『名もなき野良犬の輪舞』― 裏社会で結ばれた哀しき男たちの絆と背信をスタイリッシュな映像で描く注目作!
- 2018年05月04日更新
人を信じずに生きてきた男と、無垢に人を信じようとした男。無慈悲な裏社会で結ばれた2人の固い絆が、やがて哀しき背信と復讐の物語を生む――。名優ソル・ギョングと人気アイドルグループ「ZE:A」のメンバーで、俳優としても活躍の場を広げるイム・シワンの共演が光る本作は、第70回カンヌ国際映画祭はじめ、2017年度の各国映画祭で数々の授賞を果たした。監督・脚本を務めたのは、2012年に『マイPSパートナー』で商業デビューした1980年生まれのビョン・ソンヒョン。裏社会の権力抗争や警察の行き過ぎた捜査など、これまで描き尽くされてきたモチーフを、先の読めない心理描写とスタイリッシュな映像を駆使して、新たなエンターテインメント作品に昇華させた。
男同士の深い絆が、やがて哀しき疑念と憎悪へと変貌する
犯罪組織でナンバー1の座に成り上がる野望を持つジェホ(ソル・ギョング)は、新たに刑務所に入所してきた野心的でやんちゃな若者ヒョンス(イム・シワン)と出会う。人生において一度も他人を信じたことがないジェホだったが、ヒョンスが奇襲から身を挺して自分を救ったことで距離を縮め、いつしか信頼し合うようになる。先に刑務所から出たジェホは、ヒョンスを自分の所属する犯罪組織に迎える手はずを整え、やがて出所したヒョンスと共に組織を乗っ取ろうと画策するが、次第にそれぞれの秘めた真実が露呈していき、兄弟のように固く結ばれた二人の絆は、疑心と憎悪へと変わっていく……。
独自のスタイルを確立させようと奮闘する新鋭監督の心意気
Bボーイたちの青春を描いた『青春とビート、そして秘密のビデオ』(2010)、テレフォンセックスから始まる男女の恋をコミカルに描いた『マイPSパートナー』(2012)に続く、新鋭ビョン・ソンヒョン監督の長編3作目となる本作は、ジョニー・トーやマーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノなどに影響を受けてきたという監督の“かっこいい映画”に対する青臭いまでの欲望と憧れが詰まった作品でもあると思う。
ハードボイルドな男たちの世界、予断を許さぬストーリー、心をえぐる俳優たちの演技……。絵コンテ制作に3ヶ月を費やし、綿密なリサーチと準備を重ね、各テイクに全力を注いだというビョン監督の「既存のクライムアクションと一線を画したい」という心意気と斬新なセンスが散りばめられていてグっとくる。
時系列を行き来する構成、場面転換に凝った演出を施すトランジションという手法など、過去の作品から用いている技術や演出も作品を追うごとに洗練度を高めており、今後マンネリ化していかないことを祈りつつも、その進化に期待していきたい。
男の色気全開のソル・ギョングと希有な存在感を見せつけたイム・シワンに要注目!
本作の魅力を語るうえで、ソル・ギョングとイム・シワンの演技に触れないという選択肢はない。『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『シルミド/SILMIDO』『TSUNAMI ツナミ』……など、数々の作品で幅広い役柄をこなし、卓越した演技力を見せつけてきたソル・ギョングだが、本作ではこれまでに見たことのないセクシーさを漂わせている。その色気を引き出すために、“気取った演技”と“スーツの似合う肉体作り”を要求したというビョン監督の手腕に、ソル・ギョング好きの筆者は心から感謝をしたい。
しかし、この名優に張り合う希有な存在感を見せつけたのが、イム・シワンだ。映画『戦場のメロディ』『弁護人』やドラマ『ミセン-未生-』の好演も記憶にはあったが、圧倒的な美貌が激しい怒りや悲しみに歪む姿や、小犬のように無邪気に微笑む姿に、観客たちは大きく感情を揺さぶられるだろう。本作が兵役前の最後の作品ということだが、復帰後にまたどんな演技を見せてくれるのか今から楽しみで仕方がない。
脇を固める俳優陣も実力者ばかりで見応え抜群だ。誰よりもマッチョなチョンチーム長役を演じるのが、紅一点のチェン・ヘジンという変化球も映画的でおもしろい。名作揃いの韓国ノワール映画に新たな歴史を刻む作品として、また、興奮度の高い娯楽作品として男女問わず楽しめる作品だ。本作の魅力をより深く知りたい方は、ビョン・ソンヒョン監督のインタビュー記事も併せてお読みいただければ幸いだ。
>>>『名もなき野良犬の輪舞』予告編映像<<<
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▼『名もなき野良犬の輪舞』作品・公開情報
(2017年/韓国/120分/PG-12)
原題:不汗党
監督・脚本:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング、イム・シワン、チョン・ヘジン、キム・ヒウォン、イ・ギョンヨン
日本語字幕:石井絹香
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
© 2017 CJ E&M CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED
※2018年5月5日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
文:min
- 2018年05月04日更新
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