座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル 是枝裕和監督インタビュー-『あの時だったかもしれない 〜テレビにとって「私」とは何か〜』60年代のドキュメンタリーを作り上げた二人-萩元と村木-に出会う作品。

  • 2013年02月07日更新

2月7日よりスタートする座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル。映画・テレビの枠を超えて、良質なドキュメンタリーを上映するするこの映画祭は今年で4回目を迎える。第一回よりゲストセレクターとして映画祭に関わってきた是枝裕和監督が今年、セレクトした作品は『あの時だったかもしれない 〜テレビにとって「私」とは何か〜』。この作品は1960年代を代表するテレビドキュメンタリー制作者、萩元晴彦さんと村木良彦さんに出会う作品と語る是枝監督に萩元、村木両氏の魅力的な人柄、斬新で異質な番組の面白さについて伺いました。
(写真は是枝裕和監督と座・高円寺 ドキュメンタリーフェスティバルプログラムディレクターの山﨑裕さん)



『あの時だったかもしれない 〜テレビにとって「私」とは何か〜』は僕の作品というよりは村木(良彦)さんと萩元(晴彦)さんを知るための番組
-テレビドラマ『ゴーイングマイホーム』を出品された、ロッテルダム国際映画祭から帰られたばかりとのことですが、映画祭での反応はいかがでしたか?
是枝裕和監督(以下是枝):飛行機が遅れてしまって、最終話しか立ち会えませんでしたが、全話を通してご覧になっているお客様もいるようでした。全話で8時間半位。笑ってほしいところで、ちゃんと笑ってくれていました。日本のお客様と笑う所は同じですが、日本のお客様は劇場で笑わない、そういう意味で外国のほうがリアクションははっきりしていますね。ちゃんと小野(武彦)さんのところで笑ってくれていたので、大丈夫じゃないかなと。


-是枝監督は第一回から座・ドキュメンタリーフェスティバルのゲストセレクションに参加されて、今年で4回目になります。今回はご自身がディレクターを務められた『あの時だったかもしれない 〜テレビにとって「私」とは何か〜』を上映されるということですが、選ばれた理由をお聞かせ下さい。
是枝:毎年、座・ドキュメンタリーフェスティバルには山﨑(裕)さんに引っ張り出されています(笑)。若い人たちの目に触れる機会というのは大事なので、実験的な部分も残っている60年代のテレビドキュメンタリーを取り上げてもらうことにしました。『あの時だったかもしれない 〜テレビにとって「私」とは何か〜』は僕の作品というよりは村木(良彦)さんと萩元(晴彦)さんを知るための番組です。もともとあれは1997年にテレビマンユニオンを受けにきた学生の入社試験の一環として行われた最終試験の課題でした。創立メンバー三人の今野勉さんと萩元(晴彦)さん、村木(良彦)さんの番組を全部観てインタビューをするというもので。1997年の時点でテレビマンユニオンを受けにくる若い子達がこの三人のドキュメンタリーを観ていませんでした。観る機会がないのと、勉強してこない両方があると思うのですが。そういう世代が入社するようになっていました。それで試験にしてインタビューをさせたんです。村木さんが亡くなった時にTBSの秋山(浩之)さんというプロデューサーが「是枝さん、学生を使って(村木さんを)撮られていましたよね、それを使って追悼番組ができませんか」と言われて見直してみたら面白かった。学生が拙いインタビューをしているので、三人も楽しそうに、分かりやすく喋ってくれていて、面白いと思って番組にしました。


村木さんはかっこいい大人。映画をやろうと思って大学時代を過ごしていた時期に、村木さんから語られるテレビ論に魅せられました。
-萩元さんと村木さんのお二人とお仕事をされたことはありましたか?
是枝:萩元さんとは仕事をしたことはありませんでした。村木さんとは学生の頃に村木さんのメディアワークショップというメディア塾があって、大学五年生の時に通いました。そこで60年代のテレビドキュメンタリーを観させていただき、これがテレビに関わる出発点になりました。

ワークショップでの村木さんの出会いがテレビの出発点になったという事ですが、村木さんに魅せられたものはなんだったのでしょう?
是枝:村木さんはカッコよかったですね。かっこいい大人だなと思いました。人として、男として色っぽかったですよ。当時の村木さんの年齢は、今の僕ぐらい。わ~ヤバイ(笑)。その時の村木さんの印象が強かったですね。映画をやろうと思って大学時代を過ごしていた時期に、村木さんから語られるテレビ論に魅せられました。理論家の村木さんは「テレビとはなにか」ということをつきつめて考えていた人で、本質を考えることの大切さを教えられたと思います。村木さんのワークショップに通っていなければテレビマンユニオンに入っていないですし、そういう意味で大きな出会いでした。番組の中で学生がインタビューしている気持ちとその時の僕の気持ちはリンクしていて、あの目線で僕も見ていました、村木良彦を。


師匠はいませんが、精神的には(師匠は)村木さんですね。圧倒的に。
-是枝監督がテレビマンユニオンに入社してからの村木さんと一緒にお仕事をされたことはありましたか?
是枝:私が入社した時に村木さんはテレビマンユニオンを離れて「トゥデイ&トゥモロウ」というニューメディアの会社に移られていました。僕の中にあったテレビマンユニオンは村木良彦のテレビマンユニオンなのに、現実はそこから随分離れていました。それがショックで、一緒に仕事をしたことはありませんが、ちょくちょく村木さんの所に行っていました。「違うじゃないか、もうテレテビマンユニオンはないじゃないか」と(笑)僕は映画もテレビも師弟関係で誰かについて長くやってきたことはないので、師匠はいませんが、精神的には(師匠は)村木さんですね。圧倒的に。影響はされていますよ。良くも悪くも。


大胆で異質。古びないドキュメンタリー「勝敗(カメラルポルタージュ)」。
-作品の中に萩元さんと村木さんが制作された作品がいくつか出てきますが、その作品を選ばれた理由というのはどのような理由でしょうか。
是枝:僕が面白いと思っているものや、彼らのテレビ論を体現している作品を選んでいます。今見ても全然古びていないなと思うのは「小澤征爾 第九を揮る(現代の主役)」や「勝敗(カメラルポルタージュ)」。あの辺は大胆ですよね。あれだけカメラが動かないで撮影をしていることに驚かされます。あの作品が放送で流れていたとすると相当異質だと思いますよ。「勝敗」を大学生に見せることがありますが、「これはどの時間帯に放送されていたんですか?」と必ず聞かれますね。実際、夜の七時とか七時半というゴールデンタイムにあの作品が流れていたというのはすごい。萩元さんの作品は芸術選奨も取っていますから、評価も高かったと思います。




(テレビの)本質を問い続けることはラディカル(過激)だった。それでも村木さんは本質を問い続けた
-1960年代にあったテレビの役割と現在のテレビの役割が変わってきている中で、この作品を観る意味をどのように考えられていますか?
是枝:どの表現でも同じだと思いますが、何十年もたてば、その本質を問わなくなります。テレビがもともとどんなものだったかということは問わなくなりますよね。映画も同じで、もともと映画はどんなものだったかを考えずに作られている映画のほうが多くなっている。村木さんは「本質を問うという事は企業の安定にとってふさわしくなかった」といういい方をしているけれど、(テレビの)本質を問い続けることはラディカル(過激)だった。それでも村木さんは本質を問い続けたんですよね。そのことが必要かどうかを番組の最後に問うています。僕は必要だと思っている。まずは作品を観ていただければと思っています。この作品は萩元と村木に出会う番組。出会ってくれれば、彼らの面白さは伝わる、そういうものになっています。


-萩元さんと村木さんの作られた番組に寺山修司さんが参加されていますね。

是枝:寺山修司さんを紹介しているのが谷川俊太郎さんなんですよね。寺山さんの書くナレーションというのが圧倒的に面白い。すごいですよね。


-今回の座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで気になるラインナップを教えてください。
是枝:吉岡忍さんが選ばれている「残された刻〜満州移民 最後の証言〜」観たいですね。それから『佐藤輝作品ダイジェスト』はどんな作品が入っているのでしょう。気になります。

▼第4回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル情報
開催期日:2013年2月7日(木)→11日(月・祝)
会場:座・高円寺2
座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル公式サイト
※詳細については公式サイトをご覧ください。

文、編集:白玉 スチール撮影:荒木理臣

 

  • 2013年02月07日更新

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