くんの言いなりになんてならない』、豊島圭介監督『ヒーローマニア−生活−』により、小松菜奈が受賞。

小松菜奈:素晴らしい賞をいただき、光栄に思います。予想以上に(トロフィーは)すごく重いです。評価していただいた作品は、2015年、順番に撮影していったんですが、自分の心が追いつかないくらい、全身全霊で戦った年でした。特に『溺れるナイフ』では”夏芽”という役を演じ、すべてをむき出しに無我夢中で走り続けるような現場で、10代最後でに演じられたことで、私にとって大切な作品になりました。これからも努力を惜しむことなく、頑張っていきたいと思います

新人男優賞・村上虹郎(『ディストラクション・ベイビーズ』ほか)

新人男優賞は真利子哲也監督 『ディストラクション・ベイビーズ』、廣木隆一監督『夏実のホタル』により、村上虹郎が受賞。村上は撮影中により欠席、代行で真利子監督が登壇し、メッセージを読み上げた。

真利子哲也監督(村上虹郎代行):『ディストラクション・ベイビーズ』監督の真利子哲也です。この作品に出演した柳楽優弥、小松菜奈、村上虹郎が受賞したことを嬉しく思います。村上虹郎からの手紙を代読します。『この度はこのような賞をいただき、ありがとうございます。”将太”という一途な役と生きた演じた時間が愛おしいです。来月20歳の誕生日を迎えるのですが、この新人賞の受賞と、支えてくださったかたがた、すべての映画人に感謝を込めて乾杯したいと思います。 村上虹郎』

キネマ旬報読者賞・川本三郎(『映画を見ればわかること』)

『キネマ旬報』の人気連載に贈られる「キネマ旬報読者賞」は『映画を見ればわかること』で川本三郎が受賞。

川本三郎:評論家というのは、映画があって初めて成り立つ黒子のような存在。本来こんな晴れがましい席に出るものではないのですが、選んでいただいて感謝します。今年の映画はみなさん感じられていると思いますが、粒ぞろいの秀作で、どの作品がベスト・ワンに選ばれてもおかしくない状況。世の中キナ臭くなり、新聞を開くのも嫌な気分の毎日ですが、そんな中『この世界の片隅に』は、優しくて品があって綺麗で、心に残りました

2016年を振り返った、第90回キネマ旬報ベスト・テン
「2016年第90回キネマ旬報ベスト・テン」表彰式の模様をお伝えしました。これからもキネマ旬報「ベスト・テン」は、1年間の上映作品を振り返る、素晴らしい機会となるでしょう。なお、雑誌『キネマ旬報』は2月号を「ベスト・テン発表特集号」とし、巻頭グラビアで受賞者全員のインタビュー記事を掲載しています。興味のあるかたは、お手に取ってみてはいかがでしょうか。

【2016年第90回キネマ旬報ベスト・テン結果】
《作品賞》
日本映画ベスト・テン第1位『この世界の片隅に』
外国映画ベスト・テン第1位『ハドソン川の奇跡』
文化映画ベスト・テン第1位『ふたりの桃源郷』
《個人賞》
主演女優賞:宮沢りえ、主演男優賞:柳楽優弥、助演女優賞:杉咲花、助演男優賞:竹原ピストル、新人女優賞:小松菜奈、新人男優賞:村上虹郎、監督賞・読者選出監督賞:片渕須直、脚本賞:庵野秀明、外国映画監督賞・読者選出外国監督賞:クリント・イーストウッド、キネマ旬報読者賞:川本三郎
2016年 第90回キネマ旬報ベスト・テン公式

取材・編集・文・撮影:市川はるひ

  • 2017年02月08日更新

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