『白いリボン』
- 2010年12月02日更新
田舎の素朴な村、敬虔な信者、純真な子供…。本来なら美しさや崇高さを連想させる要素の一つ一つが、ミヒャエル・ハネケ監督の手にかかると一転、不穏かつ不気味な雰囲気を放つようになる。
2009年のカンヌ国際映画祭パルムドール、2010年のゴールデン・グローブ賞外国語映画賞をはじめ、数々の映画賞を受賞した本作は、ハネケ監督の集大成ともいわれる。美しいモノクロ映像で描かれていながら、村人たちに忍び寄る得体のしれない邪悪な何か - 「魔物」の存在が観る者を慄然とさせ、戸惑いの世界に誘う。
第一次世界大戦前夜のドイツ北部の小さな村。大地主の男爵を中心に、人々は教会や学校のもとでプロテスタントの教えを忠実に守り、静かに暮らしていた。だが、ドクターの落馬事故をきっかけに、村人たち、そして子供たちが次々と奇妙で不幸な事故に襲われる。犯人はいったい誰なのか。人々は疑心暗鬼に陥り、村の空気が徐々に変化していく。それと同時に村人たちの素の顔も次第に浮き彫りになり、のどかなはずの村に潜む悪意や暴力、嘘、欺瞞が露呈する。いったいこの村に何が起こっているのか…。
連鎖して起こる数々の不可思議な事件が人為的なものであることは想像に難くないが、まるでその正体が分からない。そのため、敬虔な信者である村人や「純粋で無垢な心」を強要される子供たちの裏に何か隠されているのではないかと想像してしまい、戒めのために少年と少女の腕に巻きつけられた白いリボンでさえ不吉な予兆に思えてくる。
村に事件が起こった1913年の翌年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子がセルビアで暗殺され第一次世界大戦が勃発する。映画の中で描かれる無差別の暴力、一方的に押し付けられる圧力もこの後ドイツが辿る暗い運命を暗示しているのかもしれない。
見てはいけないものを見て、感じてはいけないものを感じてしまったような、心がざわめき落ち着かない感覚。霧の向こうにある真相は何なのか。謎解きに頭をひねりながら、独特の空気が漂うミステリー作品を自分なりに咀嚼して味わうのもまた一興だ。
▼『白いリボン』
作品・公開情報
ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア合作,ドイツ映画/
2009年/144分
原題:”DAS WEISSE BAND – EINE DEUTSCHE KINDERGESCHICHTE”
英題:”THE WHITE RIBBON”
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
脚本協力:ジャン=クロード・カリエール
撮影:クリスティアン・ベルガー
製作総指揮:ミヒャエル・カッツ
出演:クリスティアン・フリーデル エルンスト・ヤコビ
レオニー・ベネシュ ウルリッヒ・トゥクール 他
提供:デイライト ツイン
配給:ツイン
宣伝:ザジフィルムズ
後援:ドイツ連邦共和国大使館 ドイツ連邦共和国総領事館
●『白いリボン』公式サイト
※2010年12月4日(土)より、銀座テアトルシネマ他全国順次ロードショー。
文:吉永くま
改行
- 2010年12月02日更新
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