11月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2025年10月29日更新

11月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

LINE UP
11/7(金)公開『旅と日々
11/7(金)公開『ぼくらの居場所
11/14(金)公開『赤い風船 4K』『白い馬 4K
11/21(金)公開『満江紅/マンジャンホン
11/22(土)公開『潜行一千里 ILHA FORMOSA
11/28(金)公開『佐藤さんと佐藤さん


『旅と日々』

二重構造で紡ぐつげ義春漫画のドラマ性と諧謔性

つげ義春の漫画『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』の2作を原作に、『夜明けのすべて』の三宅唱監督が叙情豊かに映画化。ロカルノ国際映画祭では最高賞の金豹賞などを獲得した。夏の海岸で夏男はどこか陰のある渚と出会う。ぎこちなく散策する2人は翌日、台風が近づく中、荒れた海で再会するが……。という映画の脚本を手がけた李は、この作品を大学の講義で取り上げてくれた魚沼教授から旅行を勧められる。冬、雪深い北国を訪れた李は、1軒の古びた宿にたどり着いた。二重構造で紡ぎ出すつげ漫画の世界は、それぞれ風景も触感も全く異なるのに、どちらも旅の本質に迫っていて興味深い。李を演じたシム・ウンギョンが独白で「旅は言葉から離れること」などと語っているように、最小限のせりふで非日常のドラマ性、諧謔性を表現する。荒れ狂う波の海中撮影や雪が降り積もるロングショット、何が映っているのかもわからないくらいの暗闇など、映像の妙味にも酔いしれた(藤井克郎)

2025年11月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/89分) 監督・脚本:三宅唱 出演:シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作 ほか 配給:ビターズ・エンド ©2025『旅と日々』製作委員会


『ぼくらの居場所』

困難な状況の子どもたちに差し込むかすかな希望

カナダ・トロントの東部、スカボロー地区は、文化背景も経済状況も多様な人々が暮らしている。父親の暴力から母親とともに逃げ出してきたフィリピン人のビン、障害のある弟ら家族でシェルターに住む先住民の血を引くシルヴィー、育児に興味のない両親に翻弄され続けるローラの3人は、ソーシャルワーカーのヒナが勤める教育センターにささやかな居場所を見いだしていた。だがイスラム教徒のヒナ自身も困難な立場に置かれていた。カナダ人作家、キャサリン・エルナンデスの実体験を基にしたデビュー小説を、ドキュメンタリー出身のシャシャ・ナカイ、リッチ・ウィリアムソンの両監督がリアリティーあふれる描写で映画化。カメラは3人をはじめとした子どもたちに寄り添うように肉薄し、彼らの出来事を他人事ではなく身近な問題として感じてほしいとの思いがひしひしと伝わる。絶望的な展開の中、ビンとシルヴィーの固い友情の絆にかすかな希望の光を感じた。藤井克郎

2025年11月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/カナダ/138分) 原題:Scarborough 監督:シャシャ・ナカイ、リッチ・ウィリアムソン 出演:リアム・ディアス、エッセンス・フォックス、アンナ・クレア・ベイテル ほか 配給:カルチュアルライフ ©2021 2647287 Ontario Inc. for Compy Films Inc.


『赤い風船 4K』『白い馬 4K』

時を越えて甦る美しい映像時

映画『赤い風船 4K』『白い馬 4K』ポスター48歳で生涯を終えたフランスの伝説的映像詩人アルベール・ラモリス。彼が遺した『⾚い⾵船』『⽩い⾺』が、4K デジタル修復によって鮮やかに甦る。初公開から約70年。映画にも子役として出演している息子のパスカル・ラモリスが、父のオリジナルフィルム映像に可能な限り近い形で修復を実現した。最小限に抑えたセリフと詩情あふれる描写により、ファンタジーのように素敵な世界にいざなわれる。この2作の公開を記念し、11月14日(金)から〈映像詩⼈アルベール・ラモリスの知られざる世界〉として、『⼩さなロバ、ビム』『素晴らしい⾵船旅⾏』『フィフィ⼤空をゆく』の4Kデジタル修正版も一挙上映される。(吉永くま)


2025年11月14日(金)より全国順次公開(2本立て) 公式サイト 公式動画

◇『⾚い⾵船 4K』
不思議な⾚い⾵船と出会った少年の物語。CGのない時代に、赤い風船に生命を吹き込み、感情や意志を持っているように見せる撮影・編集技術に舌を巻く。灰色のパリの街を縦横無尽に駆け巡る赤い風船と少年の絆に胸を打たれた。
(1956 年/フランス/35分) 原題:Le Ballon Rouge 監督・脚本:アルベール・ラモリス 出演:パスカル・ラモリス、サビーヌ・ラモリス、ジョルジュ・セリエほか 配給:セテラ・インターナショナル ©Copyright Films Montsouris 1956

◇白い馬
舞台は南仏カマルグ地⽅。牧童に追われる気高い野生の白い荒馬を漁師の少年フォルコは守ろうとするが……。実在する馬をモデルにして作られた作品。美しいモノクロ映像で描かれる馬と少年の友情と大人たちの残酷さが強く印象に残る。
(1953年/フランス/40分) 原題:Crin Blanc 監督・脚本:アルベール・ラモリス 出演︓アラン・エムリー、パスカル・ラモリス、ローラン・ロッシュ ほか 配給:セテラ・インターナショナル ©Copyright Films Montsouris 1953


『満江紅/マンジャンホン』

陰謀と裏切りが渦巻くはらはらどきどきの歴史活劇

『初恋のきた道』などの中国の至宝、チャン・イーモウ(張芸謀)監督が、南宋の名将、岳飛が残した詩に着想を得て、アクション満載の歴史活劇を編み上げた。12世紀の中国。隣国、金との激しい領土争いを繰り広げていた南宋は、処刑された英雄、岳飛のライバルだった宰相の秦檜が和平交渉に臨もうとしていた。だがその前夜、金の使者が殺され、南宋の皇帝に渡るはずだった密書が消える。南宋の若き武将、孫均と下級兵士の張大は夜明けまでの2時間で犯人を見つけるよう命じられるが……。映画は、その2時間余りの出来事をほぼリアルタイムで活写。陰謀と裏切りが渦巻き、どんでん返しに次ぐどんでん返しのはらはらどきどきの物語を、コミカルな要素もたっぷりと盛り込んでテンポよく映し出す。主人公の張大を演じた小太り体形のシェン・トン(沈騰)や踊り子役のワン・ジアイー(王佳怡)ら、役者陣のキレキレのアクションも見逃せない。(藤井克郎)

2025年11月21日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/中国/157分) 原題:满江红 監督:チャン・イーモウ(張芸謀) 出演:シェン・トン(沈騰)、イー・ヤンチェンシー(易烊千璽)、チャン・イー(張譯) ほか 配給:Stranger、ツイン ©2023 Huanxi Media Group Limited(Beijing) and Yixie(Qingdao)Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved.


『潜行一千里 ILHA FORMOSA』

空族が映し出すもう一つの「台湾」

映画『潜行一千里 ILHA FORMOSA』メイン画像

『サウダーヂ』『バンコクナイツ』などを送り出した映画制作集団・空族。本作は、2026年夏に最新劇映画のクランクインを控えた彼らが、ロケ地の台湾を何度も訪れ、その入念なリサーチの過程を記録したドキュメンタリーだ。カメラは、人々が抱く台湾のイメージとは別の台湾―ルーツと伝統を受け継ぎ、複雑な過去である植民地時代の影響を受け、新しさも融合させたアミ族やセデック族、パイワン族など原住民(先住民族)の暮らし、そして独自に発展を遂げた創造的な音楽―を映し出す。なかでも、色彩豊かな衣装をまとった人々が舞い踊るアミ族の豊年祭のシーンは、人々の生きる力と笑顔に満ち溢れ、多幸感に包まれる。前述の次回作のタイトルは『蘭芳公司』(らんほうこうし)。フランス革命以前にアジアに実在した “幻の共和国”からインスピレーションを受けたという作品の公開に期待が高まる。(吉永くま)

2025年11月22日(土)より全国順次公開
(2025年/日本・台湾/79分) 監督:富田克也 配給:空族  ©kuzoku

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『佐藤さんと佐藤さん』

思いやりゆえに相手を傷つけてしまう2人の幸不幸

『ミセス・ノイズィ』の天野千尋監督が、『話す犬を、放す』の熊谷まどか監督と共同で書き上げたオリジナル脚本を基に、お互いに思いやりのあるカップルが徐々にすれ違っていくさまを温かいまなざしで見つめた。大学の同級生の佐藤サチと佐藤タモツは同じサークルに所属し、やがて同棲生活を始める。弁護士を目指すタモツは司法試験に挑むが、なかなか合格できない。会社員勤めをしているサチは落ち込むタモツに寄り添いたいと、一緒に司法試験の勉強をすることにする。だが先に合格したのはサチの方だった。相手のことを大切に思うがゆえの言動がかえって傷つけてしまうというもどかしさを、岸井ゆきのと宮沢氷魚がせりふに頼ることなく、表情と所作で巧みに表現。さまざまな幸せ、不幸せの形を提示しながら、安定と不安定を行き来する2人の関係を、カメラワークや画面サイズなどにも工夫を凝らして掘り下げた天野監督の社会的視点にはっとさせられた。(藤井克郎)

2025年11月28日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/114分) 監督:天野千尋 出演:岸井ゆきの、宮沢氷魚 ほか 配給:ポニーキャニオン ©2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会

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