『スパルタの海』— 一度は封印された日本映画史上最大の問題作がついに解禁!目が離せないほど壮絶な青春ドラマ

  • 2011年10月28日更新


非行少年や不登校児の更生施設として話題となった、戸塚ヨットスクールを題材に映画化されるも、生徒の相次ぐ死亡事故により校長ら関係者が逮捕、上映中止に追い込まれた問題作が、28年の時を経てついにこの秋公開される。
ノンフィクション作家上之郷利昭のルポルタージュ「スパルタの海」を原作に、東宝東和が制作。プロデューサーは東映で数々の傑作エログロ映画を量産した奇才天尾完次。スパルタ式ヨット訓練を行う戸塚校長を、当時既にコメディアンとして人気を博していた伊東四朗が熱演している。次々とスクールに送り込まれてくる、札付きの不良少年・少女達が、壮絶なしごきの中、仲間の死、淡い恋などを乗り越え、徐々に人間らしさを取り戻してゆく青春ドラマ。体罰は暴力か、教育か、本当の愛情とは何なのかー、必ず考えずにはいられない、現代の教育論に一石を投じる怪作である。10月29日(土)シアターN渋谷にてロードショー。


一度は封印された日本映画史上最大の問題作。この壮絶さと執念からは目が離せない

1976年、愛知県知多郡美浜町に開校した「戸塚ヨットスクール」。ある不登校児の生徒を訓練により更正させた事をことをきっかけに、様々な問題児が全国から集まるようになる。しかし1983年、生徒の死亡事故という“戸塚ヨットスクール事件”により、戸塚校長らが傷害致死容疑で逮捕。東宝東和は封切り目前にもかかわらず、上映を中止してしまった。本作は「スパルタの海管理委員会」が2005年に東宝東和から権利を買取り、全国公開にこぎつけたものである。

このような数奇な運命を辿った経緯からか、「スパルタの海」から伝わってくる”執念”は凄まじい。いきなり冒頭から入る激しい家庭内暴力のシーン、非行少年を力づくの訓練で押さえ込む指導員達など、とにかく荒々しい演技の連続。そしてロケ地やエキストラの多くも本物という抜群の臨場感は、観る者に実際の現場の過酷さをビシビシと感じさせる。また、現代のお茶の間からは想像もできない、若くマッチョな伊東四朗の熱演が、きっちりと「青春ドラマ」へと味付けしている。役者陣の体当たりの演技もさることながら、様々な要素が「伝えなければ」という意志を持ってこちらにぶつかってくる気がする。かつてこれほど暑苦しく、怪しい映画があっただろうか。

教育に必要なものは何なのか。痛みかそれとも——?

一つ心に引っかかっているシーンがある。家庭内暴力の酷さからスクールに入校させられた“ウルフ”こと俊平が、抵抗の末に体罰を受け、「お前に暴力を受けた親御さんの痛みを考えろ」と言い放たれるのである。私はここで、はたと考え込んでしまった。人の痛みは経験しないと分からない― 当然のことかもしれないが、こうして体罰でボコボコにされるまでしなければ人間らしい心を取り戻せないくらい、狂犬と化してしまった少年達は本当に哀しい。一体何が彼らをそうさせたのか?無論、学校や家庭環境などの外的要因もあるのかもしれないが、彼ら自身の責任もある。少なくとも、いずれは大人になり自分で人生に責任を負わなければならない。

“戸塚ヨットスクール事件”以降、世論は“反戸塚”一色となり、一気に教育現場から体罰は消えていったという。そこから28年余、平成日本では、ゆとり教育が見直されこそすれ、体罰などやはりもってのほかだろう。しかし本作は、ただ単純に体罰の是非を問うものではなく、教育において本当に必要な優しさ、厳しさとは何なのかということを、有無を言わさず我々の眼前に突きつけてくる問題提起作だ。学級崩壊、引きこもり、ニートなど、数々の問題が山積する現代で、果たして“スパルタ”はどう映るのかー?是非、自分自身の目でも確かめてみていただきたい。


▼『スパルタの海』公開・上映情報
(1983年/日本/105分)
監督:西河克己
製作:天尾完次
原作:上之郷利昭
音楽:甲斐正人
出演:伊東四朗、辻野幸一、平田昭彦、小山明子、牟田悌三、原ひさ子
配給:アルバトロス・フィルム
●「スパルタの海」公式サイト
Ⓒ「スパルタの海」管理委員会

※2011年10月29日(土)シアターN渋谷ほか全国ロードショー

文:しのぶ

  • 2011年10月28日更新

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