『ちょちょぎれ』— 登場人物の表情と仕草が「饒舌」なラヴ・ストーリー

  • 2010年09月12日更新

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登場人物の表情と仕草が「饒舌」なラヴ・ストーリー

会ったときに必ず、握手を求めてくる人がいたら、どのように感じるだろう。

この映画の主人公・守は、人と会うときに必ず右手を差しだす。初対面の相手に限らず、知った間柄の友人にも、だ。彼はごく普通の日本人である。また、「陽性」の雰囲気が漂う人物でもない。それどころか、口数が少なくて、歯を見せて笑うこともあまりない男である。

守には、気心の知れた友達がふたりいる。口は悪いが根は優しい桂一と、恋愛経験が豊富な英雄——。三人はときどき顔を合わせては、釣りを楽しんだり、酒を呑んだりしながら、近況や他愛のない話に興じる。桂一には香という恋人がいるが、彼女はある事情で声を失っており、話すことができない。英雄は由美という女と結婚し、彼女のお腹にはふたりの子供が宿っている。そして、内気な守にも、好意を寄せてくる存在が現れた。きよみというその女は、桂一と香の友人で、溌溂として積極的。守はいつしか、きよみを受けいれるが……。

3組の男女の恋愛模様が、主に男性側の視点で描かれている。台詞とカメラの動きが少ないこの作品は、一見、たおやかなほど静かだ。

しかし、登場人物たちがそれぞれの心の内側に抱えている葛藤は、静けさからは、ほど遠い。人と関われば、誰かと恋に落ちれば、想いが報われなければ——。誰もが身に覚えのある、そんな葛藤は、登場人物たちの表情や仕草から、饒舌に伝わってくる。

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期待の若手俳優が演じる登場人物に、「自分の姿」を発見する

烈しく多弁な心理描写に、あふれる言葉は必要ではない——。そう体現してくれたのは、実力派の若手俳優たちである。主人公の守を演じたのは、『SHORT HOPE』の片山享。桂一役には、舞台に映像にと幅広く活躍している齋藤ヤスカ。モデル出身の玲奈は、快活さの陰に繊細さを隠しているきよみを、せつなく、かつ、生き生きと演じた。「声を失った女」という難役の香に、一切の台詞に頼ることなく、乙黒えりが確かな説得力を与えた。

監督は、本作が長編デビューとなる佐々木友紀。インディーズ体制で作られたこの作品だが、撮影に『リアル鬼ごっこ』や『結び目』の早坂伸、録音に『アニと僕の夫婦喧嘩』の菊池進平など、日本の映画界を担う精鋭が名を連ねている。

生々しさとスタイリッシュさを兼ね備えたこの恋愛映画は、恋をしたことがある人なら、登場人物たちの中に「自分の姿」を発見することができるだろう。キャラクターの誰かに自身を重ねたそのとき、感情を露わにするのが苦手な守がなぜ、「握手」という能動的な行為をするようになったのか ― その意味が理解できて、居ても立ってもいられなくなる。「自分の『正直な気持ち』は、どこに在るのか?」と問われているかのようで、焦ってたまらなくなる。

▼『ちょちょぎれ』作品・公開情報
(日本/2010年/82分)
監督・脚本・製作:佐々木友紀
撮影・プロデューサー:早坂伸
録音:菊池進平 照明:福長弘章 音楽:水野敏宏
出演:片山享 玲奈 古川りか 齋藤ヤスカ 乙黒えり 永井浩介 福下恵美 広澤草 他
配給:トレジャーエンターテイメント
(c)2010 1+2FILM

※2010年9月11日(土)~9月17日(金)、渋谷シアターTSUTAYAにてレイトショー

文:香ん乃

  • 2010年09月12日更新

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