『セイジ-陸の魚-』試写会&トークショー—伊勢谷友介監督と渋谷慶一郎さんが語る。 「映画、音楽、もの作り」への熱い思い!
- 2012年02月06日更新
伊勢谷友介監督が8年ぶりにメガホンを取った映画『セイジ-陸の魚-』。その公開に先駆けた試写会が、2012年1月24日(火)に原宿のcafe STUDIOにて行われ、上映前のトークショーには伊勢谷監督と音楽監督の渋谷慶一郎さんが登場した。東京藝術大学出身のふたりは学部こそ違うものの、学生時代からの知り合い。互いにさまざまな経験や創作活動を経て、今回初めてひとつの作品に向かう熱い思いを語った。(写真は、渋谷慶一郎さん・左、伊勢谷友介監督・中央、MCを務めた龜石太夏匡プロデューサー・右)
「最後に渋谷さんが乗せてくれた音が映画の世界観を高めてくれて、一緒に仕事をするのが凄く刺激的でした」(伊勢谷監督)
龜石太夏匡さん(以下、龜石) 今回、この映画を最後の高みに上げてくれた渋谷さんの音楽の力は、本当に凄いと思いました。現場では、伊勢谷監督と渋谷さんの意見のぶつかり合いにハラハラもしましたが、ぶつかることから生み出されることで高みに上がるというか。もの作りとは、こういうことに尽きるなと思いました。
渋谷慶一郎さん(以下、渋谷) みんなハラハラしていたよね。僕が一回帰るって言い出したこともあったし。でも、あれは怒って帰るのではなく、伊勢谷君と僕の意見がまったく違うという場合に、真ん中に着地点を見つけると作品のクオリティが下がる可能性がある。それなら、映画は最終的に監督とプロデューサーのものだから、自分が帰って任せた方が、中庸な意見にするよりも良いと思った。
伊勢谷友介監督(以下、伊勢谷) 僕が今まで映画を撮ってきた感覚だと「こういう感じの音」というのが何となく撮影現場の全員に流れているんですね。ところが、その前段階を知らない渋谷さんに編集まで上がった時点でドンと渡すわけですよ。そうして返ってくるものだから、全然(想像とは)違う。そうすると、音楽の良い悪いにはまったく関係なく、その違和感に一回向かい合う時間がある。それを経て渋谷さんとミキシングをやっていきながら、だんだんと違うものに昇華していったという感じですね。たくさんの人で作る分だけ、複合的な要素があるのが映画の面白さだと思いますが、最後に渋谷さんが乗せてくれた音が映画の世界観を高めてくれて、一緒に仕事をするのが凄く刺激的でした。
「ここには音楽が入るなというのはラッシュを観た時点で分かる」(渋谷さん)
伊勢谷 映画監督は一から百まで作品を追っていくけど、音楽家の人って“ここ”というところに音を乗せるじゃないですか。そこは度胸みたいなものが必要なのですか?
渋谷 あまり考えなくても、ここには音楽が入るなというのはラッシュを観た時点で分かる。この作品には、自然の風景がたくさん出てくるけど、比喩や、隠喩として物語にかかわっていても直接的に関係はないじゃない。そういった、現実との浮遊感を音楽でも表現するとしたら、自分が主人公に感情移入して作るやり方じゃなくて、客観的に音を付けるほうが良いと思った。
龜石 サウンドトラックにはほかのアーティストの方々も参加していますが、そのチョイスも直感的なものでしょうか?
渋谷 最初に伊勢谷君と打ち合わせをした時に、僕ひとりの考える範囲じゃなくて、電子音楽やエレクトロニカにフォーカスして何人かのアーティストでコンパイルしたいと思った。僕のピアノが素材になっているという共通点だけは持たせて、いろんな人のイマジネーションがグチャっと混ざっている形。それが可能なアーティストをチョイスしていきました。誰かと何かをやる時に、最初のオファーでアイディアがひらめいた仕事はだいたい良いものになる。
龜石 太田莉菜さんが本作のイメージソングを歌ってくれています。
渋谷 曲ができて、ヴォーカルを探している時に太田さんが音楽をやりたいという話を聞いて。実際に会ってみたら、話し声やパーソナリティーがもともとの音楽の世界観と合っていたので、一緒にやろうということになりました。
龜石 作詞が菊地成孔さん。音楽ファンが熱狂するような凄い組み合わせですよね。
渋谷 凄い組み合わせだと言われますね。タイトルである「サクリファイス」というのは、僕がこの映画をそう呼んでいたんです。自己犠牲という部分の印象が強いのと、ちょうど同時期に観ていた(アンドレイ・)タルコフスキー監督の映画『サクリファイス』(1986年)の持っている空気感に、何となくだけど通じるものを感じたので。
龜石 シングル『サクリファイス』も、サウンドトラック『ATAK017 Sacrifice Soundtrack for Seiji “Fish on Land”』と同じ2012年2月15日に渋谷さんのレーベルであるATAKから同時にリリースされます。皆さん是非聴いてください。
「それぞれの経験を積み重ねて、今ここで改めて渋谷さんとひとつの作品に向かい合えたことが嬉しかった」(伊勢谷監督)
伊勢谷 渋谷さんとは学生時代からの知り合いで、卒業した後もその活動や作品はずっと横目で見ながら、自分自身も創作活動をしてきて。それぞれの経験を積み重ねて、今ここで改めて渋谷さんとひとつの作品に向かい合えたことが嬉しかったです。
龜石 凄くドラマを感じます。これからまた10年、20年と時間軸を過ごしていくなかで、何かを一緒にやる機会があるかもしれませんね。最後に渋谷さんからひと言、お願いします。
渋谷 登場人物も場面展開も多いけど、非常にパーソナルな映画だよね。伊勢谷君の考えていることがよくわかる映画だと思います。
おふたりの作品にかける熱い思いが伝わってくるトークショーも、残念ながらここで終了時間に。ストーリーはもちろんのこと、美しく融合された映像と音楽がどのように作品を高め合っているかにも、大注目してほしい。
本編上映後には伊勢谷監督、龜石プロデューサーを囲んでのパーティーも開催!
トークショーと試写上映の後には、伊勢谷監督や龜石プロデューサーを囲んでの立食パーティーが行われ、作品を観たばかりの招待客は直接おふたりに映画の話を聞けるとあって、最高潮の盛り上がりに。また、会場には伊勢谷監督と親交の深い、写真家で冒険家の石川直樹さんのお姿も。ミニシア取材班も人だかりをかき分けて、伊勢谷監督と石川さんに果敢にアタック! おふたりから特別にコメントをいただきました。(感涙!!!)
伊勢谷監督のコメント この作品の編集作業の途中で東日本大震災に遭遇し、原作のもともとのテーマである、「人が人を癒すとことの難しさ」ということをより深く考えました。ラストのセイジの行動を通して、人が人を救うとはどういうことなのかを皆さん自身が考えていただければとても嬉しいです。
石川直樹さんのコメント 伊勢谷君とは、前作『カクト』の映像を流して僕が写真を展示するという展覧会をウィーンで一緒にやって、今回の映画は前からすごく楽しみにしていました。前回よりさらにパワーアップしていて、 面白かったです。映画に動物のシーンが何度か出てきますが、ぼくも狩猟者に興味があって写真を撮っていたりしたので、色々考えさせられましたね。もう何回か観て、伊勢谷君のメッセージをゆっくり咀嚼したいなと思います。
(写真は、盛り上がるパーティーの様子・上、伊勢谷監督と石川直樹さんの仲良しツーショット・下)
《恒例の靴チェック!》 3人ともブーツで登場。それぞれ個性的で素敵です! |
|||
渋谷慶一郎さん | 伊勢谷友介監督 | 龜石太夏匡さん | |
▼『セイジ-陸の魚-』作品・上映情報
2011年/日本/108分
監督:伊勢谷友介
出演:西島秀俊、森山未來、裕木奈江、新井浩文、渋川清彦、滝藤賢一、二階堂智、津川雅彦
撮影監督:板倉陽子
脚本:龜石太夏匡、伊勢谷友介、石田基紀
原作者:辻内智貴
音楽:渋谷慶一郎
配給:ギャガ+キノフィルムズ
コピーライト:(C)2011 Kino Films/Kinoshita Management Co.,Ltd
●『セイジ-陸の魚-』公式ホームページ
※ 2012年2月18日(土)よりテアトル新宿ほかロードショー!
取材・編集・文:min スチール:柴崎朋実
- 2012年02月06日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2012/02/06/21293/trackback/