« 【祝】シアトル映画祭で三島有紀子監督が四冠! 各賞の受賞コメント到着&最優秀主演男優賞の妻夫木聡さんは《三島有紀子監督特集》への愛情あふれる応援コメントも!
【インタビュー】キュートでアンニュイな吸血鬼役で魅了するカナダの新星―『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』 主演サラ・モンプチさん »
【インタビュー】異色のダーク・ファンタジーの中に描く「共感、理解、本当の自分を受け入れる勇気」―『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』 アリアーヌ・ルイ・セーズ監督
- 2024年07月09日更新
感受性豊かで人を殺せないヴァンパイアのサシャと、自殺願望を持つ孤独な青年ポール。二人の出会いと成長を思春期独特の繊細な感情描写とユーモアたっぷりに描く異色のダーク・ファンタジー『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』 が、2024年7月12日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開される。
監督は短編『Little Waves(英題)』がトロント国際映画祭や、ベルリン国際映画祭でノミネートを受けた新鋭、アリアーヌ・ルイ・セーズ。初の⾧編作となる本作で、第80回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ(Giornate Degli Autori)部門で最優秀監督賞に輝き、第48回トロント国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出されるなど、世界の映画祭で注目を浴びたアリアーヌ・ルイ・セーズ監督にインタビューした。
(インタビュー:富田旻)
非現実的な文脈の中にあっても、極めて人間らしいキャラクターを描いた
― これまで多くの映画で描かれてきたヴァンパイアを、監督にとって初の長編作の題材に選んだ理由を教えてください。
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督(以下、監督):初の長編映画の題材として吸血鬼を選んだのは、自由な創作をすることができる余白が大きく、社会の出来事について扱おうとする際、比喩を大いに盛り込むことができるためです。吸血鬼は、疎外感、道徳的なジレンマ、人間の暗い部分と人間らしい部分との葛藤など、多くのテーマを体現することができます。
― 共同脚本のクリスティーヌ・ドヨンさんとは、どのように作業を進めていかれましたか。
監督:クリスティーヌ・ドヨンとの脚本作業では、私たち二人の独自の視点と、アイデアを持ち寄って共同作業をしました。私たちは、非現実的な文脈の中にあっても、極めて人間らしいキャラクターを創り出すこと、そして彼らの内面の葛藤が観客の心と共鳴するよう掘り下げることを目指しました。
サシャ役のサラ・モンプチは、独特でミステリアスなオーラに圧倒された
― サシャ役のサラ・モンプチさんが感受性豊かなヴァンパイアを魅力的に演じていました。またポールを演じたフェリックス・アントワーヌ・ベナールも、飄々とした中に孤独を抱えた青年を好演していました。二人のヘアスタイルもキャラクターに合っていましたね。キャスティングと、ビジュアルも含めてキャラクターを描く際にこだわった部分を教えてください。
監督:サシャとポールのキャスティングの決め手は、複雑な感情や繊細さを伝えられる俳優であることでした。以前、演技をするサラを映画のスクリーンで見たときに、その独特でミステリアスなオーラに圧倒され、サシャにぴったりだと思いました。ポールには、深い孤独感と生きる意味の探求を体現できる人物が必要でした。最もこだわったのは、登場人物のビジュアルが、映画全体を通して、彼らの内なる葛藤や成長と一致するようにすることでした。
共感、理解、本当の自分を受け入れる勇気――希望に満ちたメッセージを伝えたい
― サシャの部屋で、ブレンダ・リーの『Emotions』を聴く長回しのシーンが印象的です。感受性の豊かさゆえの生きづらさ、初めて他者に共感や理解を覚えた喜びと戸惑いが、歌詞とのリンクや、サシャの表情や身振り(ダンス)から伝わってきました。
監督:このシーンは、二人の気持ちが通うまでに、自己を見つめ、変化していく瞬間をとらえたいと思っていました。私は、このシーンを切り取った、たった1枚の写真の中にも、甘美で詩的で、ぎこちないものを作り出すことを目指していました。俳優や撮影監督とよく話し合い、このシーンの振付けを綿密に行いました。魔法のような何かが徐々に展開していくシーンを作り上げるには、小さな決断の一つひとつが重要でした。
曲の歌詞も大切な役割を担っていると思います。サシャがこの歌を聴いたとき、感情は彼女にとって最大の敵であり、家族の目には弱点と映るものです。しかし映画の終盤では、感情がポールとの新たな道への鍵であり、映画を通してこの曲の意味が変化していることがわかります。
― サシャに牙が生えるシーンでは、幼さからの脱皮や、微妙に性的な高揚感なども伝わってきた気がしました。どのような意図をもって描かれたのでしょうか。
監督:彼女の牙が生えることは、通過儀礼、無邪気な子どもからの脱皮、そして彼女自身の欲望とアイデンティティがかすかに目覚めたことを象徴しています。
― サシャから「最期の望み」を聞かれて、ポールが「考えたことがない」と返すシーンでは、彼は生きることに執着できていないのだと思いました。ポールやサシャのように、漠然とした「空虚感」や「違和感」の中で苦しんでいる若者も多いと思います。本作には、「意義」や「居場所」を見つけることの大切さや、ある種の希望的なメッセージが込められているようにも感じました。
監督:そうですね。あのシーンは、ポールが自分の人生に無関心になっていて、虚無感を覚えていることを浮き彫りにする上で極めて重要でした。ポールとサシャというキャラクターを通して、虚無感や違和感を感じていても、常につながりや目的を見出すことはできるのだという、希望に満ちたメッセージを伝えることを目指していました。共感、理解、そして本当の自分を受け入れる勇気の重要性を明確に示したかったのです。
『鉄男/TETSUO THE IRON MAN』は、最も想像力をかきたてられた作品のひとつ
― 本作のほかに、お気に入りのヴァンパイア映画はありますか?
監督:『ハンガー』(1983/トニー・スコット監督)、『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』(2014/アナ・リリー・アミールポアー監督)、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013/ジム・ジャームッシュ監督)がお気に入りです。芸術的なスタイルと、不死や疎外感といった実存的なテーマと融合させていて、私の物語作りに大きな影響を与えました。さらに、ヴァンパイア映画ではありませんが、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013/ジョナサン・グレイザー監督)の疎外感に対するユニークなアプローチとその心に残る妖しげな雰囲気には、作品を作る上でとても影響を受けました。
― 最後に、日本の映画で好きな作品や印象に残っている作品があれば教えてください。
監督:日本映画で好きな作品は、『タンポポ』(1985/伊丹十三監督)です。ユーモアと、映画的表現が素晴らしいと思います。また、『万引き家族』(2018年/是枝裕和監督)が印象に残っています。深く心を揺さぶるストーリーと、俳優たちの素晴らしい演技に深く感動しました。そして『鉄男/TETSUO THE IRON MAN』(1989/塚本晋也監督)は、これまで観た中で最も興味をそそられ、心をかき乱された、想像力をかきたてられる作品のひとつです。
予告編・作品概要
殺人を拒む吸血鬼×死を望む青年
息苦しい世界に生きる2人が共鳴する
異色のダーク・ファンタジー
【STORY】サシャは、ピアノを弾くことが好きなヴァンパイア。彼女は吸血⿁一族のなかでただ一人、ある致命的な問題を抱えていた。——感受性が豊か過ぎて、人を殺すことができないのだ。自ら人を手にかけることはせず、生きるために必要な血の確保を親に頼り続けようとするサシャ。両親は彼女の様子を見て、いとこの“血気盛ん”なドゥニーズと共同生活を送らせることを決める。血液の供給が断たれたサシャは、自分で獲物を狩るようドゥニーズに促されるが、どうしても殺すことができない。心が限界を迎えたとき、自殺願望を持つ孤独な青年ポールと出会う。どこにも居場所がないと感じている彼は、サシャへ自分の命を捧げようと申し出るが——。
▼『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』
(2023 年/カナダ/91 分)
原題:VAMPIRE HUMANISTE CHERCHE SUICIDAIRE CONSENTANT
監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ
脚本:アリアーヌ・ルイ・セーズ、クリスティーヌ・ドヨン
出演:サラ・モンプチ、フェリックス・アントワーヌ・ベナール、スティーブ・ラプランテ
日本語字幕:大塚美左恵
配給:ライツキューブ
© Belles canines inc. – 2023 Tous droits réservés.
●公式サイト 公式X(旧Twitter)
※2024年7月12日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開
- 2024年07月09日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2024/07/05/60717/trackback/