【インタビュー】『ザ・カース』―鬼才・宇賀那健一が『呪詛』チームと放つ、日台合作ホラーの新境地
- 2026年01月14日更新
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誰かの“キラキラした日常”であふれるSNSが、古色蒼然とした“紙人形の呪い”を拡散させる媒体となる――『悪魔がはらわたでいけにえで私』『ザ・ゲスイドウズ』などで世界から注目を浴びる鬼才・宇賀那健一監督が、台湾のホラー映画『呪詛』のチームとの共同制作した映画『ザ・カース』が2026年1月16日(金)より公開される。デジタルとアナログの融合、ジャパニーズホラーと台湾ホラーのコラボレーション、『呪詛』チームによる緻密で容赦のない表現と宇賀那監督のファンタスティックな演出が生み出した、新たなトラウマ系ホラーの撮影秘話を聞いた。
(取材:富田旻)
過剰なSNS社会と古来の呪い――正統派ホラーへの挑戦で描く人間の闇
― 日本でも話題を呼んだ台湾ホラー『呪詛』(2022)のチームと共同制作を行うことになったきっかけを教えてください。
宇賀那健一監督(以下、宇賀那監督):もともとは、『ザ・ゲスイドウズ』(2025)のプロデューサーと“低予算でくだらないホラー映画”を撮ろうということでストーリーも考えていたんですけど、『悪魔がはらわたでいけにえで私』を観てくださった台湾のプロデューサーから「日本と台湾の合作でやらないか」とお話をいただいて。ぜひやってみたいと思い、日台合作を念頭に置いて企画を書き直しました。
― どういった糸口から企画を練っていったのですか。
宇賀那監督:今まで散々ホラーの監督と言われてきたけれど、正統派のホラー映画って一本も撮っていないなと思って。そろそろやる時期かなと思ったのが一つ。
同時に、やるからにはなにがしかのテーマを入れたいと思いました。僕の作品は、なんだかんだ「愛」とか「友情」みたいなものを描いてきたから、人の死を描くにあたっては「怒り」が必要だと思って。ちょうどその頃、ソーシャルメディアを取り巻く環境がトゥーマッチだと感じていて、それを題材にしようと企画を詰めていきました。
― 現代のテクノロジーであるSNSが古来の呪術を増幅・伝播させるという新旧融合の世界観の斬新さと同時に、『リング』(1998)などのJホラーの現代古典をアップデートさせたような印象もあります。宇賀那監督の作品には過去の映画作品へのオマージュと思われるシーンや展開がたびたび登場しますが、今作もそういう観点から描かれたのですか。
宇賀那監督:最初は「怒り」というテーマからSNSに思うところを描こうと思いましたが、『リング』や『回路』(2001)、『着信アリ』(2003)など、何かを媒介して呪いや霊界を描くのはJホラーのイメージとしてあるので、その現代版を作りたいという思いもありました。ただ、そこまで大きく考えていたというよりは、日常でSNSを開いた時に、『リング』とか『回路』とかあったな……くらいの感じで。もう一つは、ポストしたら同時間帯で世界中の人が見ることができるのもソーシャルメディアの特性で、“呪いが一瞬で国を超える”。それは現代的な特徴として入れたいと思いました。
台湾ホラーの土壌と、日本ホラーの遺伝子の融合
― 『呪詛』や『哭悲/THE SADNESS』(2021)をはじめとする台湾のホラー作品を観ていると、文化的な背景として死後の世界が日常と地続きにあるというか、日本よりも呪術や霊的なものが身近なイメージがあったんです。そういった部分は台湾ホラー的な要素かなと思いました。
宇賀那監督:おっしゃる通り、台湾について調べていくと、日本より圧倒的に幽霊とか呪いとかが信じられているんですね。メジャーではないけど “紙人形の呪い” も実在していますし。“赤い服の女” も台湾での幽霊のイメージなんです。映画などでも、髪が長くて赤い服で、呪いや怒りが強いほど濃い赤で表現される。その中でも一番怒りや怨念を伴う亡くなり方が首吊り自殺だと信じられているので、長い舌が出ているのも向こうの幽霊のイメージなんですよ。
― なるほど。首吊り自殺者の怨念やそれを鎮める儀式(送肉粽)を描いた映画もありましたよね。
宇賀那監督:『縄の呪い』(2018)ですよね。そういった台湾の古典のいいところと日本ホラーのいいところを合わせて作品を作るというのも、今回のテーマでした。とはいえ、僕自身もホラーが好きだし心霊系YouTubeなどもよく観ますけど、幽霊を信じているかというと、実はそうでもないんです。じゃあ、自分が怖いものは何だろうと思った時に、最終的には「人」なんですよね。生きている人間の思いや執着。だから心霊系の怖い話に見せかけながら、一番怖いのが「人」っていうのを描くにも、ソーシャルメディアはやりやすい題材だと思いました。
― SNSで人知れず恨みを買うとか、知らない人に執着されるとか、ひと昔にはなかった恐怖ですね。
宇賀那監督:そうですね。けど、それも全部主人公の被害妄想かもしれないし、SNSでも虚偽を書く子もいれば、虚偽を書いているうちにそれを信じ込んじゃう子もいるし、話を盛る人もいる。結局、誰が、何が、正しいのか分かんないっていうのが一番怖いと思うんです。クトゥルフ神話じゃないけど、異世界があふれるように不思議なことが周りに起こって、得体の知れないものが忍び寄ってくる。でも最終まで見ると、果たしてそれすら本当だったのかわからない。そういう怖さを今作では描きたいと心がけていました。
― すごく細かい恐怖演出にもこだわりを感じました。スクリーンに目を凝らすほどに、何かに気づいちゃうんじゃないかみたいな不穏さとか緊張感がずっとあって……。
宇賀那監督:そういう違和感をちょいちょい入れるようにしました。それと、今の世代はYouTubeなどで映像も身近にあるし、それを撮ることも簡単にできる環境があるので、変に音を足しすぎるのをやめました。何か出てきそうなシーンも完全な無音ではないですけど、音楽を別にのせない。ただ静かに環境音だけが漂っているとか、リアリティを重視する演出にしました。それはそれで勇気がいることではあるんですけど。
台湾チームの圧倒的ディテールに驚愕! 日台の才能で生み出された化学反応
― 日本と台湾のキャストは、それぞれどのように決められたのですか。
宇賀那監督:日本人キャストは過去にワークショップや僕の作品でご一緒した方が中心です。璃子役の海津雪乃さんはワークショップでお会いしていたし、家豪(チャーホウ)役のYUくんは『みーんな、宇宙人。』、喜屋武豊さんは『ザ・ゲスイドウズ』に出演していただいていましたし。台湾キャストは、基本的にオーディションです。現地のキャスティングプロデューサーを通して、アクティングリールを送ってもらって、それを見て決めていきました。
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― 台湾キャストといえば、范瑞君(ファン・ルイジュン)さんの怪演がまさにトラウマ級でした。
宇賀那監督:彼女は台湾では有名なファミリードラマの優しいお母さん役などをやっている方なんですよ。なので、台湾の人たちがこの配役に一番驚いていました。
― そうなんですか! 撮影前など、台湾キャストとは何か作品についてコミュニケーションを取られたのですか。
宇賀那監督:あくまで僕の肌感ですが、とりあえず現場でやってみようというスタンスが日本より強いように感じました。だから事前に多くを話したりもしなかったですね。僕もまず一回やってみようっていうタイプだから、それがすごく心地良かったんです。台湾チームはスタッフもキャストもクオリティが高くて、一緒にやれて本当に良かったと思います。
― どういった点にクオリティの高さを感じられましたか?
宇賀那監督:芝居もめちゃくちゃ上手いし、スタッフに関してもそうですね。向こうが日本チームとやり慣れているからなのかもしれないですけど、こっちが望んでいることを理解してくれたうえで、その上をいくんです。美術とかも提案書から何十ページもあって、何時間も打ち合わせて。食べ物や配置される小物一つひとつに意味を持たせて、5パターンくらい選択肢を提示するほど徹底していて。それがまさに『呪詛』美術チームなんですけど、本当にすごいと思いましたね。
― 祭壇や古い家屋などの装飾もすごく作り込まれていましたね。また、映像の色合いが深く印象に残りました。どのような過程で作り上げられたのですか。
宇賀那監督:今回、初めてご一緒した撮影部の伊集(守忠)さんがとにかく才能あふれる人で、そこが一つ大きいです。グレーディングも含めてですが。もう一つは、日本と台湾の雰囲気をいかに変えるかを照明部と話し合いました。僕らは中国語と日本語のセリフからもどちらの国の場面なのかが分かるけど、他言語圏の人が観た時に、顔も似ていて、どちらの言語かも分からないと、それが伝わらない可能性があるから。映像の印象を変えるための、美術部も含め照明部の狙いが大きかったですね。
― 素晴らしい現場だったのが伝わりますね。台湾での撮影で苦労されたことはありますか。
宇賀那監督:唯一困ったのが、先ほども話したように、文化的に呪いや幽霊を信じている方が多いので、撮影許可がなかなか下りないんですよ。
― 幽霊とか呪いの舞台として使われるのが不吉、みたいなことですか?
宇賀那監督:そうです。道路とかは問題ないんですけど、家はなかなか使わせてもらえなかったですね。
― 台湾でホラー作品を撮るのって、結構大変なんですね。
宇賀那監督:僕もそこまでとは知らなくて。実際、現場には悪霊などを払える道士が毎日ついてくれていて。その方に、劇中の呪いの儀式とか、道士の呪文や動きも指導していただきました。
世界が注目する「ホラーと笑いの融合」と、止まらない創作意欲
― すでにアメリカ最大級のジャンル映画祭であるファンタスティック・フェストのホラー部門でスペシャルメンション:ベスト・キル賞や同国のナイトメアズ映画祭で最優秀脚本賞も受賞されていますね。海外メディアからはどんな反応がありましたか。
宇賀那監督:海外映画祭はほかにも、シッチェス・カタロニア国際映画祭、サンセバスチャン・ホラー&ファンタジー映画祭(スペイン)、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭(カナダ)にも行っているんですけど、すでにインタビューも40件ぐらい受けているんですよ。それで絶対聞かれるのが、「ホラーと笑いの融合」について。さすがに、全部のインタビューで聞かれるとは思わなくて、これは海外ならではだと思いました。
日本だとまだホラーはホラー、コメディはコメディと区分されちゃうけど、海外ではその共存ということに対して理解度がすごく高いなっていうのは、あらためて思いました。
― 個人的には、「わぁ、今回の宇賀那監督作品、ほんとに正統派ホラーだ!」って思いながら拝見していて、でもやっぱりそれだけではなくて……。特にあの……書けないですけど(笑)。
宇賀那監督:あの部分は……入れるか悩みましたが、プロデューサーから「宇賀那くんなんだから、入れた方がいいよ」って言われて。
― ぜひ映画館で「ホラーと笑いの融合」の部分も楽しんでほしいですね。
宇賀那監督:はい、ぜひ! 1月、2月はすごい数のホラー映画が公開されるんですよね。ホラー全体が盛り上がってくれることは個人的にもうれしいです。
― 宇賀那監督作品としては、1月23日(金)からR18のハードコア・スラッシャーの『インコンプリート・チェアーズ』も公開になりますね! 2月にはホラーではないけど、『ブルックリンでZ 級監督と恋に落ちた私』も公開待機していますし。しかも、この作品は打って変わってラブコメ! いつもながら精力的で驚きます。本作『ザ・カース』は台湾でも公開されるのですか?
宇賀那監督:はい、台湾でも公開予定です。
― それは楽しみですね!
宇賀那監督:楽しみです! 機会があれば、ぜひ台湾でまた映画を撮りたいですね。
【Profile】宇賀那健一(うがな・けんいち)
1984年生まれ、東京都出身。ファンタジーでパンキッシュな作風がトロント国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭、シッチェス映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、ポルト国際映画祭、スラムダンス映画祭、ファンタジア映画祭、ファンタスティックフェスト、トリノ映画祭など数々の国際映画祭で評判を呼び、高雄映画祭では二度のレトロスペクティブが開かれる。過去作に『ザ・ゲスイドウズ』『みーんな、宇宙人。』『異物-完全版』『悪魔がはらわたでいけにえで私』『転がるビー玉』『魔法少年☆ワイルドバージン』『愚鈍の微笑み』『黒い暴動 』『サラバ静寂』『Love Will Tear Us Apart』『渇いた鉢』などがある。待機作に『インコンプリート・チェアーズ』(2026年1月公開)、『ブルックリンでZ 級監督と恋に落ちた私』(2026年2月公開)がある。
『ザ・カース』作品概要
▼『ザ・カース』
出演:海津雪乃、YU、邵奕玫、詩歩、林思廷、范瑞君、艾瑪、喜矢武豊、大谷主水、大関れいか、野村宏伸、本宮泰風
監督・脚本:宇賀那健一
製作:人見剛史、才津博明、林明智 エグゼクティブプロデューサー:鈴木祐介
プロデューサー:高瀬博行、ZARA LIN
協力プロデューサー:劉士華、龍力維 音楽:小野川浩幸
撮影:伊集守忠 照明:加藤大輝 録音:庄野廉太朗 美術:陳若宇、伊藤圭哉
スタイリスト:中村もやし ヘアメイク:坂口佳那恵
特殊造形・特殊メイク:千葉美生、遠藤斗貴彦 編集:鈴木理 VFX:平興史
スチール:柴崎まどか 助監督:平波亘 製作担当:遠藤祐輝、王琦凱
制作プロダクション:TKSplus
宣伝配給:ライツキューブ 配給協力:ティ・ジョイ
【STORY】東京で暮らす美容師の璃子は、台湾の友人、淑芬(シューフン)のSNS をチェックして強烈な違和感を覚える。淑芬の背後に髪の長い不気味な女が写っており、「お前ら全員さっさと死ね」と不穏な文章が添えられていたのだ。淑芬と連絡がつかず、台湾人の元カレ、家豪(チャーホウ)に電話をすると「淑芬は半年前に死んだ」と告げられる。さらに親友のあいりに大量の不気味なメッセージと動画が届く。再生すると、木槌で紙の人形を叩く異様な様子が映っていた……。
※2026年1月16日(金)新宿バルト9ほか公開
- 2026年01月14日更新
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