1月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2025年12月29日更新
1月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
| LINE UP 1/9(金)公開『おくびょう鳥が歌うほうへ』 1/9(金)公開『CROSSING 心の交差点』 1/9(金)公開『ぼくの名前はラワン』 1/16(金)公開『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』 1/16(金)公開『グッドワン』 1/16(金)公開『旅の終わりのたからもの』 1/23(金)公開『役者になったスパイ』 1/24(土)公開『オリビアと雲』 1/31(土)公開『水の中で息をする―彼女でも彼でもなく―』 |
『おくびょう鳥が歌うほうへ』
厳しい自然に抱かれた島で始まる再生
『システム・クラッシャー』で怒りを抑えきれない9歳の少女を強烈に描いたノラ・フィングシャイト監督が、エイミー・リプトロットによる回想録を映画化。ロンドンの大学院で生物学を学んでいた29歳のロナは10年ぶりに故郷のスコットランド・オークニー諸島に戻る。 かつてアルコール依存症だった彼女はようやくその状況を脱し、野鳥保護団体で仕事を見つけて新生活を始めるが、恋人との別れや家族との関係、暴力事件といったつらい記憶がフラッシュバックする……。今作で監督が見つめたのは、孤独の中で葛藤する女性が徐々に再生していく過程だ。どの描写もリアルでありながら、浮遊するような感覚を覚える。大都会から厳しい気候にさらされる雄大な自然に抱かれた島へ、秩序のない生活から規則正しい生活へと移り、不安定な心がどのように変わるのか。内側になだれ込むような感情描写が秀逸で胸に染み込む。(吉永くま)
1月9日(金)より全国順次公開 公式HP 予告編動画
(2024年/イギリス・ドイツ/118分)原題:THE OUTRUN 監督:ノラ・フィングシャイト 出演:シアーシャ・ローナン、パーパ・エッシードゥ、サスキア・リーヴス ほか 配給:東映ビデオ ©2024 The Outrun Film Ltd., WeydemannBros. Film GmbH, British Broadcasting Corporation and StudioCanal Film GmbH. All Rights Reserved.
◆関連記事:『システム・クラッシャー』-交互にやってくる絶望と希望
『CROSSING 心の交差点』
異国で知る他者を受け入れることの尊さ
『ダンサー そして私たちは踊った』のレヴァン・アキン監督作。ジョージアで暮らす元教師のリアは、行方不明になったトランスジェンダーの姪・テクラを探すため、彼女を知るという青年アチとともに、イスタンブールへ向かう。しかしテクラの捜索は難航。そんななか、トランスジェンダーの権利のために闘う弁護士で、自身もトランス女性のエヴリムと出会う……。世代も言葉も背景も異なる3人が、罪悪感、閉鎖的な環境での息苦しさ、差別への抵抗や葛藤といったそれぞれの生きづらさを抱えながら、人生を交差させる。舞台は3人の関係性を象徴するような、東西文化要衝の地イスタンブール。ここで描かれるのは、テクラは見つかるのかという謎解きと、他者をただありのままに受け入れることの尊さだ。リアとアチとともに異邦人としてトルコの空気に触れ、海風が頬を優しく撫でるような心地よい余韻に包まれた。(吉永くま)
1月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/スウェーデン・デンマーク・フランス・トルコ・ジョージア/106 分)原題:Crossing 監督・脚本:レヴァン・アキン 出演:ムジア・アラブリ、ルーカス・カンカヴァ、デニズ・ドゥマンリ ほか 配給:ミモザフィルムズ ©2023 French Q uarter Film AB, Adomeit Film ApS, Easy R iders Films, R MV Film AB, Sveriges Television AB
『ぼくの名前はラワン』
イギリスに渡ったクルド難民聾少年の孤独と成長
イラクのクルディスタンで生まれた耳の聞こえない少年、ラワンは、家族とともに難民として英ダービーにたどり着く。当初は英語も分からず、誰ともコミュニケーションが取れないラワンだったが、初めて自分の居場所を見つけた聾学校で手話を学ぶうちに級友と打ち解けるようになる。その成長の過程を、イギリスを拠点に活動するエドワード・ラブレース監督が長い時間をかけてじっくりと見つめた。当初は自分の殻に閉じこもり、「ほかの惑星に行って、誰もが耳の聞こえない世界を作る」などと心情を吐露していたラワンが、手話を身につけてからは見る見る成長を遂げ、やがて言葉の役割について自分の考えをすらすらと表現する姿には目を見張る。改めて人間の可能性に気づかされるとともに、そんな一家に難民審査の壁が立ちはだかるなど、社会の冷酷さも浮き彫りになる。家族のインタビュー以外は極力音声を排し、ラワンの孤独感に寄り添おうとした編集にもうならされた。(藤井克郎)
2026年1月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/イギリス/90分)原題:Name Me Lawand 監督・脚本:エドワード・ラブレース 出演:ラワン・ハマダミン ほか 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム ©Lawand Film Limited MMXXII, Pulse Films, ESC Studios, The British Film Institute
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』
美しさを求めるシンデレラの義姉妹が行き着く先は
あの『シンデレラ』をモチーフに、ルッキズムへの痛烈な皮肉を込めた笑いと痛みが満載の怪作ゴシックホラーが北欧ノルウェーで誕生した。母の再婚で、とある架空の王国にやってきたエルヴィラは、王子の花嫁になることを夢見ていた。ふくよかな体形で口は矯正器具で覆われているエルヴィラに対し、新しく義理の姉妹になったアグネスは誰もがうらやむ美しさだったが、ある日、母の再婚相手のアグネスの父が急死。2人の立場は一変する。主人公がシンデレラではなく、その義姉妹という発想がユニークで、上から目線のシンデレラに負けじとどんどん美しくなっていく。だがその努力が度を超すと、というところがこの映画の最大の見せ場で、エルヴィラを演じたリア・マイレンの常軌を逸した変貌ぶりには、驚愕を通り越して感動を覚えること請け合いだ。グロテスクな描写の連続に、これが長編第1作となるエミリア・ブリックフェルト監督の本気度がひしひしと伝わってきた。(藤井克郎)
2026年1月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/ノルウェー、デンマーク、ポーランド、スウェーデン/109分/R15)原題:Den stygge stesøsteren 英題:The Ugly Stepsister 監督・脚本:エミリア・ブリックフェルト 出演:リア・マイレン、アーネ・ダール・トルプ、テア・ソフィー・ロック・ネス ほか 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム ©Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025
『グッドワン』
思春期の少女が父とその友人の3人で過ごす森の中
17歳のサムは、再婚した父親のクリスと、クリスの友人で離婚したばかりのマットとともに、ニューヨーク州の山へキャンプに出かける。同行する予定だったマットの息子は参加せず、家族や仕事に関する大人の男2人の会話に、サムはほぼ聞き役に徹していた。だが2日目の夜、マットが発した何気ない軽口に……。『バンク・ジョブ』などのロジャー・ドナルドソン監督を父に持つインディア・ドナルドソン監督の初の長編で、多感な年ごろの少女が抱く大人への期待と失望を繊細なタッチで紡いだ。尊敬に値すると思っていた親世代に対する不信感と、そんな大人社会でこれから生きていかなくてはならないという不安感に寄り添うように、緑濃いむき出しの自然の中で美しくも神秘的に描出。イモリやナメクジ、オタマジャクシといった森にうごめく小さな生き物も彼女の孤独感を想起させ、映画でしか表現し得ない思春期ならではの時間がいつまでも余韻として心に残った。(藤井克郎)
2026年1月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アメリカ/89分)原題:Good One 監督・脚本:インディア・ドナルドソン 出演:リリー・コリアス、ジェームズ・レグロス、ダニー・マッカーシー ほか 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム ©2024 Hey Bear LLC.
『旅の終わりのたからもの』
ホロコーストを生き抜いた父との心をつなぐ旅路
1991年のポーランド。米ニューヨークで生まれ育ったジャーナリストのルーシーは、ホロコーストを生き抜いたユダヤ人の父、エデクと父の祖国を初めて訪れる。列車には乗りたくない、故郷のウッチには行きたくないとわがままを言う父に翻弄されながらも、何とか一緒に父の生家を訪ねたルーシーだったが……。オーストラリアの作家、リリー・ブレットの実体験に基づく小説を原作に、ドイツ生まれのユリア・フォン・ハインツ監督が父と娘の心をつなぐ旅路をたどった。自由気ままで人懐っこい父親に、謹厳実直な娘がいらいらを募らせていく旅程はユーモアにあふれる一方、生き残った血の継承など決してすっきりとはしない流れに、安易に感動的には仕上げないという誠実な制作姿勢がのぞく。アウシュヴィッツ強制収容所の寒々しい光景も含め、加害者側の反省も踏まえて歴史に真摯に向き合おうとしたフォン・ハインツ監督の繊細な作劇に好感を抱いた。(藤井克郎)
2026年1月16日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/ドイツ、フランス/112分)原題:TREASURE 監督・脚本:ユリア・フォン・ハインツ 出演:レナ・ダナム、スティーヴン・フライ、ズビグニェフ・ザマホフスキ ほか 配給:キノフィルムズ ©2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
『役者になったスパイ』
劇場への潜入捜査を巡る社会派ロマンチックコメディー
東西冷戦も終わりを遂げつつあった1989年のスイスを舞台に、ドイツ生まれのミヒャ・レビンスキー監督が史実を基にした社会派風刺劇を編み上げた。国際情勢が大きく揺れる中、永世中立国のスイスでも軍備増強の議論が巻き起こっていた。警察は反体制派の情報収集のため、デモ活動の拠点になっていた劇場への潜入捜査を試みる。エキストラの出演者として送り込まれたのは、堅物の警察官、ヴィクトールだった。演出家に才能を認められ、看板女優と恋に落ち、とロマンチックコメディー風に推移していくが、一方で危険分子でもない劇団員への監視を強化する国家権力の描き方など、ユーモアを伴いながらも痛烈な皮肉が込められている。冷戦は終結したものの、その後も世界各地で戦争は起こっていて、軍縮どころか各国が競うように軍事力を増強している。そんな現実に対して今一度よく考えてほしいという作り手の願いが、スクリーンの奥から伝わってきた。(藤井克郎)
2026年1月23日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/スイス/102分)原題:Moskau Einfach! 監督・脚本:ミヒャ・レビンスキー 出演:フィリップ・グラバー、ミリアム・シュタイン、マイク・ミュラー ほか 配給:カルチュアルライフ ©Langfilm / Bernard Lang AG 2020
『オリビアと雲』
斬新すぎる多彩な表現で映像化した愛の形
カリブ海の島国、ドミニカ共和国から、多彩な表現手段でさまざまな愛の形を映像化した奇跡のようなアニメーションがやってくる。登場するのは2組の男女。オリビアはラモンとの過去の思い出をベッドの下に隠し、オリビアの息子、マウリシオから拒絶されたバルバラは空想的な物語を作り出す。人物設定もストーリー展開もはっきりと示すことなく、スタイルもばらばらのアニメーションが次々と流れていく。かなり乱暴に絵具を塗り重ねた手描きの絵があるかと思えば、段ボールを切り抜いた造形が現れたり、ラモンなどは顔も体も出納帳だったり、揚げ句の果てにはオリビアは葉っぱの体に目だけがついている姿になるなど、ニューヨークの美術大学で学んだというトマス・ピチャルド=エスパイヤ監督の自在な創造性にはあっけに取られるばかりだ。斬新すぎる表現についていくのが大変だが、何も考えずにこのめくるめく絵と音の世界に身を委ねるのが一番のような気がした。(藤井克郎)
2026年1月24日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/ドミニカ共和国/81分)原題:Olivia & Las Nubes 英題:Olivia & The Clouds 監督・脚本・編集・美術・撮影監督:トマス・ピチャルド=エスパイヤ 声の出演:オルガ・バルデス、エルサ・ヌニェス、エクトル・アニバル ほか 配給:ムヴィオラ ©Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cine
『水の中で息をする―彼女でも彼でもなく―』
メスにもオスにもなる牡蠣にまつわる映像エッセー
かつてニューヨークの海にはたくさんの牡蠣が生息していた。だが食用に加えて牡蠣の殻を建築資材として大量に消費したことからその数は激減。結果として食物連鎖のバランスが崩れ、水質汚濁をもたらし、ハリケーン被害が多発することになった。実験映画の作家、エミリー・パッカー監督は、地球環境保護の観点に加え、メスにもオスにもなる牡蠣を性差にとらわれないクィアの象徴として描出。ニューヨーク沖に牡蠣礁を築く活動をしている女性を中心に、歴史、繁殖、料理といった牡蠣にまつわるさまざまな側面から、海辺でのダンスシーンや水中撮影など多彩なイメージショットを交えてつづる。登場人物の肩書や名前などは示されず、ドキュメンタリーというよりは映像エッセーといった趣だが、決して声高に主張するわけではないものの、牡蠣が投げかける人類への警鐘が静かに伝わってくる。何度も見返してみたいと思わせる小品だ。(藤井克郎)
2026年1月31日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2023年/アメリカ/77分)原題:Holding Back the Tide 監督:エミリー・パッカー 配給:ブライトホース・フィルム ©Marginal Gap Films 2023
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