9月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2020年09月02日更新

9月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
9/4(金)公開 『mid90s ミッドナインティーズ
9/5(土)公開 『眠る虫
9/11(金)公開 『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~
9/12(土)公開 『新しい街 ヴィル・ヌーヴ
9/18(金)公開 『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)
9/18(金)公開 『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人
9/19(土)公開『おかえり ただいま
9/19(土)公開 『友達やめた。


『mid90s ミッドナインティーズ』

16ミリフィルムのなかで輝く90年代

俳優のジョナ・ヒルが初監督・脚本を手がけた半自伝的な青春ドラマ。90年代のロサンゼルスを舞台に、13歳の少年と仲間たちの成長を描く。シングルマザーの母と兄と暮らすスティーヴィーは、まだ身体も小さく、ことあるごとに兄に力で制圧されてしまう。そんなある日、スケートボードショップに出入りする少年たちと知り合い、彼らの自由な出で立ちと振る舞いに憧れを抱く。仲間となったスティーヴィーは、家の外の世界に居場所を見つけ、さまざまなことを体験していくが……。幼き日の痛みと憧れが、90年代の空気とともに16ミリフィルムの中にパッケージされ、当時を知る層には懐かしくも眩しい作品だ。主人公を演じたサニー・スリッチが素晴らしく、少年時代の苦悩と喜びを実に生き生きと体現する。グループのリーダー的存在のレイを演じたナケル・スミスはじめ、スケボー仲間役の少年たちも魅力的だ。彼らはスケーターではあるが全員、演技はほぼ初挑戦というので驚く。製作は『ミッドサマー』『レディ・バード』を手掛けたA24。映画ファンの注目を集めるスタジオだが、本作でさらに支持者を獲得するに違いない。(min)

2020年9月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 本編特別映像
(2018年/アメリカ/85分/PG-12)原題:Mid90s 監督・脚本:ジョナ・ヒル 出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス ほか 配給:トランスフォーマー © 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.


『眠る虫』

老女の口ずさむメロディーに導かれて

映画『眠る虫』メイン画像映画と音楽の掛け合わせで新たな才能の発掘を目指す「MOOSIC LAB 2019」でグランプリに輝いた作品。オムニバス映画『21世紀の女の子』(2019)の15人の監督に唯一、公募で選ばれた新星、金子由里奈監督が手掛けた。佳那子はバンドの練習に向かうバスの中で、あるメロディーを口ずさむ高齢の女性に興味を持つ。その歌声を録音しようと彼女の後をつけるうち、見知らぬ夜の町に迷い込んでいた。説明的なせりふを排した詩的な映像に、本筋と絡まない断片的なエピソードがちりばめられ、独特の世界観が展開される。暗闇の中にぽつんとたたずむバス、狭い部屋の中で老人と若者が絶妙に配置されたショットなど、撮影を務めた平見優子のビジュアルセンスが光る。(藤井克郎)

2020年9月5日(土)よりポレポレ東中野にて公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/62分) 監督・脚本・編集:金子由里奈 出演:松浦りょう、五頭岳夫、水木薫 ほか 配給:yurinakaneko


スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~

居場所のない子供たちのために最強のバディが奔走

映画『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』メイン画像大ヒット作『最強のふたり』のトレダノ&ナカシュ監督作品。難しいテーマを扱っているが、ユーモアと温かさにあふれている。ブリュノの経営する自閉症児ケア施設には、各所で見放された多くの子供が入居する。そこで働くのは、彼の友人マリクが教育するドロップアウトした若者たち。社会に受け入れられない彼らをまとめて救おうとしているのだ。その成果が現れようとしたとき、無認可・赤字経営の施設に監査が入り、閉鎖の危機に迫られる……。監督たちはここでもブリュノとマリクという最強のバディを描く。キレイごとだけでは終わらない支援活動の様子は、実話ベースの作品らしくとてもリアルだ。2人の心の底から突き動かされるような利他的行動には本当に頭が下がる。ブリュノ役の“アクのない”V・カッセルも魅力的。(吉永くま)

2020年9月11日(金)全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/フランス/114分)原題:Hors Normes 英題:The Specials 監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 出演:ヴァンサン・カッセル、レダ・カテブ、エレーヌ・ヴァンサン ほか 配給:ギャガ © 2019 ADNP – TEN CINÉMA – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – BELGA PRODUCTIONS – QUAD+TEN


『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』

モノクロアニメの可能性をさまざまに追求

映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』メイン画像カナダ・ケベック州出身のフェリックス・デュフール=ラペリエール監督による初の長編アニメーションで、アメリカの作家、レイモンド・カーヴァーの短編小説を題材に、モノクロの素朴な筆致で独特の映像世界を紡ぎ上げた。ケベック州の都市、モントリオールに住む詩人のジョゼフは、アルコールで身を持ち崩し、妻エマにも愛想をつかされる。エマとの思い出が詰まった海辺の町、ヴィル・ヌーヴに1人で向かうジョゼフは、この寂れた「新しい街」で自分を取り戻そうとするが……。描いては消してという作画の工程を見せたり、濃淡を微妙に変えて幾重にも重ねたりと、モノクロアニメの可能性をさまざまに追求した画法が斬新。フランス語の詩的なせりふも、創造性に厚みを加える。(藤井克郎)

2020年9月12日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/カナダ/76分)原題:Ville Neuve 英題:New Town 監督:フェリックス・デュフール=ラペリエール 声の出演:ロベール・ラロンド、ジョアンヌ=マリー・トランブレ、テオドール・ペルラン ほか 配給:ニューディアー ©L’unité centrale


『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』

極上の音と芳醇な文化が薫る場所

岩手県一関市で 50 年にわたり営業を続ける、ジャズ喫茶「ベイシー」とマスターの菅原“Swifty”正二、彼を取り巻く“ジャズな人々”を追ったドキュメンタリー。店名は米国の名ジャズ・ピアニストでビッグバンド・ジャズの最高峰「カウント・ベイシー・オーケストラ」を率いたウィリアム・カウント・ベイシーに由来し、菅原氏のニックネーム“Swifty”は、この店を訪れたベイシー本人の命名によるもの。都会から離れた東北のこの店には、世界的なジャズマンや、日本の名だたる文化人たちが訪れる。その理由は、菅原氏がこだわり続ける「音」と、ここで受け継がれ醸成された芳醇な文化、そして、ダンディなマスターの生き様だろう。オープンリールの伝説的録音機「ナグラ」で生収録された音と「ベイシー」の空気感に触れると、デジタル時代で失われつつある貴重な何かを感じずにはいられなかった。「生意気そうに見られているけど、原点でいろんなものにひれ伏している。カウント・ベイシーにひれ伏し、ジェームス・バロー・ランシング(JBL創業者)にひれ伏し、レコード発明した人にひれ伏し……」と語る藤原氏の言葉が胸に残る。それほどまでに大きな感動に出会えた人生とは、何と豊かだろう。(min)

2020年9月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画(2019年/日本/104分)監督:星野哲也 編集:田口拓也 出演:菅原正二、島地勝彦、厚木繁伸、村上“ポンタ”秀一、坂田明、ペーター・ブロッツマン、阿部薫、中平穂積、安藤吉英、磯貝建文、小澤征爾、豊嶋泰嗣、 中村誠一、安藤忠雄、鈴木京香、エルヴィン・ジョーンズ、渡辺貞夫(登場順)ほかジャズな人々 配給・宣伝:アップリンク ©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ


『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人

禍々しい事態を予感させるどんよりとした光景

映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』メイン画像ソウルで看護師をしているジョンヨンは、6年前に失踪した当時7歳の息子、ユンスの行方を追い続けていた。さらなる不幸に見舞われ、絶望に打ちひしがれる中、ユンスらしい男の子の目撃情報を耳にしたジョンヨンは、寂しげな漁村に向かう。そこには釣り場を営む怪しげな一家が居を構えていた。これが長編第1作となるキム・スンウ監督は、ミステリーとサスペンスを織り交ぜながら一級の娯楽作品に仕上げた。と同時に、禍々しい事態を予感させるどんよりとした光の使い方など作家性にもあふれていて、見ごたえは十分。『親切なクムジャさん』(2005/パク・チャヌク監督)以来14年ぶりのスクリーン復帰となるイ・ヨンエの熱演に加え、子役の頑張りには目を見張った。(藤井克郎)

2020年9月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/韓国/108分)原題:나를 찾아줘 英題:BRING ME HOME 監督・脚本:キム・スンウ 出演:イ・ヨンエ、ユ・ジェミョン、イ・ウォングン ほか 配給:ザジフィルムズ/マクザム © 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved


『おかえり ただいま』

名古屋闇サイト殺人事件の背景と家族の人生に迫る

映画『おかえり ただいま』メイン画像東海テレビドキュメンタリー劇場の第13弾。携帯電話サイト“闇の職業安定所”で知り合った3人の男たちに、帰宅途中の女性が拉致、殺害され、山中に遺棄された、2007年の“名古屋闇サイト殺人事件”。その背景と家族の人生に迫った本作は、斉藤由貴、佐津川愛美出演のドラマパートとドキュメンタリーパートから成る。前者で描かれるのは、事件当日までの母娘の穏やかな日常と凄惨な事件の一部始終、一瞬のうちに幸せが崩れ落ちる様子だ。事件後、犯人の極刑を望む母親の姿を追う後者では、その怒り、悔しさ、悲しさ、えぐられるような痛みが画面からあふれ出る。また、加害者の一人の生い立ちにも触れており、社会からはみ出した人々の受け皿の必要性を突き付けられるが、身勝手な犯人に情状酌量の余地はない。長年にわたる渾身の取材は、「事件を風化させたくない」という母親の思いに寄り添う、血の通った作品として結実した。(吉永くま)

2020年9月19日(土)より公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/112分) 監督・脚本:齊藤潤一 出演:斉藤由貴、佐津川愛美、浅田美代子 ほか 製作・著作・配給:東海テレビ放送 配給協力:東風 ©東海テレビ放送


『友達やめた。』

監督の葛藤と受容の揺れが映画の豊かさに

映画『友達やめた。』メイン画像前作の『Start Line』(2016)では、耳が聞こえない自らを被写体にコミュニケーションの根源に迫った今村彩子監督が、再びコミュニケーションとは何かをテーマにドキュメンタリーを撮った。今度の主人公は監督の友人、まあちゃん。発達障害の一種、アスペルガー症候群のまあちゃんは元気いっぱいの女性で、聾者の今村監督にも遠慮会釈なく接してくる。同じ障害者同士でわかり合えるはずと思っていた監督だが、2人で長い時間を過ごすうち、その忖度のなさに怒りを覚えるようになる。自分のハンディを認めてまあちゃんにぶち当たっていく監督の葛藤と受容の揺れがそのまま映画の振幅となって、豊かな時を刻んでゆく。人と人が相対して生きることの本質にも迫るもので、心に染み入った。(藤井克郎)

2020年9月19日(土)より全国順次公開 オンライン配信を同時スタート 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/84分)監督・撮影・編集:今村彩子 配給:Studio AYA © 2020 Studio AYA

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