『暁闇』— 阿部はりか監督 & 撮影・平見優子さんインタビュー

  • 2019年07月17日更新

若手の登竜門として近年、数々の秀作を送り出しているMOOSIC LABから、またまた珠玉の青春映画が誕生した。昨年、長編部門の準グランプリに輝いた『暁闇(ぎょうあん)』は、中学3年生の男女3人の孤独な苦悩をみずみずしい感性で切り取った意欲作。演劇を手がけてきた阿部はりかさん(24)が初の映画監督に挑み、そのあふれんばかりの豊かなイメージを『少女邂逅』(枝優花監督)の撮影で評判を取った平見優子さん(25)がカメラに収めた。2019年7月20日(土)からの公開を前に、同世代の2人に映画の魔力などについてたっぷりと話を聞いた。(取材・インタビュー撮影:藤井克郎)


映画は外側に向かっていくもの

映画『暁闇』メイン画像—3人の中学生の心の痛みを、せりふを極力排して映像で表現しているところに強く惹かれたのですが、以前からこのテーマで映画を撮りたいと思っていたのですか?

阿部はりか監督(以下、阿部):これまでやってきた演劇の直近2作がベースになっていて、構想自体は長い間、自分の中にありました。また、今回映画をやるに当たってプロットを考えていたとき、15歳という年齢が明確に浮かんできました。現実から離れた異界につながるような悩みに一番とらわれてしまうのが、15歳くらいなのかなと思ったんです。現実とは違う世界に心を持っていくことで現実の痛みや苦しみを保留していた状態の子たちがもう保留できなくなったとき、じゃあ現実に戻らなくちゃならないよね、という話を描きたいと思いました。

—演劇ではできなかったものを映画に?

阿部:演劇を続けていくなかで結構、立ちいかなくなってきた状況があって、気持ちのありようとして外側に向かないとダメな気がするというタイミングでした。演劇では一つの時間や一つの空間を守り抜くという意識が強かったけど、映画はいろんな空間を切り離して持ってくるものだから、自分にとってもある種、現実を向かなくてはならない。外側にカメラを向ける必要がありましたね。

—平見さんとは以前から?

阿部:いえ、全然知り合いではなかったです(笑)。MOOSIC LABのプロデューサーの直井卓俊さんにプロット見せたとき、これだったら平見って人がいるんだけど、と教えてくれました。『少女邂逅』を見ていたので、ぜひ話を聞きたいですとつないでもらいました。

平見優子さん(以下、平見):最初に話をいただいたときは、プロットの内容がかなりバイオレンスで……。

阿部:もっと暗かったんです。

平見:結構、衝撃的で。えっ、と声を出したくらい破壊力がすごかった。これは撮ってみたいなと思いました。

人は普段そんなにしゃべらない

—特に3人が出会う廃墟ビルの屋上の映像が印象的ですね。船のようなオブジェをシンメトリーにとらえていて……。

阿部:村上春樹作品を解説した「思春期をめぐる冒険」(岩宮恵子著)という本で、観覧車に乗っている女の子がマンションの部屋の中にいる自分を見てしまい、その日からピアノが弾けなくなるという描写が村上作品にあることを知って、とても強く印象に残っていました。高い位置にいる人と低い位置にいる人とが目が合うことで、何か状況がガラッと変わる瞬間を作りたいと思っていたんです。

平見:シンメトリーな絵がとても好きで、撮りがいのある場所でした。私個人としては楽しく撮影させてもらいました。

—せりふを抑え、すべて映像の力で見せていく手法も印象に残ります。

阿部:映画を見ているとき、登場人物に対して「よくしゃべるな」と思うことが多くて(笑)。自分自身が普段、無口なので。それに『暁闇』の登場人物たちは基本的につらい状況に置かれているので、さらに言葉を発すると、押しつけがましくなってしまう。編集段階でもせりふはめっちゃ削っています。

平見:阿部さんは、現場で「このシーン、よかったよね」みたいなのを、編集でバシバシ切るんです、無慈悲に(笑)。自分で撮った素材なのに、こんなに客観的に見ることができるということに感動しています。

阿部:それは多分、映画サークルにいたわけではなかったからこそですかね。いわゆる内輪感を経験していないから、完全に一観客としてジャッジし続けているのかも。

平見:それはあるかもしれない。あそこまで頑張ったのにあんなにカットされたら、次はあの監督、もう撮れないよ、というのはサークル内ではよくありますから(笑)。

「こんな表現どう?」と言い続ける立場


—お二人の映画のバックグラウンドについて教えてもらえますか?

阿部:父が洋画の配給会社で宣伝をしていたので、映画は好き嫌いの前にとても身近な存在でした。でも中高生のころに好きだったのは演劇で、特にイキウメという劇団がすごく好きだった。無名の小劇場など週に1~2日は見にいくという感じで、大学は東京芸術大学の先端芸術表現科に進み、学外の人たちと公演ごとにユニットを組んで演劇活動をしていました。

平見:私は幼少期は映画を全く見ていなくて、家族でバラエティーとかおもしろドラマとか、そういうテレビばかり見ていました。ただ中学生のときにちょっと心を病んで、なぜか先を見たくなって早稲田大学の文化祭に行ったとき、ちょっと休もうと入ったのが映画サークルの部屋だったんです。上映されていた自主映画を見て、これなら自分で作れるかも、と思って、友達を5~6人集めてバラエティーのワンシーンみたいな遊び映像を撮り始めたのが最初ですね。

阿部:わあ、めっちゃいい話。

平見:で、早稲田大学に進んでちゃんと映画サークルに入ったら、周りが映画を見ている猛者ばかりで、やばいと思って見始めたといったところです。

—自分で監督もしたのですか?

平見:昔々に。

阿部:あ、見たい。

平見:あんまり見ないで、という感じです(笑)。ただ監督をやる前に撮影で入った作品が学生映画祭とかに引っかかって、撮影を褒めていただいた。撮影というポジションは、こんな表現どう? って言い続ける立場で、こっちの方が好きかなと思っています。

作ることでしか言えないものがある

—今後も映画は続けていきますか?

阿部:映像は編集という作業工程があるので、自分に対する反省の時間を過ごしてから観客に出すことができるのがうれしい。それは自分にすごく合っていると感じています。制作を続けていくためのベストな環境を整えられたら、と日々考えています。やっぱり作品を作ることでしか言えないものがあるので、撮りたい、作りたい、となったら、映画をやるしかないというのは間違いないです。

—劇場公開が目前ですが……。

阿部:昨年のMOOSIC LABのときもそうでしたが、同世代の子で来るのは友人とか身の回りの人ばかりで、関係のない人までは届きにくい。見てもらったら絶対に思うところがある映画だと思うので、全然映画とか見ないという子にこそ来てほしいですね。

 

【監督/阿部はりか(あべ・はりか)】
1995年生まれ。東京都出身。東京芸術大学美術学部先端芸術表現科の在学中から演劇作品を手がける。映画に関しては、MOOSIC LAB2014のオープニング映像に出演しているほか、首藤凛監督『なっちゃんはまだ新宿』(2017)に美術として参加。初の映画監督作品となる今作でMOOSIC LAB2018長編部門の凖グランプリを受賞し、第20回全州国際映画祭ワールドスケープ部門にも招待された。


【撮影/平見優子(ひらみ・ゆうこ)】
1994年生まれ。東京都出身。早稲田大学在学中に自主映画サークルに所属し、撮影として参加した作品がいくつかのコンペティションで受賞。深田晃司監督の『淵に立つ』(2016)などの作品で撮影の根岸憲一に師事する。サークルの先輩に当たる枝優花監督の『少女邂逅』(2018)ほか、井口昇監督『少女ピカレスク』(同年)、小川紗良監督『BEATOPIA』(2017)などで撮影を手がけた。

 

▼『暁闇』作品・公開情報
(2018年/日本/57分)
監督・脚本・編集:阿部はりか
音楽:LOWPOPLTD.
撮影:平見優子
助監督:菅沼絵美 制作担当:伊藤希紗
照明:山口峰寛 録音:浅井隆、五十嵐猛吏
衣裳:藤井澪 ヘアメイク:田村友香里 スチール:飯田エリカ
企画:直井卓俊 配給:SPOTTED PRODUCTIONS
出演:中尾有伽、青木柚、越後はる香、若杉凩、加藤才紀子、小泉紗希、新井秀幸、折笠慎也、卯ノ原圭吾、石本径代、芦原健介、水橋研二

【ストーリー】何に対しても無気力な少年、コウ(青木柚)、放課後に街をふらふらしては見知らぬ男たちと関係を持つユウカ(中尾有伽)、すれ違う両親の狭間で行き場のない悲しさを抱えるサキ(越後はる香)。3人の中学3年生をつなぐ接点は、夜中にインターネットで公開されるある音楽だった。だがある日、公開されていた楽曲がすべて削除されてしまい、都会の片隅にある廃ビルの屋上で3人の出会いが生まれる。

関連記事:7月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―:『暁闇』

『暁闇』公式サイト

※2019年7月20日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

◎ゲストライター
藤井克郎(ふじい・かつろう) 1960年、福井県生まれ。85年、東京外国語大学卒業後、フジ新聞社に入社。夕刊フジ報道部から産経新聞に異動し、文化部記者として映画を担当する。社会部次長、札幌支局長などを経て、2013年から文化部編集委員を務め、19年に退職。文化部時代の1997年から1年半、映画ジャーナリズムを学びに米ロサンゼルスに留学する。共著に「戦後史開封」(扶桑社)、「新ライバル物語」(柏書房)など。
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