『サウダーヂ』―世界も耳を傾けた、山梨県甲府からあがった都市生活者たちの叫び。

  • 2011年10月20日更新

土方、移民、HIP HOPの3つのテーマで、地方都市を描く。
山梨県、甲府と聞いてイメージすることを大きく覆された。
山梨、甲府、ぶどう……こんな先入観を、少なくとも東京都民のひとりはぼんやり抱いていたのだからお笑いぐさだ。だって、この間放送していたドラマ『マルモのおきてスペシャル』でも主人公たちが山梨のぶどう園に出かけていたから……なんて言い訳すればするほど恥ずかしい。10月22日からユーロスペースで公開される『サウダーヂ』で描かれている甲府は、「土方」「移民」「HIPHOP」。
『国道20号線』(06年)で日本のロードサイドを描いて注目された富田克也監督の新作は、一年間もの時間を費やし、シャッター商店街となった地方都市の住民たちの姿を追ったもので、去る7月ロカルノ国際映画祭にも出品され話題になった。
土方作業員も外国人労働者もHIP HOPミュージシャンも、主要な出演者のほとんどが地元の人たち。だからこそドキュメンタリーのような生々しい感触がある。おそらく、同じような体験を持っている者は大いに共感し、知らなかった者にも確かにこういう人たちが今、存在するのだということが強烈に伝わってくる。

閉塞した日々から脱するために彼らがやっていることは……。
甲府のとある土木建築現場。そこでは様々な人たちが働いている。土方ひとすじの精司、タイ帰りの派遣・保坂、HIP HOPグループ・アーミービレッジのクルークルー・猛、日系ブラジル人、タイ人などの外国人労働者たち……、皆、それぞれの事情をもっている。精司は妻がいるにも関わらずタイ人のホステス・ミャオに夢中。保坂はワケありの過去がある様子。猛は彼らとのつきあいに馴染めない。猛は家庭にも悩みを抱えていて、両親は自己破産、弟は心を病んでいる。不況で土方の仕事も減っているので皆の閉塞感は増すばかり。とはいえ彼らがそこから脱出するための選択はなんとも愚かしい。精司の妻はあやしい水を売る仕事をはじめ、精司はミャオにのめり込みタイに行こうとまで思いつめる。猛はライブ会場で日系ブラジル人グループの存在が気に入らなくて、苛々を募らせていく。



リアルな現実、ユーモア、夢……空洞と言われる都市にも多様さが。
精司役の鷹野毅と保坂役の伊藤仁はネイティブ山梨県人で土木の仕事の体験者でもある。そのため作業の様子にリアリティーがあるし、ガテン系な肉体の魅力もハンパない。アングラ俳優も少なくなっている昨今だが、この映画の出演たちは貴重な破天荒さと色気を見せてくれる。精司とタイ人ホステス・ミャオの部屋の中でのダラダラベタベタした甘ったるい雰囲気の間合いも自然。冷えきった妻との関係性との違いのはげしさよ。
こんなふうに富田監督は生活や風俗をとても丁寧に描写する。それでいてドキュメンタリーではないので、風俗店で働く女性たちの姿や、クスリによって発想がぶっ飛んでいく女の子、政治家のパーティーの様子などはユーモアを交えた視点で描いている。
監督の演出のレンジの広さを感じたのは、精司の妻役の女優の甘え声。これはふだんの喋り方とは全く違う、徹底した役作りだったことに驚いた。その他、どこかファンタジックな表現まで出てくるなど人間の多層な面がたっぷり詰め込まれている。まるでライブハウスの喧噪と混沌と昂揚のような感覚だ。ロカルノ国際映画祭で惜しくも受賞を逃したが、批評家たちから高い評価を得ただけのことはある。


叶わぬ思いなのか? 切実に響く、ラップの歌詞。
予告編でも使われているHIP HOP のライブで税金や源泉徴収をディスッてるラップは切実。あまりにストレートだけど真実。
故郷は廃れていく。土木作業の仕事も減る。人間関係もうまくいかない。相手の気持ちも自分の気持ちも見えない。明日はどっちだ?この気持ち、いったい誰にぶつけたらいいんだろう。『サウダーヂ』はこんなことを考えている人たちが暮す地方都市の実情を描いた映画だけれど、この気持ちはきっと今の日本に生きている誰もが(エラいお金持ち以外)感じていることなのだと思う。サウダーヂとは、ポルトガル語で「郷愁」「情景」「憧れ」「追い求めて叶わぬもの」という意味。その言葉のように、なんともやるせない気持ちにとらわれる。ああ、肉体とはかくも哀しいのか。けれど、この映画には磁力がある。167分という長時間で、無名の俳優ばかり(俳優ではないが宮台真司くらいしか有名人がいない)にも関わらず、見終わった後、誰もの姿が忘れ難く愛おしく思えるのは、なぜだろう。


▼『サウダーヂ』公開・上映情報
監督 : 富田克也 
脚本 : 相澤虎之助、富田克也 
撮影 : 高野貴子 
録音・音響効果:山﨑巌
製作 : 空族製作委員会 

出演:鷹野毅、伊藤仁、田我流(from stillichimiya)、ディーチャイ パウイーナ、尾崎愛、工藤千秋、デニス オリヴェイラ デ ハマツ、イエダ デ アルメイダ ハマツ、野口雄介ほか
●『サウダーヂ』公式サイト
10月22日~ユーロスペースにてロードショー
11月にはリスボン&エストリアル映画祭にも出品が決定
©空族

文:木俣冬

  • 2011年10月20日更新

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