3月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2026年03月01日更新
3月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
| LINE UP 3/6(金)公開『ブルームーン』 3/14(土)公開『今は昔、栄養映画館の旅』 3/14(土)公開『ひなぎく 4Kレストア版』 3/20(金祝)公開『アメリと雨の物語』』 3/20(金祝)公開『決断するとき』 3/27(金)公開『そして彼女たちは』 3/28(土)公開『ライフテープ』 |
『ブルームーン』
作詞家の栄光と挫折をバーの店内だけでつづった会話劇
12年間にわたって少年の成長を見つめた『6才のボクが、大人になるまで。』など、実験的な娯楽作品に挑み続けてきたリチャード・リンクレイター監督が、今度は実在した作詞家のある一夜の感情の起伏を、愚痴だらけの会話劇という大胆な手法でつづった。1943年のニューヨーク、リチャード・ロジャース作曲のミュージカル『オクラホマ!』の初演が大成功のうちにはねた夜、1人の男がバーのカウンターでグラスを傾けていた。男の名はロレンツ・ハート。ロジャースとのコンビでヒット作を手がけてきた作詞家だが、新作は別の作詞家と組まれ、アルコール依存気味の当人は文通相手の女子学生を待ちながら、バーテンダー相手に皮肉を垂れていた。やがてロジャースら舞台関係者が祝杯を挙げに現れる。たった数時間のバーの店内だけの描写がほとんどだが、ハートの栄光と挫折が巧みな会話術で紡がれ、ふくよかな世界が広がる。落ちぶれた男の葛藤を活写したイーサン・ホークのなり切りぶりも見ものだ。(藤井克郎)
2026年3月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/アメリカ/100分)原題:BLUE MOON 監督:リチャード・リンクレイター 出演:イーサン・ホーク、マーガレット・クアリー、ボビー・カナヴェイル ほか 配給:ロングライド ©2025 FUNNY VALENTINE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
『今は昔、栄養映画館の旅』
全国のミニシアターを巡る1カ月間の旅公演の記録
劇団東京乾電池を率いる俳優、柄本明が、劇団員の仲間たちと朗読劇の旅公演に出た。しかも巡業の舞台は全国各地のミニシアター24館。その1カ月に及ぶ珍道中の一部始終を捉えたのが、この記録映画だ。2025年5月1日、一行は1台のワゴン車に乗り込み、東京を出発。竹内銃一郎作の不条理劇『今は昔、栄養映画館』を引っ提げて、築100年を超す老舗から座席数30ほどの超ミニ劇場まで、スクリーンを背に連日の公演をこなす。徐々に疲労の色も濃くなってくるものの、毎日毎日が異なる映画館は常に満員の観客であふれ、体を張った2人芝居に笑い声を上げる。終演後はサイン会に続いて映画館関係者との打ち上げと、このとき76歳だった柄本の精力的な姿には驚くばかりだ。その原動力は、並々ならぬ映画と映画館への愛だということが画面の隅々から見て取れて、大いに笑わせてもらいつつ、ちょっぴり胸が熱くなった。道中を密着した竹田正明監督の自然な言葉の引き出し方も心地よい。(藤井克郎)
2026年3月14日(土)より東京・池袋の新文芸坐で6日間上映。以後、全国で順次公開 予告編動画
(2026年/日本/120分) 監督・撮影・編集:竹田正明 出演:柄本明、西本竜樹 ほか 配給:マジックアワー ©KNOCKOUTinc.
『ひなぎく 4Kレストア版』
破壊力満点! 唯一無二のガールズムービー
60年代チェコ・ヌーヴェルヴァーグの傑作としてカルト的人気を誇る作品。自分たちの欲望の赴くまま行動するマリエ1とマリエ2。人形の真似をしたり、男たちを騙しては食事を奢らせて逃げ出したり。家では牛乳風呂に入り、紙を燃やし、ソーセージをあぶる。グラビアやベッドシーツだけでなく、お互いの身体も切り始め、画面自体も切り刻まれる……。めまぐるしくシーンが変わり咀嚼する暇もない。アヴァンギャルド、シュール、ポップといった言葉さえはねのける破壊力。セリフも場面のつなぎも色彩も枠に収まりきらないカオスを生み出しているが、混乱すればするほどはまっていく。フランス・ヌーヴェルヴァーグのテイストを漂わせ、さらに当時東側と呼ばれた国の“反逆の精神”も流れているという唯一無二のガールズムービー。可愛さの中の狂気に胸がざわめく。(吉永くま)
3月14日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(1966/チェコスロヴァキア/77分)原題:Sedmikrásky 監督:ヴェラ・ヒティロヴァー 出演:出演:イトカ・ツェルホヴァー、イヴァナ・カルバノヴァー ほか 配給:チェスキー・ケー ©Czech audiovisual fund, source: NFA
『アメリと雨の物語』
60年代の日本を独特かつ豊かな色彩で描写
アメリは神戸に赴任したベルギー外交官の家に生まれた女の子。2歳半までは周囲の状況に無反応だったが、その後は自らを“神”だと信じ、魔法のような世界を生きるようになる。家族や家政婦のニシオさんとの生活にも新しい発見がいっぱい。だが、3歳の誕生日にある出来事が起こり、彼女の世界が変わっていく……。神戸生まれの作家、アメリー・ノートンの自伝的小説が原作のアニメーション。1960年代の日本を舞台に、アメリが出会いや別れを経験しながら成長していく姿を描く。アメリの目を通して見る日本は美しさに満ちていて、まるで桃源郷のよう。豊かで温かい独特の色彩が、夢と現実が混ざり合ったような空間を作りだす。そして、それはこれからさらに広がっていくアメリの世界の原点となる。当時の日本の風景や暮らし、文化が情緒的に映し出され、胸がいっぱいになった。(吉永くま)
3月20日(金祝)より全国順次公開 公式サイト 特報動画
(2025年/フランス/77分)英題:Little Amélie or the Character of Rain 監督:マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハン 音楽:福原まり 声の出演:ロイーズ・シャルパンティエ、ヴィクトリア・グロボア、ユミ・フジモリ ほか (日本語吹き替え版)永尾柚乃、花澤香菜、早見沙織 ほか 文部科学省選定(小学校児童向き)配給:ファインフィルムズ ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
『決断するとき』
悲惨な現実に接して見て見ぬふりができるのか
不幸な少年時代を過ごして、ようやくささやかな幸せをつかんだ男は、悲惨な現実に接して見て見ぬふりができるのか。アイルランドの作家、クレア・キーガンの実話に基づく小説を原作に、『オッペンハイマー』で主役を演じたキリアン・マーフィーがプロデューサーを務め、自らの主演で映画化した。ベルギー出身のティム・ミーランツ監督作。1985年、アイルランドの小さな町で炭鉱商人を仕事にしているビルは、妻と5人の娘とともに貧しいながら堅実な生活を送っていた。子どものころの苦い思い出があるクリスマスも近いある日、石炭を届けに訪れた修道院で、1人の少女から「ここから出してほしい」と懇願される。修道院はビルの大切な顧客だった。結果ではなく、決断までの過程をじっくりと見つめた作劇が異色で、回想を交えた暗い色調の映像が延々と続く展開に、作り手の強い決意がにじむ。修道院長役のエミリー・ワトソンが、ベルリン国際映画祭で助演俳優賞に輝いている。(藤井克郎)
2026年3月20日(金祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アイルランド/98分)原題:Small Things Like These 監督:ティム・ミーランツ 出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ワトソン、アイリーン・ウォルシュ ほか 配給:アンプラグド © 2024 ARTISTS EQUITY. ALL RIGHTS RESERVED.
『そして彼女たちは』
愛に恵まれてこなかった若い母親たちの苦悩
カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた『ロゼッタ』『ある子供』など、常に社会的弱者の葛藤を描いてきたベルギーのジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟監督が新作で取り上げたのは、若い母親たちの苦悩だった。カンヌでは脚本賞を獲得している。児童養護施設で育ったジェシカは出産を控え、まだ見ぬ母親に自分を捨てた理由を聞きたいと思っていた。一方、幼いわが子を養子に出そうと考えているアリアンヌは、暴力的でわがままな母親からわが家で育てようと哀願され……。若い母親を支援する施設に出入りする、いずれも過酷な環境に身を置く5人の女性それぞれの思い、生き方を、そっと寄り添うような優しい視線で見つめた。親やパートナーなど愛に恵まれていない彼女たちが、果たしてわが子に愛情を注ぐことができるのか。そのジレンマを描写するダルデンヌ兄弟の筆致はあくまでも温かい。生まれたばかりの幼子らの感情豊かな表情にも目を見張った。(藤井克郎)
2026年3月27日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/ベルギー、フランス/104分)原題:Jeunes Mères 英題:Young Mothers 監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 出演:バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、リュシー・ラリュエル、サミア・イルミ ほか 配給:ビターズ・エンド ©Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
『ライフテープ』
難病を抱えた息子と暮らす過酷でも幸せな日常
『追い風』『夢半ば』など、自らの出演で自主映画を発信し続ける安楽涼監督が初めてドキュメンタリー映画に取り組んだ。小学生のころからの幼なじみで、映画にも出演してもらっているストリートダンサーの隆一から、自分たちの家族を映画に撮ってほしいと頼まれた安楽監督。生まれたばかりの長男、珀久くんはメンケス病という難病を抱え、数分ごとに痰の吸引が欠かせなかった。それでも妻の朱香、飼い猫のフィガロとともに幸せな毎日を送っているという姿を世界中に伝えたい、と語る隆一に応えて、安楽監督はカメラを手に取った。1年にわたる家族の記録には、時に泣き叫ぶ珀久くんや不安を隠し切れない隆一夫婦など、過酷な日常が映り込んでいる。だが「自分たちの家庭を選んで生まれてきた」珀久くんへの感謝の思いを込めて、夫婦は笑顔で乗り切ろうと前を向く。何か社会に訴えるわけでもなければ、お涙ちょうだいでもなく、「見るべき映画」以上に「見てよかった」と思える作品だ。(藤井克郎)
2026年3月28日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/101分) 監督・撮影・編集:安楽涼 出演:隆一、朱香、珀久、フィガロ ほか 配給:東風 ©『ライフテープ』製作委員会
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