『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』—美しき天才ピアニストの知られざる素顔に迫るドキュメンタリー

  • 2011年10月29日更新


美しき天才ピアニストの知られざる素顔に迫るドキュメンタリー

特異な演奏法とユニークな音楽性でクラシック界の異端児と呼ばれ、世界中を魅了したグレン・グールド。50歳という若さで他界してから約30年を迎える今、これまであまり語られることの無かった彼の恋愛や、一人の人間としての心の内に深く迫るドキュメンタリー映画が公開される。本作では実際にグールドと親交のあった人々や、かつて恋人だった3人の女性の証言と、未公開の映像や写真、日記などをもとに、幼少期から死を迎えるまでの知られざるグールドの素顔を浮き彫りにする。© Jock Carroll

孤高の天才。美しき奇人。世界中を魅了したグールドの本当の姿とは?

 グレン・グールドをめぐる映像作品や映画はこれまでも数多く作られてきた。そして、そのほとんどが音楽家としてのずば抜けた才能を主軸に描いている。『ゴルトベルク変奏曲』に代表される斬新な楽曲解釈、圧倒的な演奏技術による躍動感あふれる指使い、そして深く胸をえぐるような叙情性。32歳でコンサート活動から引退してしまっただけに、その演奏風景だけでもグールドを映像で観る価値はじゅうぶんにあるのだけれど、人々がさらに興味を引かれるのはやはりその容姿の美しさや、真夏でもロングコートと手袋というファッションに身を包み、極端に脚の短い椅子に座って背中を丸めてうなりながら(正確にはハミングだが)ピアノを弾く独特の姿ではないだろうか。美しき天才ピアニストというこの上ないドラマ性とともに、病的な潔癖さや数々の変人的なエピソードが、グールドの人気をさらに高めていたのも事実だろう。けれど、一方でその素顔については謎とされたままの部分が多く、とくにセクシャリティについては禁欲的なイメージが常についてまわった。© Courtesy of Sony Music Entertainment

今あらためてグールドを知りたい人にとって、見逃せない一作

 映画はおなじみのグールド伝説の繰り返しからはじまり、若き日の演奏シーンから晩年のスタジオワークに没頭する様子までがしっかりと堪能できる。初めてグールドを知る人にとっては親切で分かりやすく、ファンにとってはおさらい的に音楽家グールドを楽しむことができるだろう。しかし、なんといっても見どころはかつての恋人たちが登場する後半部分だ。その存在については、近年になって雑誌などで明らかにされたが、本作の凄いところは彼女たちが実際にカメラの前で、グールドとの思い出を生々しく語るところである。そこに出てくるのは愛に不器用で、繊細さゆえに苦悩する一人の男性の姿だが、どの女性も深い理解と敬愛をもってグールドを語る姿が印象的だ。

こうした映画が今後も作られるかはわからないが、来年はグールド生誕80年という節目の年でもあり、生前のグールドを語ることができる人たちも、もちろん時の経過と共に少しずつ減っていくだろう。そういった意味も含めてグレン・グールドをもう一度見つめ直し、その素顔にまで触れることのできる貴重な一作であり、同時に資料的価値の高いドキュメンタリーとしてファンならずとも見逃せない作品だ。© Personal photo of Christopher Foss (son of Cornelia Foss)

▼『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』作品・上映情報
2009年/カナダ/英語/108分
原題:GENIUS WITHIN: THE INNER LIFE OF GLENN GOULD
監督:ミシェル・オゼ、ピーター・レイモント
出演:グレン・グールド、ジョン・ロバーツ、ウラディーミル・アシュケナージ、コーネリア・フォス、ローン・トーク、ペトゥラ・クラーク、ロクソラーナ・ロスラック、フランシス・バロー、ハイメ・ラレード、フレッド・シェリーほか
配給・宣伝:アップリンク
●『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』公式サイト

※2011年10月29日(土)より、渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマ他、全国順次公開

文 min

  • 2011年10月29日更新

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