『旅立ち』カトリーヌ・コルシニ監督に単独インタビュー「フランス映画祭2010」

  • 2010年03月22日更新

カトリーヌ・コルシニ監督2六本木の某ホテルで、フランス映画祭のために来日したカトリーヌ・コルシニ監督にインタビューしてきました。
逆に質問攻めにあうなど、いつもと勝手が違いながらも、女性同士の話も弾み、楽しいインタビューとなりました。

今回上映された『旅立ち』は、シンプルでクラシカルなラブストーリーに挑みたかったという、コルシニ監督渾身の作品。

最近のフランス映画の傾向としても、「フランスならではの愛や恋を描く」という動きが戻りつつあり、今回映画祭の新企画である“フレンチ・パッション(フランスの恋愛というテーマ)”の一作品として、上映されることになったという。

そんな作品の内容から、すごく女っぽい人なのだろうと想像していたけど、監督自身は、気さくで好奇心旺盛で、どちらかというと中性的な雰囲気を感じさせる人でした。


コルシニ監督は開口一番、「出産か仕事のどちらかを選ばなければならないとき、あなたならどうする?」と訊いてきた。驚きつつも、「出産すると思います」と答えたら、「あら、仕事を選ぶという女性が今のところのアンケートでは6割ぐらいなんだけど、あなたは少数派ね」と意外そうにコメント。そこで、「監督はどうなんですか?」と訊ねてみると、「子供はいるんだけど、自分が産んだ子供じゃないの」という予想外の返答が…。言葉に詰まってしまいました。

という感じで、初対面の日本人同士では、まず交わさない挨拶から始まった今回のインタビュー。その他にも監督からの質問は続き(私物について「どこに売ってるの?」等も含めて)、あっという間の30分でした。

カトリーヌ・コルシニ監督1今回の来日が3回目という監督。
映画祭がまだ横浜で行われていた時は、渋谷や新宿にも足を運び、京都で映画の撮影を行ったこともあるそう。

今年は六本木や銀座の美味しいレストランに行ったり、映画祭の後の温泉旅行をとても楽しみにしているという。
またマッサージも来日の楽しみの一つだそうで、監督いわく「とにかく気に入ってる」とのこと。

今回、たまたま手土産として手ぬぐいを用意していたので、「温泉でも使ってください」とプレゼントしたら、とても喜んでくれました。そして、「なぜ手ぬぐいが日本伝統のタオルなのか」と質問されました。どうにか説明し、納得してくれたところで、いよいよ本題スタート。以下、一問一答形式で掲載します。

Q.主人公スザンヌは、今の時代には珍しいともいえる「愛するか、死ぬか」の激しい恋をしますね。昔の日本映画にも巨匠によって、そのような女性が描かれていますが、何かインスピレーションを受けた作品はあったのでしょうか。
A.(コルシニ監督)
 日本映画も観たのですが、特に「ボヴァリー夫人」や「アンナ・カレーリナ」といった文学作品の女性像を参考にしています。全てを持っていかれるような、抵抗できないような愛の形です。そのようなパッションは、危険で恐ろしくもあるので、今ではあまり描かれないのかもしれません。また今では、そのような愛というのは、ちょっと古めかしく捉えられるのかもしれませんね。「愛」というのは、場合によっては自己喪失にもつながるので、そういう意味でも、過去の世界を象徴するものなのかもしれません。
 50歳を過ぎたあたりで、スザンヌのように「愛」にグッと捕まえられた時に、自分の人生をを諦めず、愛を選ぶことは勇気のあることだと思います。

Q.スザンヌのファッションについて、良き妻の時はブルー系の服を着ていて、浮気するようになってからは、赤系の服を着るなど好みが変化していますよね。以前、ヨーロッパではブルーは聖母マリアを連想させる色という話を聞いたことがあるのですが、スザンヌの心の変化を衣装でも表現しようという意図はあったのでしょうか?
A.(コルシニ監督)
 ブルーが聖母マリアを連想させる色かというのはわからないのですが、たしかに聖母像をみると水色のベールを被っていることは多いですね。
服に関しては、最初は厳格な服を着せて、気分が変わることにより、赤いスカートやシャツを着せることで、自己実現をする気分を見せるようにしています。ブルーの服は、自分を拘束している象徴のように描いています。それを脱ぐことによって、過去の人生と決別するという意味もあるように思います。

Q.ところで、日本ではミニシアターといわれる劇場が危機的状況にあるのですが、監督はどのぐらいの頻度で映画館へ行かれますか?
A.(コルシニ監督)
 週2回から3回です。好きなので劇場にはよく行きます。
日本と比べて、入場者数はフランスの方がずっと多いというのは知ってます。また、フランスの映画が日本で苦戦しているということも知っています。(「なぜ日本人は劇場に足を運ばなくなったのか」ということに、関心があるようでした。)

Q.映画監督として、普段から持ち歩いてるようなものはありますか?たとえば、ノートパソコンとかレコーダーとか?
A.(コルシニ監督)
 私の世代は何かに記録するというよりも、注意深くまなざしを見るとか、声を聞くとか、ものを記憶にとどめておくとか、身体的肉体的に強く感じたことを記憶にとどめることを大切にします。写真とかビデオは旅に行くと撮ることもあるけど、それほど記憶に残らないんです。

Q.最後に好きな作品や好きな言葉があれば教えてください。
A.(コルシニ監督)
 よく読み返す本があるんですが、バルザックの「幻滅」という本です。若者が田舎からパリに出てきて、いろんな誘惑があるんです。裏切られたり、愛があったり、厳格な人生を歩むか、楽な道を選ぶかという選択もある。また、やりたいことを実現するために必ずしも自分にとって好ましくない人と結婚したり、人生のいろんな起伏を描いた本です。すごく面白くて好きなので何度も読みます。
好きな言葉は「自分になりなさい」という言葉です。

<取材後記>
「自分になりなさい」という監督の想いは、新作『旅立ち』のなかで、まさにスザンヌが体現してみせている。本作は、フランス映画祭2010にて上映されましたが、今後日本での配給が決定し、より多くの方に観ていただけたらと思います。

▼『旅立ち』作品紹介
旅立ち「イングリッシュ・ペイシェント」(96)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたクリスティン・スコット・トーマスが放つ、大人の女性の物語。自らの欲望に目覚める女性の心理が、ストレートかつドラマチックに表現されている。
優しい医者の夫と2人の子供に恵まれ、南仏の美しい邸宅に暮らすスザンヌ。一見幸福そうな彼女だが、専業主婦の暮らしが生む窮屈さを覚えずにはいられなかった。前科のある男と激しく惹かれあうようになったスザンヌは、家族も安定した暮らしも捨てて、愛を貫く決心をする。

フランス映画祭公式サイト

カトリーヌ・コルシニ監督4カトリーヌ・コルシニ監督 プロフィール
1956年ドルー生まれ。
パリのコンセルヴァトワールで演技を学びながら、映画と演劇の脚本を書き始める。1987年「Poker」で監督デビュー。
カリン・ヴィアールをスター女優に導いた「ヌーヴェル・イヴ」(99)に続き、エマニュエル・ベアール主演「彼女たちの時間」(01)で、女性の内面に肉迫する確かな演出力を証明。

本作では「ヌーヴェル・イヴ」「彼女たちの時間」とつづきベテラン撮影監督アニエス・ゴダールとタッグを組んだ。

取材・文/おすず 撮影/飯沼 要

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改行

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