クリーニング店のあの夫婦が来場! ― 『結び目』 小沼雄一監督×広澤草さん×川本淳市さん トーク・イベント

  • 2010年07月24日更新

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小沼雄一監督作品『結び目』のトーク・イベントが、2010年7月16日(金)に開催され、小沼監督、出演者の広澤草さん、川本淳市さんが、シアター・イメージフォーラム(東京)に駆けつけました!

←の写真、左から、小沼監督、広澤さん、川本さんです。

広澤さんの演じた奥津茜と、川本さんが演じた奥津啓介は、クリーニング店を自営する夫婦という役どころです。

啓介を一途に想う茜ですが、啓介がかつて愛した主人公・絢子と再会したことにより、夫婦の関係に影が差し、ひびが生じてしまう ― 劇中では、苦しくいたたまれない夫婦を演じた広澤さんと川本さんですが、もちろん、トーク・イベントでは笑顔が絶えません。

本編の上映後におこなわれたこのイベントは、お三方のフリー・トーク形式で進行しました。ネタバレのみ割愛しつつ、ほぼノー・カットでお届けします!

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《脚本の第一印象》

小沼雄一監督(以下、小沼)
クリーニング店の奥津夫婦を演じたおふたりに来ていただきました。本作の脚本を読まれたときの第一印象はいかがでしたか?

広澤草さん(以下、広澤)
脚本に書かれていることが単純にすごく綺麗だったので、茜が嫌な女に見える部分も、綺麗な画になるのだろうな、という漠然としたイメージは、とてもありました。
茜というキャラクターは、嫌な女の匂いがぷんぷんする役ではありましたが、彼女のこういう部分は、表に出るか出ないかの違いはあるにしても、女性なら内に秘めているのではないか、と思いました。
映画の冒頭に、(聖書の)創世記の一節が出ていますが、まさにそれがすべてを伝えていると思います。茜も、赤澤ムックさんが演じた主人公の絢子も、まったく違うタイプのように見えて、一貫して「強い女」というイメージを感じたので、女としても、この作品に出演したい、と思ったのを憶えています。

川本淳市さん(以下、川本) 脚本を読んだ第一印象は、「台詞が少ないなぁ」ということです(笑)。
まずは、「(啓介役を自分が)できるのかな」と感じました。自分の思いだしたくない部分を引っ張りだされているような感じがする役なので、「そこで勝負できるだろうか。自分の嫌なところを認めることができるだろうか」とは思いましたし、一番、考えるところではありました。

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《夫婦役について》

小沼 川本さんはご結婚なさっていますが、夫婦役を演じるということで、独身でいらっしゃる広澤さんは難しさを感じましたか?

広澤 最初に小沼監督から、「茜は、自営のクリーニング店で働いてはいるものの、専業主婦で、特に表に出るわけでもありません。家事に追われる生活を繰り返していて、たまっているものを吐きだす場もない立場なんですよ」というようなお話を伺いました。私は結婚した経験も結婚願望もないので、「専業主婦の生活を耐え忍ぶ女はすごいな」と思いました。
我慢しながら耐えて、それでも幸せだと思う暮らしを、自分だったらしんどいと感じるからこそ、実際にそうなったときの環境や、犠牲にしなくてはならないものを想像しながら演じました。「主婦は職業にしたら、すごい収入をもらってよいのだ」とはよく言われますが、「主婦は頑張ってるんだ。えらいんだぞ」というイメージを持ちながら演じた感じです。
しかも、茜の旦那はこんな旦那で……(と、川本さんのほうに思わず手を向けて)、あ、ごめんなさい。川本さんじゃなくて(会場笑)、啓介が、です(笑)。

川本 (笑って)失敬だな、きみは!(会場爆笑)

広澤 川本さんじゃなくて(笑)、啓介がこんな旦那なので、茜はより大変だな、と思いました。「茜、頑張れ、頑張れ」と思いながら演じました。

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《啓介を演じるにあたって》

小沼 川本さんの演じた啓介は、非常に情けないタイプのキャラクターで、演じる上では、「自分がこの役を好きになれるか」という部分がポイントだったかと思いますが、いかがですか?

川本 「自分自身が絶対に、この役を愛してやらなくてはいけない」というところはあると思います。それが、映画をご覧くださるかたに、生理的に嫌な部分を与えるか与えないかに影響すると思うんですね。自分自身が役を嫌いになってしまっては、おそらく、観てくださるかたに(啓介に対しての)嫌悪感しか残さないだろう、と思いました。
生きていれば、誰にでもいろいろなことがありますから。そのいろいろな部分を認めて愛せれば、という気持ちで演じました。

小沼 啓介を演じるにあたって、川本さんは自主的にクリーニングの作業を覚えてくださったんですよね。

川本 近所のクリーニング店に、「教えてください」と頼んで、修行にいきました。いろいろな技術を覚えて、撮影でもたくさんやったのに、完成した映画には、少ししか映っていませんでしたね(笑)。
修業先のクリーニング店の人が、この映画を観にきてくださって、「なかなかやるじゃないか」と言ってくださいました(笑)。

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《私生活と役の兼ねあい》

小沼 撮影中、川本さんは帰宅しても啓介役のままだった、と耳にしたんですが……。

川本 普段はあまり役を引きずらないほうですが、意識はしなくても役に左右される部分が俳優にはありまして、それがこの作品では強かったです。たとえば、考えていることなどを、(家族に)訊ねられても答えたくない感じになりました。

広澤 私は、現場が終わって帰宅すると、結構リセットされちゃうので……。
もちろん、撮影の前は、事前に脚本を読みながらいろいろなことを考えますし、現場にはいる前は撮るシーンについて考えますが、帰宅してからも役に支配されていることは、あまりないんです。
撮影現場には、場所と相手役などが整っているので、(自分の場合は)その場へ行くことによって、ほぼすべてのことが作られていく、という感じがします。
たとえば、今回の場合は、現場では川本さんが演じる啓介のことが大好きで、赤澤さんが演じる絢子に対してやきもきしているわけなんですけど、自宅に帰ったら、「ああ、川本さんね」くらいの感覚になりました(笑)。

小沼 川本さんは、(キャストとスタッフの)最初の顔合わせといった準備の段階から、クランクアップまで、終始、啓介の雰囲気を醸しだしてましたよね。
撮影の合間に、川本さんとお話をしようとすると、啓介のまま、無口でうつむいていらっしゃるので、「あ、ちょっと言いづらいな」と感じることもありました(笑)。

川本 特にこういう役の場合は、そうしていないと保てない、というのがありますよね。
監督の演出を否定しているわけではないですし(笑)、僕自身は充分しゃべりたいんですけど、しゃべると気持ちが途切れる感じがしてしまったんです。

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《最初の撮影でキス・シーン》

小沼 川本さんと広澤さんで最初に撮影したシーンは、クリーニング店の2階で茜が啓介に「ごはんだよ」と言って登場する序盤のシーンでしたが、今にして思えば、初めて撮ったシーンで、おふたりはいきなりキスしてますね。あの撮影スケジュールで、よかったんでしょうか?(苦笑)

広澤 まったくですよ(笑)。私、実は、テストの何回目から本当にキスしてよいのか、わからなかったんですよ。でも、川本さんは啓介になりきっているし、監督はぴりっとした雰囲気でしたから、そういうことを訊ける空気じゃなくて(苦笑)。「これはもう、私の意気込み次第なのかな」と思いました(笑)。

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《印象的なシーン》

小沼 川本さんと広澤さんには、どのシーンでも素晴らしい演技をしていただきました。中でも私が一番ありがたかったのは、送られてきたあるビデオを観ている茜のところに啓介が来て、茜の手からリモコンを奪うシーンです。
あのシーンはわりと長回しで撮影しましたが、自分が予想していた以上の演技をおふたりにしていただきました。あのような長いシーンは、多少の段取りはしても、細かい部分は(撮影をしてみての)その場でしか出てこないと思うんですね。
特に期待以上だな、と私が思ったのは、茜のリモコンの奪いかたでした。おふたりは、いろいろ緻密に考えて計算しながらも、いざ撮影にはいるときには、その計算を超えて、全部捨て去ってから本番に臨んでくださったので、監督としては非常にありがたく思ったシーンでした。

川本 僕には、とても印象に残っているシーンがありまして。茜と絢子がいる自宅に啓介が帰ってくるシーンなんですが、あの撮影をしているとき、監督がちょっとだけ怒ったんですよね(笑)。

小沼 そうでしたっけ?

川本 あのシーンはちょっと長かったので、自分の中でも、演じながら、いろいろ考えてしまったんですよ。そうしたら、監督が、「そんなこと考えなくていいんです! 段取りとか、関係ないんです!」とおっしゃって(一同笑)。普段、監督はとても静かなかたなんですが、怒られちゃったな、と(笑)。

広澤 ありましたね(笑)。あのとき、監督は私には、「いろんなことは忘れてください! 茜になってくれればいいんです!」とおっしゃっていましたね(笑)。

小沼 憶えてないですね。忘れてしまいました(苦笑)。
あのシーンも、撮影開始から2日目くらいで撮ったんでしたね。本来なら、あのようなシーンはスケジュール的に後半に設定して、俳優さんのテンションが高くなってきてから撮るのが普通ですが、今回はいろいろと事情があってそうはできませんでした。そのようなタイミングでも、テンションを持っていける役者さんたちでよかったと思いました。「経験のある、プロのかたがただ」という印象が非常にありました。

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《観客からの質問》

― 教師をやめた啓介が始めた仕事がクリーニング店というのは、「汚れたものを消したい」という意味合いがこめられているのですか?

この質問に対して、小沼監督も、客席にご来場だった本作の脚本家・港岳彦さんも、「その通りです」と答えていらっしゃいました。

― 撮影中に苦しかったことは?

川本 「撮影中は、ほかのキャストと仲良くならないでほしい」という要求が監督からあったので、出演者のかたがたとコミュニケーションがとれないのが苦しい、というのはありました。
また、啓介というキャラクターが物語の中でしていること自体が、やはり苦しかったです。撮影が終わったときには、解放感を味わいました(笑)。

広澤 私も川本さんと同じで、役柄そのものが苦しい、という部分はありました。
茜が登場するのは啓介とのシーンがほとんどですが、どのシーンでも茜は愛されていないので(苦笑)、つらい感じでしたね。よい意味ではありますが、演じる上で精神的には、楽しい感じの現場では、あまりなかったです。大変な夫婦でしたよ、本当に(笑)。

小沼 私は楽でした(笑)。予算的には厳しくてスケジュールもきつかったですけど、この映画では本当に、よい役者さんとよいスタッフに恵まれたので、内容的には楽をさせていただきました。全然、苦しくなかったです(笑)。

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▼『結び目』作品・公開情報
2009年/日本/91分
監督:小沼雄一
出演:赤澤ムック 川本淳市
広澤 草 三浦誠己
辰巳啄郎(友情出演)
上田耕一 他
プロデューサー:小田泰之
脚本:港 岳彦
撮影:早坂 伸(J.S.C)
音楽:宇波 拓
製作・配給:アムモ
コピーライト:(C)2009 アムモ
『結び目』公式サイト
※2010年6月26日(土)より、シアター・イメージフォーラム(東京)にて公開。上映はいよいよ7月30日(金)まで!

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取材・編集・文:香ん乃 スチール撮影:細見里香
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《セレブの靴チェック!》
広澤草さん 川本淳市さん 小沼雄一監督
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《フォト・ギャラリー》
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