4月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2023年04月02日更新

4月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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4/7(金)公開『ガール・ピクチャー
4/7(金)公開『ザ・ホエール
4/7(金)公開『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう
4/7(金)公開『ダークグラス
4/7(金)公開『ノートルダム 炎の大聖堂
4/14(金)公開『聖地には蜘蛛が巣を張る
4/21(金)公開『高速道路家族
4/21(金)公開『午前4時にパリの夜は明ける
4/22(土)公開『J005311
4/22(土)公開『独裁者たちのとき
4/28(金)公開『セールスガールの考現学
4/28(金)公開『不思議の国の数学者


『ガール・ピクチャー』

北欧発Z世代の青春映画に描かれる普遍性と多様性

映画『ガール・ピクチャー』ポスター画像フィンランドのヘルシンキを舞台に、多感なティーンエイジャーの心模様をキュートかつ繊細に描いた青春映画。17歳から18歳に差し掛かる3人の少女、ミンミとロンコとエマ。3度の金曜日で、ミンミとエマはお互いの人生を揺るがすような運命の恋をし、ロンコは未知の性的快感を求め冒険する……。好奇心と恐れ、ときめきと不安の間で不器用に揺れる彼女たちを見て、みずみずしいという言葉で括るのは大人のエゴかもしれない。けれど、その刹那に眩しさを感じずにはいられなくて、決して戻れない遠い日の自分ごと抱きしめたくなった。若き日の普遍的な感情とともに、ジェンダークィアな恋愛をさらりと描くところが新時代的ですがすがしくもある。監督は、NYで映画を学び強い女性たちが主導するストーリーを描き続けるアッリ・ハーパサロ。第38回サンダンス映画祭でワールドシネマドラマ部門観客賞を受賞、第95回アカデミー賞国際長編映画賞部門フィンランド代表にも選ばれた注目作。主演の3人も魅力的だ。(富田旻)

2023年4月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/フィンランド/100分/PG12)原題:Tytöt tytöt tytöt 監督:アッリ・ハーパサロ 出演:アーム・ミロノフ、エレオノーラ・カウハネン、リンネア・レイノ ほか 配給:アンプラグド © 2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved


『ザ・ホエール』

絶望に打ちひしがれた巨体男の苦悩

自室から一歩も外へ出ることができないほど太った男の苦悩を描く話題作で、オフブロードウェイの舞台劇を『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督が映画化した。アカデミー賞では体重272キロの主人公を演じたブレンダン・フレイザーが主演男優賞に輝いている。大学講師のチャーリーは恋人を亡くした悲しみから過食を繰り返し、オンラインの授業でも学生に姿をさらすことができなかった。ある日、発作に苦しんでいると、若い宣教師が偶然、部屋を訪れる。特殊メイクで巨体化したフレイザーがあまりにも自然体で、ほぼチャーリーの室内だけで繰り広げられる物語に壮大な広がりをもたらす。絶望に打ちひしがれている人に対して、どんな手を差し伸べることができるのか。難問に挑んだアロノフスキー監督の大胆な映像表現に瞠目した。(藤井克郎)

2023年4月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/アメリカ/117分/PG12)原題:The Whale 監督:ダーレン・アロノフスキー 出演:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン 配給:キノフィルムズ © 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.


『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』

一夜にして外見が変わった男女の待ち合わせ

コーカサス地方の映画王国、ジョージアの若手、アレクサンドレ・コベリゼ監督が、古都クタイシを舞台に、先鋭的ながら何とも癒やされる不思議な物語を紡いだ。2021年の第22回東京フィルメックスでは最優秀作品賞を受賞している。ある朝、本を落としたリザと拾ったギオルギは帰り道で偶然に再会し、白い橋のたともにあるカフェで会う約束をする。だがその夜、邪悪な呪いでリザもギオルギも外見が変わり、お互い相手に気がつかない。ギオルギを待ち続けるリザはカフェで働き始めるが……。寓話性に富んだストーリーもさることながら、ズームイン、ズームアウトを多用するカメラワークにサッカーW杯で盛り上がる犬たちと、独特の映像世界がいとおしい。残虐な負の歴史も押さえつつ、今は平和で穏やかな街の表情を斬新な表現で切り取ったコベリゼ監督の感受性にしびれた。(藤井克郎)

2023年4月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/ドイツ、ジョージア/150分)原題:რას ვხედავთ, როდესაც ცას ვუყურებთ? 英題:What Do We See When We Look at the Sky? 監督・脚本:アレクサンドレ・コベリゼ 出演:ギオルギ・アンブロラゼ、オリコ・バルバカゼ、ギオルギ・ボチョリシヴィリ、アニ・カルセラゼ ほか 配給:JAIHO © DFFB, Sakdoc Film, New Matter Films, rbb, Alexandre Koberidze


『ダークグラス』

目の見えないヒロインが白いバンの恐怖から逃げまくる

『サスペリア』などのホラー映画の巨匠、イタリアのダリオ・アルジェント監督10年ぶりの新作で、恐怖感をあおりまくる描写に年齢を感じさせない鬼才の健在ぶりがうかがえた。ローマで娼婦を狙った連続殺人事件が発生する。新たな標的になったディアナは白いバンに追い回されたあげく、交通事故を起こして視力を失う。衝突した車には中国系の親子が乗っていて、幼い息子のチンだけが無傷だった。施設を脱走してきたチンをディアナは自室に住まわせるが……。目の見えないディアナとチン少年が正体不明の殺人鬼から逃げ回るサスペンス性に加え、残忍な殺しの手法がおどろおどろしさをかき立てる。画面の端にちらっと映り込む白いバンの影に、のぞき見するような視点といった映像の妙味に、甘美な音楽も相まって、極上のホラーに仕上がっていた。(藤井克郎)

2023年4月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/イタリア、フランス/85分)原題:Occhiali neri 監督・脚本:ダリオ・アルジェント 出演:イレニア・パストレッリ、アーシア・アルジェント、シンユー・チャン ほか 配給:ロングライド Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.


『ノートルダム 炎の大聖堂』

大火災の消火活動を徹底したリアリティーで再現

2019年に発生したパリのノートルダム大聖堂の火災をモチーフに、『愛人/ラマン』のジャン=ジャック・アノー監督がリアリティーあふれる映像作品に仕上げた。4月15日の夕刻、いつものように大勢の観光客でにぎわう中、大聖堂の警備室で警報器が鳴る。担当者が調べても異変は見つからず、ミサもそのまま行われることになったが……。極力CGに頼らず、全編をIMAXで撮影したという映像は迫力満点で、炎が迫りくる中での消火活動など、どのように撮影したのかわからないほどの再現ぶりに驚く。来場者全員を避難させ、消防隊員からも一人も犠牲者を出さず、貴重な文化財を救い出したという事実を忠実に描き出したかったという作り手の思いが伝わってくる徹底ぶりで、フランス映画界の底力を見せつけられたような気がした。(藤井克郎)

2023年4月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス、イタリア/110分)原題:Notre-Dame brûle 英題:Notre-Dame on Fire 監督:ジャン=ジャック・アノー 出演:サミュエル・ラバルト、ジャン=ポール・ボーデス、ミカエル・チリニアン ほか 配給:STAR CHANNEL MOVIES © 2022 PATHÉ FILMS – TF1 FILMS PRODUCTION – WILDSIDE – REPÉRAGE – VENDÔME PRODUCTION Photo credit:Mickael Lefevre


『聖地には蜘蛛が巣を張る』

娼婦連続殺人犯を支持する社会への厳しい視線

中東イランで実際に起きた事件を基に、イラン出身で北欧を中心に活動するアリ・アッバシ監督が緊迫感あふれる社会派娯楽作品に織り上げた。女性ジャーナリストを演じたザーラ・エミール・エブラヒミが2022年の第75回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞している。2001年、イラン第2の都市、聖地マシュハドで娼婦連続殺人事件が起きる。取材のためにこの街に入ったラヒミは、現地の警察や聖職者らから圧力を感じつつも、核心に迫るべくある決意を固める。事件の謎は早い段階で明かされるが、驚くことに殺人鬼を英雄視し、街を浄化しているとその行為を支持する者も多い。アッバシ監督は、宗教問題とともに、今もイスラム社会に根強い女性差別の意識を掘り起こし、その根本を鋭くえぐる。祖国を愛するからこその厳しい視線にくぎ付けになった。(藤井克郎

2023年4月14日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/デンマーク、ドイツ、スウェーデン、フランス/118分/R15+)原題:Holy Spider 監督・共同脚本・プロデューサー:アリ・アッバシ 出演:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ ほか 配給:ギャガ ©Profile Pictures / One Two Films


『高速道路家族』

荒唐無稽とリアリティが混在するスリラー

映画『高速道路家族』メイン画像

毎日の食事にも事欠くホームレス家族と、比較的裕福だが訳ありの家族との遭遇を描き、韓国社会が抱える格差問題にセンセーショナルに切り込んだパラサイティック・スリラー。高速道路のサービスエリアを渡り歩き、寸借詐欺をして食いつなぐ日々を送るギウ一家。ある日、以前カモにした中年女性ヨンソンと再び遭遇し警察に通報される。ヨンソンはギウの妻と子供を放っておけず、家に連れて帰り一緒に暮らし始めるが……。冒頭、 “サービスエリアで見事な手口で詐欺を繰り返す家族”というユニークな設定に引き込まれるものの、その壮絶なバックグラウンドが明らかになるにつれ、社会からこぼれ落ちる怖さと彼らの痛みが雪崩のようにふりかかってくる。荒唐無稽では終わらないリアリティのある展開の先には衝撃の結末が待つ。だが本作には、やりきれなさだけでなく温かさと希望も同居する。何とも言えない複雑な感情が込み上げてきた。(吉永くま)

2023年4月21日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/128分)英題:Highway Family 監督・脚本:イ・サンムン 出演:チョン・イル、ラ・ミラン、キム・スルギ ほか 配給:AMGエンタテインメント © 2022 Seollem film, kt alpha Co., Ltd. All Rights Reserved.


『午前4時にパリの夜は明ける』

深夜ラジオを通じて刻み込む80年代の自由さ

1980年代のパリを舞台に、深夜ラジオ番組のアシスタントの職に就いた女性をめぐる人間模様を、当時の空気感を絡めてしっとりと描いた。2人の子育ても一息ついた主婦のエリザベートは夫から別れを告げられ、仕事を探すことになる。ラジオ局で深夜放送の電話受付に採用された彼女は、番組に出演した少女、タルラに行く当てがないことを知り、自宅アパートの別の部屋に住まわせることにするが……。『アマンダと僕』のミカエル・アース監督の長編4作目で、自由で前向きだった時代の7年間を、エリザベートとタルラ、エリザベートの息子マチアスらとの関係性を軸に映像に刻み込む。特に大きな変化があるわけでもなく、何も生み出さず、何も解き明かしはしないものの、どこか窮屈でがんじがらめの今の世の中にじんわりと訴えてくるものがある。(藤井克郎)

2023年4月21日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/フランス/111分/R15+)原題:LES PASSAGERS DE LA NUIT 監督・脚本:ミカエル・アース 出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ ほか 配給:ビターズ・エンド © 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA


『J005311』

接点のない2人が寡黙に繰り広げるドライブ旅行

『スペシャルアクターズ』などに出演している俳優の河野宏紀が、養成所仲間の野村一瑛と2人だけの配役で初監督に挑んだ意欲作。2022年の第44回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリに輝いた。街角でひったくり現場を目撃した神崎は犯人の山本を追いかけ、100万円を渡す代わりにある場所に連れていってほしいと頼む。気味悪がる山本だが、思いつめた表情の神崎に渋々ながら承諾し、2人のドライブが始まった。タイトルは、奇跡的な確率で衝突して再び輝き出した星の名前に由来する。全く接点のない神崎と山本が、ほとんど言葉を交わすことなくドライブを繰り広げる様子を、手持ちのカメラで執拗に見つめる。主に斜め後ろからのショットによる張りつめた空気感から、この映画へのやむにやまれぬ熱い思いが伝わってきた。(藤井克郎)

2023年4月22日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/90分) 監督・脚本・編集:河野宏紀 出演:野村一瑛、河野宏紀 配給:太秦 ©2022『J005311』製作委員会(キングレコード、PFF)


『独裁者たちのとき』

ヒトラーらの生前の映像をコラージュした皮肉な寓話

『エルミタージュ幻想』『太陽』など、多彩な作風で唯一無二の作品を生み出してきたロシアの鬼才、アレクサンドル・ソクーロフ監督が、またも問題作を世に問うた。今度の新作は、第二次世界大戦時の独裁的な指導者のアーカイブ映像をコラージュして毒と遊び心を盛り込んだ大人の寓話だ。ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニの4人は死後、天国の門を目指して冥界をさまよっていた。互いに褒めそやしたりけなしたりしながら、自分は正しかったと自己弁護を繰り返す。キリストやナポレオンに大勢の群衆も登場し、大音響の歌が流れる中、ソクーロフ監督ならではの皮肉たっぷりのおとぎ話が紡がれる。大量の映像素材を調べ尽くした労力に感服するとともに、現在も彼らの亡霊が世界中にはびこっている現実に慄然とさせられた。(藤井克郎)

2023年4月22日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/ベルギー、ロシア/78分)原題:Skazka 英題:Fairytale 監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ 出演:アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ウィンストン・チャーチル、ベニート・ムッソリーニ 配給:パンドラ


『セールスガールの考現学』

アダルトグッズを売る女子大生のキュートな成長ストーリー

映画『セールスガールの考現学』メイン画像

モンゴル・ウランバートルで暮らす地味な女子大生サロールは、ひょんなことから1ヵ月だけアダルトグッズ店で働くことに。オーナーは高級フラットに一人で暮らすカティアだ。年齢差のある2人の間にやがて不思議な友情が芽生えるが、ある日お客とのトラブルが発生し……。バナナの皮が落ちている道端のカットから始まるオープニングシーンに心をつかまれ、そのまま期待と高揚が継続。おとなしく何事にも受け身だったサローヤンは、様々な経験を積むうちに、目に光が宿り性にも目覚め、蛹から蝶になるように魅力的になっていく。メンター的存在のカティアとの間に流れる空気感も愛おしい。原子力工学専攻の大学生とアダルトグッズ店というギャップ、日本ではあまり知られていないモンゴル都市部の生活、同国の人気歌手Magnolian(マグノリアン)の心地良い挿入歌など、魅力満載のキュートで爽やかなガールズ・ムービーだ。(吉永くま)

2023年4月28日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/モンゴル/123分)原題:Khudaldagch ohin  英題:THE SALES GIRL 監督・脚本・プロデューサー:センゲドルジ・ジャンチブドルジ 音楽: ドゥルグーン・バヤスガラン(Magnolian) 出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツ 、サラントヤー・ダーガンバト ほか 配給:ザジフィルムズ © 2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures


『不思議の国の数学者』

エリート校の無愛想な夜間警備員の正体は

映画『不思議の国の数学者』メイン画像

『オールド・ボーイ』などのチェ・ミンシク主演作。名門私立高校で働く夜間警備員のハクソンは、不愛想で学生たちから避けられているが、実は学問と思想の自由を求めて脱北した天才数学者で、正体を隠したまま暮らしている。ある日数学が苦手な学生ジウから勉強を教えてほしいとせがまれ、ジウに単なる正解だけでなく、問題を解く「過程」を教授。やがてハクソン自身が人生の転換点を迎えることになる……。「√2と仲良くなる」という思考や数式の意味が分からなくても、ここで描かれる数学は惚れ惚れするほど美しい。さらに、円周率をピアノの旋律で表現した数学と音楽の融合や、韓国の落ちこぼれ高校生と脱北者の学者との間にある絆は、異なるもの同士であっても何かを生み出せる可能性を示してくれる。苦渋に満ちた過去を抱えたハクソンを演じるチェ・ミンシクの滲み出る包容力に心を持っていかれた。(吉永くま)

2023年4月28日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/117分)原題:이상한 나라의 수학자 英題:IN OUR PRIME 監督:パク・ドンフン 出演:チェ・ミンシク、キム・ドンフィ、パク・ビョンウン ほか 配給:クロックワークス © 2022 showbox and JOYRABBIT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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