『死刑台のエレベーター ニュープリント版』

  • 2010年10月12日更新

死刑台のエレベーター_ニュープリント版_メイン

“ヌーヴェルヴァーグ”の先駆者、ルイ・マル監督25歳のデビュー作。マイルス・デイビスの退廃的なトランペットの響きと緊張感漂うストーリーが絡み合ったサスペンス映画の傑作が、ニュープリント版で蘇る。

大企業の社長の側近として手腕を発揮していたジュリアンは、社長夫人フロランスと不倫関係にあった。二人は社長を自殺に見せかけて殺すことを計画し、ジュリアンはそれを実行に移す。完全犯罪は成功したかに見えたが、彼は証拠を残してきたことに気付き、犯行現場である会社のビルに引き返す。その途中、運悪く警備員に電源を切られ、彼はエレベーターの中に閉じ込められてしまう。

一方、ジュリアンの車を盗んでパリの街に繰り出した花屋の売り子ベロニクとその恋人ルイも、予定外の殺人を犯すことに。その頃、何も知らないフロランスは、ジュリアンが裏切ったと思い込み夜の街を彷徨っていた。

死刑台のエレベーター_ニュープリント版_サブ1

エレベーターに閉じ込められたジュリアンの閉塞感と焦り、誤って犯罪に手を染める若い恋人たちの愚かさ、そして空虚な心を抱えたフロランスの孤独。緊迫したそれぞれの状況を描きつつも、一歩引いた目線がドライな印象を残す。不穏な空気に包まれる各シーンが心をざわめかせ、スリリングな展開から目が離せなくなる。

モノクロの映像にモダンジャズ、フロランスを演じるジャンヌ・モローのけだるく官能的な魅力とパリの街など、いくつもの要素がぴったりとかみ合う数少ない作品のひとつかもしれない。

本作は、サスペンスとしても一級品だが、フロランスが“女”であることを強く感じさせる愛の物語でもある。淡々とした表情で夫の死を聞くフロランス。その悪女の仮面が外れて素顔になったときに彼女の真実が現れるが、それは胸が締め付けられるほど切ない。

愛すべき作品と久しぶりに再会した。昔観た映画でも、自分が年齢を重ね、取り巻く環境が変わると、その印象は大きく異なってくるものだ。夜中あてもなく歩き続けるフロランスの物憂げな表情が、ただの嫉妬や焦燥からきているものではないことが、今はよく分かる。

死刑台のエレベーター_ニュープリント版_サブ4

『死刑台のエレベーター ニュープリント版』
フランス/1957年/92分
原題:ASCENSEUR pour L’ÉCHAFAUD
監督:ルイ・マル
撮影:アンリ・ドカエ
出演:ジャンヌ・モロー モーリス・ロネ
ジョルジュ・プージュリー
ジャン=クロード・ブリアリ 他
音楽:マイルス・デイビス
配給:ザジフィルムズ
コピーライト:(c)1958 c1958 Nouvelles Editions de Films
ザジフィルムズ宣伝サイト
※2010年10月9日よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開。

文:吉永くま
改行

  • 2010年10月12日更新

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