第28回東京国際映画祭・追悼特集『高倉健と生きた時代 』― 倍賞千恵子さんが語る高倉健さんとの思い出

  • 2015年11月01日更新


2015年10月22日(木)〜10月31日(土)に開催された第28回東京国際映画祭。追悼特集『高倉健と生きた時代』では、昨年11月に他界した名優・高倉健さんの一周忌を前に10本の主演作品が上映された。

10月25日(日)には会場となったTOHOシネマズ新宿に倍賞千恵子さんが登壇。これまでに高倉さんと共演した『幸福の黄色いハンカチ』(77)、『遙かなる山の呼び声』 (80)、『駅 STATION』(81)の映画3作品の思い出と、在りし日の高倉さんについて公の場で初めて語った。
(写真左:倍賞千恵子さん 写真右:聞き手を務めた娯楽映画研究家の佐藤利明さん)


『幸せの黄色いハンカチ』夕張ロケでは、山田洋次監督のはからいで健さんと相合い傘

― 倍賞さんと健さんは77年公開の『幸せの黄色いハンカチ』で初共演を果たされましたね。第一印象はいかがでしたか?

倍賞千恵子さん(以下、倍賞):かっこいいなと思いました。すごく眼力のある方で、とても緊張しましたね。目の小さい方(故・渥美清さん)とばかりお仕事していたものですから(笑)。

― 夕張での撮影の思い出をお聞かせください。

倍賞:夕張では、いつも出演者やスタッフで食事をした後にお茶を飲みに行っていたんです。撮影初日が雨で、みんなが傘をさして歩いていたんですけど、山田(洋次)さんが「倍賞くん、健さんのところに行って兄弟が何人か聞いてきてごらんよ」って言うんですよ。「え、わたしが?」と思いながらも、健さんの傘に入って行き「健さん、兄弟何人ですか?」って聞きました。でも、すごく緊張していたので何て答えられたかを覚えていないんです(笑)。

― 山田監督が健さんと倍賞さんの親和をはかろうとしたんですね。

倍賞:そうだと思います。でも、その時はまだ健さんがどんな風にお芝居をする方なのか分からなかったので、夜にケンカのシーンの撮影を見に行ったんです。

― 主人公の島勇作が網走刑務所に入るきっかけになったケンカのシーンですね。赤塚真人さんが演じるチンピラたちをボコボコにしてしまう。

倍賞:とっても怖かったんですよ。ずっと見ていてはいけないと思うくらい……。ものすごい緊張感で、その時の健さんは近寄れない感じでした。

― 健さんには優しさと、山田監督の世界とはまた違う、東映映画で培ってきたワイルドさというか男の怖さがありますね。勇作役に入りきっておられたのですね。

倍賞:はい。そうだと思います。

『遥かなる山の呼び声』の構想は健さんと山田監督の雑談から生まれた

― 『幸せの黄色いハンカチ』のラストシーンは、撮影に何日もかかったそうですね。

倍賞:風とか天気待ちの時間が多かったんです。どんな風に黄色いハンカチが掲げられるのか、わたし自身も楽しみで撮影現場に見に行く時にはドキドキしました。健さんと鉄ちゃん(武田鉄矢さん)、(桃井)かおりちゃんが劇中でハンカチを見つける時の感動を、わたしもそこで味わった感じがしました。

― あのシーンの天候待ちの間に、健さんと山田監督が話している中で出てきたのが、アメリカ映画『シェーン』(53)の主題歌『遥かなる山の呼び声』をモチーフにした映画の構想だったそうですね。

倍賞:そうですか! 知りませんでした。

―『遥かなる山の呼び声』ではどんな思い出がありますか。

倍賞:わたしが演じた民子は、離農するかどうかの瀬戸際で悩んでいる零細酪農家で、搾乳したり牛小屋の掃除をしたりしながらセリフを話さなくてはいけないんですね。なので、牧場に住み込んで、まずは仕事を覚えることから始めました。それからセリフ、お芝居へと入っていって。とても濃い時間を過ごした作品です。

― 『幸せの黄色いハンカチ』では健さんと夫婦の機微を演じ、この作品では“男と女”を演じられました。影のある男と、夫以外の男性は愛さないと心に誓っていたかもしれない未亡人。演じられていかがでしたか。

倍賞:「行かないで!」って男性にすがり付くような役はやったことがなかったですし、いろいろな意味で初体験の多い作品でしたね。普通に生活をしながらも、そこに男と女が入ってくるというか。

― 男性に対してガードの固い女性が、「行かないで!」と言うまでの濃密なドラマに僕らはドキドキするのですが。(『男はつらいよ』シリーズで)満男くんのお母さん、博さんの奥さんだった倍賞さんが“女”を演じるのはすごく久しぶりだったのではないですか。

倍賞:そうですね。それまでは“さくらさん”でしたから。「行かないで!」ってあんな形で男性に言うのは初めてでした。実際にも言ったことないですし。言われたことならあるんですが(笑)。

― 息子役の吉岡秀隆くんとも倍賞さんはこの作品が初共演だったとか。

倍賞:はい。当時は小学校1、2年生だったんですよね。彼は小さかったから、もっと幼い印象でした。

― 健さん演じると耕作と吉岡くんの演じた武志のラストのシーンでは、“男の背中を見送る少年の姿”がとても印象に残っています。あのシーン、吉岡くんも本当に感情が入っていますよね。

倍賞:「おじさん、本当に行っちゃうの?」というセリフを言う時なんかは、遠くで見ていても分かるほど震えながら泣いていて。帰ってきてわたしの手を握った時も、全身から悲しみが溢れていたのね。カットがかかった瞬間に、吉岡くんが牧場の方に走って行ってしまったんです。しゃがみ込んで一人で泣いていたみたい。わたしも、この作品では自分がどこかに行ってしまって。全身が民子さんで、カチンコが鳴っても千恵子さんが戻ってこなくて……とても変な違和感があったのを覚えています。

― 健さんと吉岡くんは、99年公開の『鉄道員(ぽっぽや)』でも共演しますよね。健さん演じる老いた駅長の乙松さんに最後の電話をかけるのが吉岡くんの役で。僕はそれを観る度に、耕作さんと武志の何十年後を映画で観ることができたように思うんです。そうやって健さんは映画の中で生き続けているんですよね。すばらしいことです。

倍賞:本当にそう思います。

― そして、『遥かなる山の呼び声』のラストシーンで民子さんが耕作さんに渡すのが黄色いハンカチ。そこは大スクリーンで観ないと分からないかもしれないけど。

倍賞:そうなんです。なにげにね(笑)。

おちゃめな一面もある健さんは俳優としても人間としても尊敬できる先輩

― そして、健さんと倍賞さんは81年公開の降旗康男監督『駅 STATION』で共演されますね。倉本聰さんの脚本で健さんと共演するのは二度目だったとか。

倍賞:TBSのテレビドラマ『あにき』(77年10月~12月放送)で一度共演しました。

― 『あにき』の桐子という役名は『駅 STATION』と同じなんですよね。今度は、健さんと倍賞さんが男と女の行きずりの出会いと人生を背負った別れを演じられます。この作品にはどんな思い出がありますか。

倍賞:すごく行き届いた現場だったんです。桐子さんが営む居酒屋のセットでは、「ここにこれがあってほしい」という所にちゃんと物が置いてあって。ふっとゴミ箱の中を見たら、きっと前の日に使ったであろう大根の切り端とかがそこに入っていたりして。違和感がなく、居心地よくカウンターの中でお芝居ができました。

― 現場が行き届いているというのは、高倉健さんの映画だからというのは大きかったのかもしれないですよね。

倍賞:ああ、そうかもしれませんね。本当に隅々まで行き届いていました。

― 健さんといえば、撮影の待ち時間も決して座らないという伝説がありますよね。僕は実際に『夜叉』(85)の撮影現場で、夜どんなに寒くても、周りに配慮してストーブにもあたらずに立っている健さんを目の当たりにしたのですが。実際にセットの中にいる健さんの様子はいかがでしたか?

倍賞:緊張感のあるシーンでは現場の空気も張りつめていたし、健さんには近寄りがたかったですね。そんな中、暗がりでストレッチしていた姿が印象に残っています。でも、撮影が終わると結構おちゃめなところもあって。一度なんか、打ち合わせでお茶を飲んでいる時にご自分の腕時計を外してお水の中にパシャンと落としたんです。びっくりして「何するんですか!」って聞いたら、「大丈夫です。これは防水です」って(笑)。人を驚かせるのが好きな一面がありました。

― 最後に倍賞さんから見た高倉健さんとはどういった人でしょうか。

倍賞:渥美清さんや笠智衆さんと同様に、二度と現れないタイプの俳優さんだと思います。山田さんが「すばらしい俳優さんほど贅肉が少ない」ってよくおっしゃるんです。それは太っているとか痩せているとかいうことではなくて、自信がない人ほどいろいろと小細工して芝居をする。それを山田さんが“贅肉”と言っているんだけれども。それが本当に無い人が高倉健さんだと思います。そんな俳優になりたいし、そういう人間でありたいと思える先輩の俳優さんですね。

― 健さんも、渥美さんも、ご自分の映画が公開された時には観客に紛れて映画館で作品をご覧になったそうです。きっと、今もこの会場のどこかで一緒に観ているかもしれませんね。倍賞さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

倍賞:こちらこそ、ありがとうございました。

<コピーライト>
『幸福の黄色いハンカチ』
©「幸福の黄色いハンカチ」監督/山田洋次
©1977.2010松竹株式会社

『遙かなる山の呼び声 』
©「遙かなる山の呼び声」監督/山田洋次
©1980松竹株式会社

『駅 STATION』
©1981 東宝

▼第28回東京国際映画祭 開催情報
期間:2015年10月22日(木)〜10月31日(土) 10日間
開催:会場六本木ヒルズ(港区)、新宿バルト 9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ 新宿(新宿区)ほか、 都内の各劇場及び施設・ホールを使用
コピーライト:©2015 TIFF
東京国際映画祭公式サイト
※現在は終了しています

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取材・編集・文・撮影:min

  • 2015年11月01日更新

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