『マーガレットと素適な何か』-7歳の自分が書いたメッセージが心の扉を開く-

  • 2011年10月29日更新


「小さい頃になりたかった自分になっている?」子供の頃の自分にそう聞かれたら、何と答えるだろうか。毎日目の前のことをこなすのに精いっぱいで、感動することもそう多くはないかつて子供だった大人たち。この作品は、そんな人々に、一息ついて自分の原点を見つめ直し、本当の自分を見つける大切さを教えてくれる。


7歳の自分から突然届いた手紙

結婚を間近に控えるキャリアウーマンのマーガレット。公私ともに充実しているように見えるが、まるで仕事が恋人であるかのように毎日仕事に打ち込んでいた。彼女の40歳の誕生日、突然公証人と名乗る見知らぬ老人が一通の手紙を届けに現れる。それは、辛かった子供の頃の思い出や懐かしい写真がたくさん詰まった手紙で、差出人は7歳の自分だった。
少女時代の思い出を封印し、名前もマルグリットからマーガレットに変えていた彼女は、最初のうち手紙の受け取りを拒否する。だが、次々届く手紙により、両親の離婚や初恋、早く大人になってしまいたいと思っていた頃の過去の記憶を思い出す。彼女は戸惑いながら、やがて頑なに閉ざしていた心の扉をゆっくり開いていく。

ソフィー・マルソーが等身大の女性を好演

マーガレットの勤務先が原子力プラントを売る会社という設定は、今の日本では敏感にならざるを得ない。だが、製作年が2010年であることと、マーガレットの心の変化の描写を見ればそれも許容できるだろう。
主演は、10代の頃から30年以上、第一線で活躍し続けるソフィー・マルソー。キャリアや恋愛経験を積んだ女性が、恋人、公証人、初恋の人と関わりあいながら、徐々に心を溶かしていく様子をコミカルかつキュートに演じている。
2003年に『世界で一番不運で幸せな私』をフランスで大ヒットさせたヤン・サミュエル監督は、本作が長編3作目。このストーリーは、「子供の頃の自分から手紙を受け取り、自分が将来何をするつもりだったかを思い出せたら素晴らしい」という監督自身のアイデアがもとになっているという。7歳のマーガレットが書いた、カラフルで可愛らしくコラージュされた手紙やカード、おもちゃや雑貨を効果的に取り入れ、いくつになっても可愛いものが好きな女性の心をくすぐる。

理想の女性を自分に置き換えて——

マリア・カラス、エヴァ・ガードナー、マリー・キュリー…。仕事を颯爽とこなし、ヒールを鳴らしながら肩で風を切って歩くマーガレットは、自分の理想とする女性たちをイメージし、己を奮い立たせて仕事に没頭する。彼女が纏った鎧の下の脆さが透けて見え、痛々しさよりも愛おしさを感じさせるシーンだ。仕事を持つ女性のなかには、そんな彼女に共感を覚える人が少なからずいるかもしれない。

自分自身になることの大切さ

マーガレットに迷惑がられながらも、何通もマルグリットの手紙を送りつける老いた公証人。故郷に戻ってきても相変わらず心を閉ざすマーガレットに、彼は「君自身になれ」というピカソの言葉を教える。この深い意味を持つ言葉は、スクリーンを超えて啓示のように響く。多くの手紙を受け取った彼女は、やがて自分の進む方向を見つけ、自分自身にゆっくりと戻っていく。鎧を捨て去り、幸せを見つけた彼女の笑顔は、何物にも代えがたい。

▼『マーガレットと素適な何か』作品・上映情報
(2010年/フランス・ベルギー/89分)
原題:L’age de raison
監督・脚本:ヤン・サミュエル
製作総指揮:クリストフ・ロシニョン
出演:ソフィー・マルソー、マートン・ソーカス、ミシェル・デュショーソワ、ジョナサン・ザッカイ、エマニュエル・グリュンヴォルドほか
協力:ユニフランス・フィルムズ
配給:アルシネテラン
(c)2010 Nord-Ouest Films – France 2 Cinéma – Artémis Productions – Rhône-Alpes Ciéma – Mars Films

●『マーガレットと素適な何か』公式サイト

※2011年10月29日(土)シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー

文:吉永くま

  • 2011年10月29日更新

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