【Q&Aレポート】本と本屋、そして映画館の未来― 篠原哲雄監督と千勝一凜さんが語る映画『本を綴る』の制作秘話

  • 2024年08月06日更新

左:篠原哲雄(監督)、右:千勝一凜さん(脚本・プロデューサー)

「本の居場所」となる街の本屋や図書館、そして作家たちを応援したいと企画された映画『本を綴る』。本作の日本記者クラブ試写会が2024年8月5日(月)に行われ、上映後のQ&Aに篠原哲雄監督と脚本・プロデューサーを務めた千勝一凜さんが登場した。

取材:富田旻


心地よい居場所を見つけに、本と人に出会う旅へ

映画『本を綴る』ベストセラー作家の一ノ関哲弘(矢柴俊博)は、あることから小説が書けなくなっていた。ある日、古書に挟まれたまま届けられずにいた恋文を見つけた彼は、その手紙を届けるための旅に出る。旅先での出会いや友人との再会を通して、書けなくなった原因と向き合っていく一ノ関。彼は再び書けるようになるのだろうか……。

主人公の挫折と再生の物語を、全国の魅力的な書店や図書館を巡るロードムービーとして紡いだ本作は、東京都書店商業組合が2021年に開始したYouTubeチャンネル『東京の本屋さん〜街に本屋があるということ〜』の中で制作された配信ドラマ『本を贈る』(監督:篠原哲雄 脚本:千勝一凜 各回約10分×9話)の続編として制作された。

ドラマと映画、一連の作品を手がけた理由について篠原監督は「YouTubeの撮影で東京の本屋を巡りながら、 映像を(各回)10分ぐらいにまとめてドキュメンタリーとして配信していました。その取材を通して、魅力的な店主たちに出会い、彼らが本屋を作り上げていく姿におもしろ味を感じました」と述懐。さらに、出版社と書店を繋ぐ取次の存在や、後継者問題、利益が生まれにくいシステムなど、本屋が抱えるさまざまな実情を知りドラマ化を思いついたという。

そして配信ドラマ『本を贈る』が2022年2月末より配信されると、続編を望む声や日本各地の魅力的な本屋の情報など大きな反響が寄せられた。そうした繋がりから、映画に登場する那須塩原市図書館みるる、京都の恵文社、香川県の移動図書館と出会い、ロードムービーの骨組みが出来上がったという。

ドラマに続き再び千勝さんとタッグを組んだ篠原監督は、「本の居場所はさまざまな所にある。人の居場所も新しく居心地よい所を見つければよい! というメッセージを込めて制作しました」と映画への熱い思いを語った。

“独自の道をどう作っていくか”という部分は、映画館の現状ともリンクする

映画『本を綴る』

「8割も消えてしまった東京の本屋さんに一人でも多くのお客様が足を運んでもらえるように!」という意図で開設されたYouTubeチャンネルに端を発する本作。そのテーマは、地方の映画館やミニシアターを取り巻く不況とも重なる部分がある。さらに、本作に登場する個性豊かな本屋たちは、文化の発信地や交流場所としてのミニシアターの存在ともどこか通じるようにも見える。

そういった場所があることの意味や、残していくことについて意見を求められた篠原監督は、「残していきたいと思っています」と力強く語ったうえで、2020〜21年のコロナ禍で多くの映画監督や劇場関係者がミニシアターを守る運動を展開したことに触れ、「僕自身は直接的な参加はしていなかったけれど、賛同していました。これら(本屋関連)の作品をやり始めたのが2021年だったものですから、すごくリンクしているなと思っていました。数が減ることイコール衰退とは思わないし、東京でもミニシアターがなくなった代わりに魅力的な映画館もいくつかできたことも知っています。そういう部分で、本屋も映画館も、独自の道をどう作っていくのかという部分はリンクはすると思っていました。魅力的な本屋はどこにもあるんだよということを、特にこの映画ではやっておきたいと思ったんです」と語った。

世界でただ一冊の古本に、届かぬ思いとわずかな期待を挟んで……

映画『本を綴る』メイン画像続いて、「古本の間から出せなかった恋文が見つかる、というロマンチックなエピソードはどのように思いついたのか」という質問に千勝さんは、「古本って世界に一冊しかないと思うんです。例えば医学書ですが、古本のほうが、(前の持ち主による)知識がいっぱい書きこみしてあるので、 わざと古本を買う人がいると聞いたことがあります。それで、はじめは本に書きこみがしてあるのがいいのか、ハガキがいいのか、何がいいだろうと思ったのですが……手紙が挟んであった本はラブレター本なんですよね。自分の手元には置いてはおけないけれど、どこかで誰かの手に渡っていって、いつか(恋文を宛てた)琴さんに繋がればいいなという、わずかな、何パーセントにも満たない期待を込めて、(手紙を書いた)喜八郎さんはその本に挟んだ。そんな裏設定があります」と貴重な制作秘話を披露した。

矢柴さんを使わない手はないだろうと思っていた

主人公の一ノ関を演じた矢柴俊博をはじめ、ヒロイン役に遠藤久美子と宮本真希、旧友役を長谷川朝晴が務めたほか、加藤久雅、川岡大次郎、石川恋など個性と魅力あふれるキャストが顔を揃えた本作。

唯一無二の存在感を持つ名バイプレイヤー矢柴俊博を主演に迎えた理由について篠原監督は、「彼とは実は長い付き合い。講師を依頼されたワークショップで彼に出会って、すごくおもしろい俳優がいると気づいた。矢柴さんは当時から、ワークショップから映画を作るという、地道な活動をしている俳優だったんです。いずれは主役をやるに違いないと思っていたし、僕の作品の『山桜』(2008)などにも小さな役で出ていただいていますが、こういう実力のある俳優を使わない手はないと思っていたので、 今回こそ彼を生かすチャンスだと思いました」と絶賛した。

一冊の本から次の本、また次にと新たな発見があるのが本屋の魅力

「本屋で本を見つけてワクワクするような原体験は?」と聞かれたお二人。篠原監督は「中学生当時、駅からの帰り道に本屋があって大体毎日寄っていました。文庫本の前に立っていたら、ちょっと違うところに、こんな小説があるのかって発見したり……あまり言えないですけど、エロ本を見つけたりね(笑)。本ってこんなにいっぱいあるのかということが、その時にわかったんですね。目的の本を探し出すよりも、隣にこんなものがあったという新たな発見があることが本屋の魅力。一冊の本から次の本、また次にと新しいものを見つけて、結果、何を買おうか迷って……そんな繰り返しをずっとやっていた気がします。その間は、いろんな意味で思考の遊泳をしてる感じがあって楽しかったですね」と微笑ましくもみずみずしい原体験を語った。

千勝さんは「若かりしころ、まだみんながケータイもそんなに持ってない時代だったので、本屋さんで待ち合わせをするんですね。すると相手が遅れてきても、好きな本を読んでるのでイライラせずに待っていられます。本屋さんで、私が好きな唯川恵さんが書いた女性の生き方とかを読みながら、『そっか、こういう人と付き合うより、こんな人と付き合った方がいいのかな、時間通りに来ない人はダメだな』とか思ったりしながら、自分の道しるべを作ってくれる本にも出会ったりしました」とウィットに富んだエピソードをまじえ、素敵な原体験を披露した。

「本を●る」シリーズ第3弾を構想中! 題材のアイデアも募集中!

映画『本を綴る』最後に篠原監督は「本シリーズの第2弾までせっかく作ったので、第3弾を作りたいなと思っています。まだ題材を探してる最中ですが、皆さんもアイデアがありましたら教えていただきたいと思います」と続編を示唆。

続けて、「ともかく、魅力的な本や本屋がたくさんあるのは事実ですので、皆さんも本屋さんに足繁く通っていただければ嬉しく思います!」と会場に呼びかけ、Q&Aは和やかな雰囲気のまま幕を閉じた。

映画『本を綴る』は、2024年10月5日(土)より新宿K’scinema、京成ローザ⑩ほかで全国順次公開される。

「一人でも多くの方へ、この映画を届けたい」 クラウドファンディング実施中!

現在、本作を支援するクラウドファンディング篠原哲雄、自主レーベル第一弾! 本屋を応援する映画『本を綴る』の劇場公開と海外映画祭への出品参加の支援プロジェクトを実施中だ。街から本屋の灯火を消したくない!という 思いから生まれた本作には、「人は完璧じゃないからこそ愛おしく、一歩踏み出すと違う景色が見える」という普遍的なメッセージを込められている。詳細はぜひ下記にて確認してほしい。

★詳しくはこちらへ!

予告編・作品概要

主人公は、小説が書けなくなった作家
本、旅、人が織りなすハートウォーミングな物語

▼『本を綴る』
映画『本を綴る』ポスター(2023年/カラー/日本/DCP/ビスタ/107分/5.1ch )
出演:矢柴俊博、宮本真希、長谷川朝晴、加藤久雅、遠藤久美子
監督・総合プロデュース:篠原哲雄
脚本・キャスティング・プロデューサー:千勝一凜
プロデューサー:櫻庭賢輝 アソシエイトプロデューサー:山中勝己
音楽:GEN 主題歌:ASKA 「I feel so good」
撮影:上野彰吾(JSC) 、尾道幸治 録音:田中靖志、田辺正晴 照明:浅川周 助監督:市原大地
企画協力:日本書店商業組合連合会、東京都書店商業組合
デザインイラスト:松永由美子、宮本奈々
企画・製作:ストラーユ 配給:アークエンタテインメント
©ストラーユ

『本を綴る』公式サイト

※2024年10月5日(土)より新宿K’scinema、京成ローザ⑩ほか全国順次公開

  • 2024年08月06日更新

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