『アジアの純真』 片嶋一貴監督×井上淳一さん×青山真治監督トークショー

  • 2011年11月03日更新

世界を変えようと決意した少年と少女の行き着く先はーー全く思いがけない展開に賛否両論を巻き起こしている『アジアの純真』。
この上映を記念して、K’sシネマにて2011年10月25日、片嶋一貴監督と脚本を手がけた井上淳一さん、映画にコメントを寄せた青山真治監督のトークショーが行われました。青山監督と片嶋監督は、かつて助監督として同じ現場で仕事をした仲、昨年、パリシネマ映画祭で再会して旧交を温め、今回のトークショーが実現したのです。映画が終わりスクリーンの前に現れた青山監督は、ワインを2本(ボトル?)も飲んでほろ酔いの様子。時々意識が飛んでしまうことを井上さんが心配するなど、映画の展開には叶いませんが、思いがけないハラハラさせられる展開となりました。


無自覚に負けるってことが信じるも信じないも実感としてあるんですよ(井上淳一さん) 
井上淳一さん(以下井上):(まず)この映画の話をしましょう。僕がこの映画(アジアの純真)のシナリオを書いたのが2003年で、撮影が2009年の1月、完成が2009年の7月で、公開まで2年数ヶ月経っているんです。どこの映画館にも断り続けられ、国内映画祭にも断り続けられ……。それでもとりあえずいろんな人に見せてコメントをもらおうとして。今年の1月に青山さんにすごく素敵なコメントをもらったんです。チラシや予告編にも使ったんですけど、それによって一気に公開に向けて動き始めたんです。
青山真治監督(以下青山):片嶋さんはどういうふうに思っていらっしゃるんですか? 三段階、四段階、オチがある映画ですが、そのどこでやめるか、片嶋さん自身は考えなかったんですか? 
片嶋一貴監督(以下片嶋): この経緯は取材でよく語っているんですけど、2003年、井上が僕のとこに持って来たシナリオは少女が自転車で少年の学校に現れるまでで、そこから一緒に考えて行こうとなって、最後はああいう形にしたんです。途中で終らせるつもりはなかった。
青山:井上さんもああいう終り方をするつもりでいたの?
井上:途中では終れないなっていう思いはあって。あのラストは片嶋のアイデアだけど、それに乗ってやってみようと思えたという。
青山:終盤、言ってみればアニメみたいなものじゃないですか。
井上:まあそうですね。途中から漫画と言えば漫画なんですよ。
青山:いや、それはちょっと微妙に違う。そこんとこはそこのとこでまた別だと思うんですけど。でも、あのアニメ状態っていうのは脚本家としては受け入れたんですか?
井上:うん、まあ、受け入れました。
青山:それはそれでいいんですか。
井上:それによって多くのお客さんを失ったのかもしれないけど(苦笑)、よくけなされた時に「だけどそこを褒めてくれる人がいます」みたいなこというやつは非常にキライなんだけど、まあ、あそこがあるからこの映画がね、何か人に語ってみようっていうことになってると思うんです。それと、本人たちが気づいても、結局はこの世の中の多くの無自覚に飲み込まれていくだろうということとかが(ああいう展開の中で)描けるんじゃないかと思ったんです。
青山:そんなことが信じられるんですか。
井上:だけど無自覚に負けるってことが信じるも信じないも実感としてあるんですよ。負けざるを得ないというか。
青山:それはいやだな、そういう敗北主義は僕はキライだな。
井上:でも、映画の中では、主人公の少年と少女はある結論に達しているわけですよ。
青山:彼らは少年と少女なんですか。
井上:まあ一応。
青山:井上さんにとってそれは少年と少女なんですか。自分じゃない?
井上:もちろん、少年目線で書いてますけど……。青山さんの作品は、全部どこか自分? 例えば『サッドヴァケイション』の浅野忠信は、やっぱり自分なんですか。
青山:うーん……よくわからないです。
井上:なるほど。そうやって言えばいいのか「よくわからないです」……それがインタビュー慣れっていうことか(笑)。
青山:インタビュー慣れしてるからそういうわけじゃない。せっかく今日いらして頂いたお客さんたちに、どういうふうにこの作品をわかっていただけるのかっていうことを……。


俺らが映画祭に行くとお客さんが一時間くらいなんか言うのよ、感想を(青山真治監督)
井上:青山さんはそういう(今問題視した)ところがあるからこの映画を褒めてくれたわけじゃないですか。
青山:(客席へ向かって)みなさんはどう思ったんですか。この映画について自分がなんか話をするよりも皆さんがどう思ったか、ってことがずっと大きいような……。見なきゃよかったものを見ちゃったなっていう感触の方もきっといただろうと思うし。僕は逆にこんだけパワーのある映画を久しぶりに見たからいいなって思ったんですよ。こういう席って俺らがなんかしゃべるよりも、お客さんがなんか聞きたいことを聞いてくれるほうが大事だと思う。つまりね、今日のトークショーには「国際映画祭に出ることについて」って副題が一応ついてたりするじゃない。でも俺らが映画祭に行くとお客さんが一時間くらいなんか言うのよ、感想を。それに対して懇切丁寧に答えたりするじゃない。それをみんなで共有する、そういう瞬間があるわけです。そういうことじゃないですか。
片嶋:ロッテルダム国際映画祭もそうだったし、パリシネマ映画祭では120席くらいの場所で2回やったんですけど2回とも満員で、ずーっと質問ぜめで。時間内に収まらなくて、ロビーに出て来ても一時間くらい話してて。ちょっと不思議な体験だったけど。(青山に)いつもそういうことやってるわけだな。
青山:まあそういうことです。
井上:外国の映画祭はどうなんですか。その青山さんの映画から政治的な何かを聴き取ろうとする質問があるんですか。
青山:ありますね。今回、ナントという街から車で一時間くらいの街の映画祭に行ったんですけど、そこでの質疑応答も「あなたはあの事故(原発事故)についてどう思っているのか?」でした。


最後まで2人は生きていて何かしらこの世に復讐をする、っていう方向に持っていかないといけない(片嶋一貴監督)
片嶋:パリシネマ映画祭で青山がなかなか洒脱に語るのがおもしろかったんだよね。あと(映画祭で発表された)20年間のベスト10の1位が『ユリイカ』、2位が『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』、3位が『愛のむきだし』。みんな長いから、やっぱり揺られていたいんだってことなんですよね。
青山:それは俺が考えたんじゃなくて、廣瀬純という批評家が掲げたことで。みんなバスに乗っていたい、みんな運動していたい、みんなむき出していたい、とか、そういうことじゃないのかって。できる限り長い時間そうしていたいってことがあるがゆえに、意外に3時間もある映画が多く評価された。でもそれがなぜ日本映画だったのかはわからない。日本映画はある種の欲望をむき出しにしていくところがあるからかな? 当然マイノリティーですよね。日本語でしゃべるのだから。中国語ですらない。韓国語ですら2カ国で使えるのに、日本語はほんとこの狭い島国でしか使えない。にも関わらず、何かが……。キューバの人には『座頭市』が一番らしい。『キューバの恋人』っていう黒木和雄のヘンな映画がありますけど、日本とキューバの友好の橋になってるみたいだし。(『アジアの純真』も)そういう礎になってほしいなと思ってこういう話をしてるのではないですか。
井上:なり得るんですか?
青山:なりましょうよ。
井上:どうなんでしょうか。よくも悪くも投げっ放しジャーマンスープレックスみたいですね。どこかで突き放して、物語ることを放棄して、お客さんを選んでしまってるじゃないですか。そういうとこで青山さんの最初の質問になるんじゃないですか。
青山:いや、僕じゃなくて、お客さんがどう思ってるのか。
(ひとり挙手。キレイな女性でした)
女性客:途中、海のシーンで海をビニールで作った意図は?
井上:僕がシナリオに「ビニールの海」と書いたわけじゃないからなあ(笑)。オールラッシュを見た時に、あのビニールはCGで海になると思ってたんだもん。最初は製作費の問題かなと思ったけど、もちろんそうじゃないなくて、確信犯、フェリーニなんですよ(笑)。
片嶋:最後ブラックファンタジー的に終るとするならば、最初がリアルに進んでいって、だんだんちょとずつちょっとずつずらしていかないとならないということからああいう流れになったんですけど。哀しい話で終らせることは僕としては絶対にあり得なかった。最後まで2人は生きていて何かしらこの世に復讐をする、っていう方向に持っていかないといけないと。
青山:パリで印象的だった質問は「何に復讐するのか?」ってことだった。
片嶋:それは自分自身でしょう。単なる環境の問題じゃないよ。世界を変えるっていうのは自分自身の問題である。少年も少女にとって自分自身イコール世界なんだろうなって。


俺は俺が映画だと思ってるものの最後の世代だと(青山真治監督)
片嶋:青山、昔、「自分自身イコール映画である、自分自身が死んだら映画は終る」と言っていたことあったけど覚えてねえか?
青山:うーん実は今でもそう思ってます。同世代じゃなくて全然下の世代の映画があるのかもしれないし、それが徐々に評価されてきているのも知っていて、それを誇らしいと思ってもいますけど、少なくとも僕たちが「これが映画だ」と思ってることと、彼らが「これが映画だ」と思ってることはたぶん違うし、俺は俺が映画だと思ってるものの最後の世代だと。役目が終ったら、とっとと死にたいなということをしか思ってないですけどね。まあそういう意味では最後まで俺らが、ちゃんとみなさんに見届けもらえるまで自分たちにとっての映画ってこれだったんだよっていえるものを作って終わりにしたいなと思うし。それはたぶん、片嶋さんも同じだよね。
片嶋:それは今日見てるお客さんもそうだし。
青山:今日いらっしゃってるお客さんもたぶんその世代なんだな。だから今見てくださった映画にそんな不可思議な疑問をもたないんだよね。
井上:上映されるまでは1対9で、賛が1で否が9と思っていたけど、意外に上映が始まったら50対50なってきましたね。
片嶋:いやあそれはわからないな。ちゃんと聞いてみたいとわからない。今日いらしてくださった方がこの映画の出来不出来は別にして映画って言いたいことがあるんだって思ってもらえたらいいな。今は無理かもしれないけれど、帰ってネットや友達にこの映画について何か話してくれたらいいなと思います。
青山:井上さんが考えたことがあるじゃん。で、それを片嶋が演出したじゃん。でもね、それをさらに飛び超えて次のところへ向かうっていうのが映画でしょ。
井上:もちろんそうです。
青山:たぶん今日のお客さんたちは持って帰ってくださると思う。
三人:お疲れさまでした。

片嶋監督から自身の「覚悟」を聞き出された青山監督は終始観客に向かって「この映画について思うことを話してほしい」と問いかけていました。が、誰も言葉を発しませんでした。「青山さんがハードルを上げてしまったから発言できにくくなってる」と井上さんが笑っていましたが、ぬるいことを言ったら怒られそうな気がしたのではないでしょうか。
 すでに映画を見た人も、これから見ようと思う方も、青山監督の問いかけについて是非考えてみてください。


▼『アジアの純真』映画情報
日本/2009年/108分
監督:片嶋一貴
脚本:井上淳一
出演:韓英恵、笠井しげ、黒田耕平、丸尾丸一郎、川田希、澤純子、パク・ソヒ、白井良明(ムーンライダーズ)、若松孝二
製作:ドッグシュガー、ロード・トゥ・シャングリラ、HIP
●アジアの純真公式サイト 

※11月5日(土)よりシネマスコーレ(名古屋)、12月3日より第七藝術劇場(大阪)、元町映画館(神戸)、京都みなみ会館(京都) ほか全国順次ロードショー!(C) 2009 PURE ASIAN PROJECT

取材・撮影:木俣冬

  • 2011年11月03日更新

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