『ランバート・アンド・スタンプ』― 挫折や確執までも生々しく映し出す、ザ・フー成功の立役者を追ったドキュメンタリー
- 2016年05月21日更新
ビートルズやローリング・ストーンズとともに、1960〜70年代のブリティッシュビートを代表するバンド、ザ・フー。彼らを成功に導き絶大な影響を与えた2人の青年、キット・ランバートとクリス・スタンプにフォーカスした映画『ランバート・アンド・スタンプ』が現在公開中だ。ザ・フーのマネージャーでありプロデューサーでもあった彼らが、バンドを成功に導く上でいかに重要な役割を果たしたのかを、豊富な貴重映像とクリス本人やバンドメンバーであるピート・タウンゼント、ロジャー・ダルトリーほか、当時の彼らと深い関わりをもつキーパーソンたちのインタビューを交えて描き出す。
映画製作を志す2人の若者がバンドのマネージャーになった理由とは……?
著名な作曲家で指揮者のコンスタント・ランバートを父に持つ上流階級出身のキット、労働者階級出身だが、映画『コレクター』(1965)の主演俳優テレンス・スタンプを兄に持つクリス。生まれ育った境遇も性格もまるで違う2人は、映画製作の道を志す者同士として意気投合。駆け出しの助監督だった2人は自分たちのキャリアアップを目論み、1つのバンドがスターになる過程を映画化して世に出ようと画策する。そこで出会ったのが、当時ハイ・ナンバーズとしての活動していたザ・フーのメンバー――1964年夏のことだった。
当時のイギリスでは、ビートルズの成功に刺激を受け、バンドを発掘して一山当てるというビジネスが資産家の間で流行していた。キットとクリスもまんまと便乗しようとしていたわけだが、音楽業界では“ずぶの素人”の2人が直感的にこのバンドを選んだことには驚きを隠せない。というのも、ハイ・ナンバーズはモッズシーンではすでに人気を得ていたが、演奏する楽曲のほとんどは既存曲のカバーで、失礼ながらメンバーのルックスが取り立てて良かったわけでもないのだ。もちろん、バンド側も素人とマネージメント契約をするのには理由があり、前任マネージャーへの不信感と、何よりも週給20ポンド(現在の価値にして約80,000円程だそうだ)という破格のギャラに惹かれてのことだった。
ザ・フーを成功へ導いた抜群のセンスと奇策の数々
無謀とも思える計画に乗り出した彼ら。しかし、キットとクリスのアイデアと行動力はずば抜けていた。直感とも天性のセンスとも言える才覚で、手始めにバンド名を変え(というか、元々、ザ・フー名義で活動していた彼らのバンド名を戻した)、さらにピートの才能を高く買い、ソングライターとしての才能を開花させた。ザ・フーの魅力として真っ先に思いつく、ギターやドラムを壊すという過激なステージアクションも、キットとクリスの援助無くしてはあり得ないことだった。しかし、駆け出しの2人がどのように資金を回し、さらにはどのようにザ・フーをスターダムへと導いたのか。それは、ぜひ本篇をご覧になってほしい。
挫折や確執までも生々しく映し出す
本作の魅力は、成功の影にある挫折や確執までも、生々しく映し出しているところだ。これまでフィーチャーされることのなかったキットとクリスの人物像は実に魅力的であり、“カネは無いがアイデアと野心だけは溢れている”という若者ならではの無謀でみずみずしい感性とクリエイティビティは、ザ・フーのファンならずとも刺激的に思えるだろう。さらに、ピートを「ロック・オペラ」という新境地に導く過程で、キット自身も父親譲りの音楽的才能を開花させていく様子や、ロック史上初のインディペンデント・レーベルである「トラック・レコード」を立ち上げたいきさつも実に興味深い。在りし日のキース・ムーンの姿を堪能できるのもファンにはたまらないだろう。
今では、キットもキースも、ジョンもこの世にいない。クリスも本作の完成を待たずして2012年にこの世を去った。しかし、眩しいばかりの若さも、苦々しい思い出も、にこやかに述懐するクリスの姿に、確かな時を刻んだ充実感が見てとれる。できることなら、キットとクリスが作った映画を観てみたかったけれど……いや、ここではそんな人生の皮肉はひとまず置いておこう。
▼『ランバート・アンド・スタンプ』作品・公開情報
(2015年/アメリカ/120分)
原題:Lambert & Stamp
監督・撮影:ジェームズ・D・クーパー
出演:キット・ランバート、クリス・スタンプ、ピート・タウンゼント、ロジャー・ダルトリー、キース・ムーン、ジョン・エントウィッスル、テレンス・スタンプ(特別出演)
提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
配給・宣伝:CURIOUSCOPE
コピーライト:© 2014 Magic Rabbit, LLC. All Rights Reserved.
© 2015 Layout and Design Sony Pictures Home Entertainment Inc. All Rights Reserved.
※5月21日(土)より新宿K’scinemaほか 全国順次公開
文:min
- 2016年05月21日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2016/05/21/33859/trackback/