12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2024年12月01日更新

12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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12/6(金)公開『大きな家
12/7(土)公開『愛の茶番
12/7(土)公開『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら
12/13(金)公開『お坊さまと鉄砲
12/13(金)公開『小学校~それは小さな社会~
12/13(金)公開『太陽と桃の歌
12/13(金)公開『不思議の国のシドニ
12/14(土)公開『キノ・ライカ 小さな町の映画館
12/20(金)公開『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!


『大きな家』

親と離れて暮らす子どもたちを見つめる温かいまなざし

さまざまな理由から親と離れて児童養護施設で暮らす子どもたちに密着した成長リアリティ映画。企画、プロデュースを俳優で映画監督の齊藤工が務め、『14歳の栞』が評判を呼んだ竹林亮監督が1年半にわたって施設の日常を見つめた。東京都内のとある児童養護施設では、年齢も事情もばらばらの子どもたちが職員たちとともに共同生活を送っている。小さい子らは映画のスタッフにも屈託なく笑顔を振りまくが、思春期を迎えると進学や就職などいろんな悩みを吐露するようになる。ナレーションや字幕など説明的な描写の一切を排して、施設のあるがままの姿を切り取った映像からは、今の日本の子育て環境にも敷衍した多様な課題が浮かび上がってくる。施設に来ることになった過去や境遇には全く触れずに、子どもたち一人一人の未来に力点を置いた作り手のまなざしが温かい(藤井克郎)

2024年12月6日(金)、東京、大阪、名古屋で先行公開 20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/123分) 監督・編集:竹林亮 配給:PARCO ©CHOCOLATE


『愛の茶番』

愛を渇望する男女が観客と一体で織りなす超映画

劇団「毛皮族」などの演劇活動で知られる江本純子監督による『過激派オペラ』に続く劇場長編2作目は、「みる=観客」と「みられる=作り手」の境界を取っ払った何とも言語化しにくい超映画になっていた。かつての恋人が忘れられないルミと地下シンガーソングライターのアキの姉妹はそりが合わず、顔を合わせるとつい悪口を口走る。そんな2人も愛を渇望していることは共通していた。ほぼ全編コンクリートの壁に囲まれた稽古場のような部屋で撮影された、ほぼ全編モノクロの画面で、役名のある出演者と彼ら彼女らを取り囲むように見守る観覧者が虚実皮膜のドラマを演じる。どこまでがあらかじめ用意された筋書きで、どこからが演者の自発的なせりふかも不明なライブ感あふれた芝居が、やはり即興性を伴ったカメラワークで切り取られていく。耳に心地よいピアノの音色とのギャップも鮮やかで、全く初めての映像体験にくらくらした。藤井克郎

2024年12月7日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/120分) シナリオ・監督・編集・製作:江本純子 出演:遠藤留奈、冨手麻妙、菅原雪 ほか 配給:“渇望” ©“渇望”2024


『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら

小学生の妹を震災で失った監督が過ぎた時を思う

2011年の東日本大震災で宮城県石巻市立大川小学校に通う2歳下の妹を亡くした佐藤そのみ監督が、日本大学芸術学部に進学後の2019年に製作した2本が劇場初公開。フィクションとドキュメンタリーの形で自らの体験を昇華させ、どちらも深い余韻の残る繊細な作品に編み上がっている。『春をかさねて』の主人公、14歳の祐未は震災で妹を失い、自分だけが幸せになってはいけないとかたくなに誓っていた。同じく妹を亡くした親友のれいが、大学生ボランティアと楽しそうにしているのが信じられなかったが、れいはれいで、明るく生きなければ妹に申し訳ないと無理をしていた。一方の『あなたの瞳に話せたら』は震災から8年後、児童74人、教職員10人が犠牲になった大川小学校の関係者に手紙を書いてもらい、当時のままを今に残す校舎などの映像を背景に、亡き人と過ぎた時に思いを寄せる。佐藤監督自身の妹への語りかけが切ない。(藤井克郎)

2024年12月7日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
『春をかさねて』(2019年/日本/45分) 製作・監督・脚本・編集:佐藤そのみ 出演:齋藤小枝、齋藤桂花、齋藤由佳里 ほか
『あなたの瞳に話せたら』(2019年/日本/29分) 監督・撮影・録音・編集:佐藤そのみ
配給:半円フィルムズ ©Sonomi Sato


『お坊さまと鉄砲』

初の選挙を控えるのどかな村の一騒動

映画『お坊さまと鉄砲』メイン画像長編デビュー作『ブータン 山の教室』が同国初のオスカー候補となったパオ・チョニン・ドルジ監督の2作目。2006年の国王の退位により民主化への移行を図るブータンで、初の選挙前に模擬選挙が行われることになる。山あいにあるウラの村でこれを聞いた高僧は若い僧に銃を手に入れるよう指示。その頃、アメリカ人銃コレクターが村を訪れ、村全体を巻き込む騒動が持ち上がる……。急な変化に戸惑う村人たちの模擬選挙の様子や、私利私欲のない僧と世俗的な銃コレクターや通訳との噛み合わない会話など、散りばめられるユーモアに癒され、ミステリアスな展開に心躍らされる。一方、民主主義移行期の弊害も浮き彫りに。利己的になりがちな私たちに気づきを与え、幸福とは何かを改めて考えさせてくれる一作。のどかな村で紡がれる平和への願いが込められたストーリーに、心が洗われる思いがする。(吉永くま)

2024年12月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/ブータン、フランス、アメリカ、台湾/112分)原題:The Monk and the Gun 監督・脚本:パオ・チョニン・ドルジ 出演:タンディン・ワンチュック、ケルサン・チョジェ、タンディン・ソナム ほか 配給:ザジフィルムズ、マクザム ©2023 Dangphu Dingphu: A 3 Pigs Production & Journey to the East Films Ltd. All rights reserved 


『小学校~それは小さな社会~』

ごく日常の教育現場の風景から何を感じ取るか

イギリス人の父を持ち、ニューヨーク大学で映画を学んだ山崎エマ監督が、国際チームによる共同製作で東京都内のとある公立小学校の1年間を捉えたドキュメンタリー。主に1年生と6年生に焦点を当て、コロナ禍でオンライン授業が行われる中、子どもたちと先生の日常がナレーションなど余分な説明を排して描き出される。「殻を打ち破れ」と発破をかける教師に下足箱への靴の入れ方をチェックする児童と、日本の小学校のごく当たり前の風景の中から浮かび上がってくるのは、一人も落ちこぼれさせないという日本の教育の実態だ。負けず嫌いの1年生のあやめちゃんは、新1年生を迎え入れる音楽演奏で自らシンバルに名乗りを上げるが、先生からの注意を受けて涙が止まらない。ごろんと提示した映像から何を感じ取るかは受け手次第、という山崎監督の信念が伝わってきた。(藤井克郎)

2024年12月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本、アメリカ、フィンランド、フランス/99分) 監督・編集:山崎エマ 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour


『太陽と桃の歌』

農園を営む大家族の人間模様を見る側の想像力に委ねる

長編デビュー作の『悲しみに、こんにちは』が評判を呼んだスペインの新星、カルラ・シモン監督の待望の新作。またも地元のカタルーニャを舞台に、3代にわたって桃農園を営む大家族の人間模様を自然あふれる情景の中でつづり、2022年のベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞に輝いた。広大な畑で桃を栽培しているソレ家は、収穫を前に地主から土地を明け渡すよう求められる。桃の木を伐採してソーラーパネルを設置するというのだが、祖父から引き継いで実質の経営者である父は憤慨する。だが叔母夫婦は、パネルの管理で楽に稼げるとの誘いに心が動かされ……。家族の関係性や事情などほぼせりふで説明せず、日常の描写だけで見る者に全てを委ねるという手法が大胆で、大いに想像力をかき立てられる。田舎の祭りのどんちゃん騒ぎの中、それぞれの思惑がにじみ出る場面が素晴らしく、いつまでもこの余韻に浸っていたい気分にさせられた。(藤井克郎)

2024年12月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/スペイン、イタリア/121分)原題:ALCARRÀS 監督・脚本:カルラ・シモン 出演:ジュゼップ・アバッド、ジョルディ・プジョル・ドルセ、アンナ・オティン ほか 配給:東京テアトル ©2022 AVALON PC / ELASTICA FILMS / VILAÜT FILMS / KINO PRODUZIONI / ALCARRÀS FILM AI


『不思議の国のシドニ』

初めての日本で幽玄の世界と邂逅するフランス女性

夫を亡くしたフランスの作家、シドニは日本の出版社に招かれ、初めて日本を訪れる。編集者に案内され、京都や奈良、直島などを訪れるが、開かないはずのホテルの窓が開いていたり、部屋のお弁当が誰かに食べられていたり、不可解な出来事が相次ぐ。やがてシドニの前に現れたのは……。『静かなふたり』のエリーズ・ジラール監督が主役にイザベル・ユペールを据え、日本の自然や歴史を背景に幽玄の世界をほのかなユーモアに包んで表現。伊原剛志演じる編集者の名前が溝口健三で、谷崎潤一郎の墓に刻まれた「寂」と「空」の文字と邂逅するなど、ジラール監督の視点による日本文化への敬意の描写が興味深い。孤独な女性の心の癒やしをこういう形で映像化していることに、日本人として新鮮な感謝の念を抱いた。(藤井克郎)

2024年12月13日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/フランス、ドイツ、スイス、日本/96分)原題:Sidonie au Japon 監督・脚本:エリーズ・ジラール 出演:イザベル・ユペール、伊原剛志、アウグスト・ディール ほか 配給:ギャガ ©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM IN EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMELIA


『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

カウリスマキの劇場ができるまでを会話の妙味でつづる

森と湖に囲まれたフィンランドの小さな町、カルッキラ。鉄鋼の町として知られた人口9000人の寂れた田舎町に、『過去のない男』などの名匠、アキ・カウリスマキ監督が映画館「キノ・ライカ」を作った。そのオープンまでの日々をクロアチア出身のヴェリコ・ヴィダク監督が見つめたドキュメンタリーで、カウリスマキ作品同様、何ともとぼけた風情の個性あふれる味わいになっている。カメラは全て据え置きで、カウリスマキ監督はじめ映画館の関係者や建設作業員、町の住民らが2~4人でおしゃべりをする。この町でロケが行われた『枯れ葉』の思い出やキノ・ライカへの期待などとりとめのない会話ばかりだが、そんな中からこの町に映画館ができる意味や映画の魅力などが浮かび上がってくるから面白い。カウリスマキ監督の盟友、ジム・ジャームッシュ監督が、カルッキラから遠く離れたニューヨークで語る映画館名の由来が秀逸。(藤井克郎)

2024年12月14日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/フランス、フィンランド/81分)原題:CINEMA LAIKA 監督・脚本・撮影・編集:ヴェリコ・ヴィダク 出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、カルッキラの住人たち ほか 配給:ユーロスペース ©43eParallele


『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』

クレイジーなドタバタも健在!

映画『ヘヴィ・トリップII』メイン画像

大ヒット映画『 ヘヴィ・トリップ/俺たち崖 っぷち 北欧メタル! 』 の続編。前作でノルウェーの巨大フェスに乗り込むも、違法行為で投獄されたフィンランドの田舎メタルバンド“インペイルド・レクタム”(直腸陥没)。面会に来た超大物プロデューサーにドイツのメタルフェス出演を打診された彼らは、メンバーの実家の稼業の危機を救うため、脱獄を決意する……。本作でも登場人物たちのクレイジーなドタバタは健在で観客を笑いの渦に巻き込む。その一方、超商業主義への失望やメンバー間の亀裂など、派手な世界や外見の裏にある葛藤や孤独、焦りという普遍的なテーマも浮上。地獄の底から湧き上がるような咆哮が、現実の厳しさを粉砕してくれるよう祈りたくなる。メタルダンスユニットのBABYMETALも重要な役どころで出演。一服の清涼剤となっている。(吉永くま)

2024年12月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/フィンランド/96 分)原題:HEAVIER TRIP 監督・脚本:ユッカ・ヴィドゥグレン、ユーソ・ラーティオ 出演:ヨハンネス・ホロパイネン、マックス・オヴァスカ、サムリ・ヤスキーオ、チケ・オハンウェ ほか 配給:SPACE SHOWER FILMS ©2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia , Soul Food

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