2月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2024年01月28日更新

2月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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2/9(金)公開『同感~時が交差する初恋~
2/9(金)公開『瞳をとじて
2/9(金)公開『Firebird ファイアバード
2/9(金)公開『梟―フクロウ―
2/9(金)公開『夜明けのすべて
2/10(土)公開『フジヤマコットントン
2/23(金祝)公開『落下の解剖学

『同感〜時が交差する初恋〜』

無線機でつながる時代を超えた男女の絆

映画『同感〜時が交差する初恋〜』メイン画像

2000年製作の映画『リメンバー・ミー』を原作に、時代設定を20年ほど後に置き換えた恋愛ファンタジー。1999年に生きる男子学生ヨンと2022年に同じ大学に通う女子学生ムニ。ある夜無線機の交信で知り合い、会う約束をするが、相手が現れずお互いを責める。だが、やがて彼らは違う時代を生きていることに気づき、2人の間には恋人でも友人でもない不思議な絆が生まれる……。四半世紀弱を隔てた両時代間のカルチャーや言葉の違いがユーモラスに描かれ、ミレニアム前後の空気感への懐かしさも堪能できる。共通するのはいつの時代も変わらない純粋な恋心。ヨンとムニに共感を覚えるとともに、少々センチメンタルな気分に。自由も未来も不安もある年齢を経て頑張って生きてきた大人たちの人生を、肯定してくれるような優しさも心地良い。(吉永くま)。

2024年2月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/韓国/114分)原題:동감 英題:Ditto 監督・脚本:ソ・ウニョン 出演:ヨ・ジング 、チョ・イヒョン、キム・ヘユン ほか 配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス ©2022 GOGOSTUDIO INC. ALL RIGHTS RESERVED


『瞳をとじて』

22年前に失踪した俳優の謎を追う元映画監督

『ミツバチのささやき』のスペインの名匠、ビクトル・エリセ監督が、『マルメロの陽光』以来31年ぶりとなる長編作品に取り組んだ。映画撮影中に主演俳優のフリオ・アレナスが失踪して22年。監督でフリオの親友だったミゲルの元に、失踪事件の謎を追うというテレビ番組の出演依頼が来る。取材に協力するミゲルだが、番組が放送されると思わぬ情報が寄せられた。ミゲル自身、海辺の漁師町で隠遁生活を送っており、過ぎ去った時間の重みと残酷さがしみじみと伝わってくる。その時間を行き来するモチーフとして映画を据えることで、多くの人の記憶を呼び覚ます装置としての映画の力を強調したかったか。「老いとは恐れと希望を持たなくなること」「記憶は戻らなくても魂を揺さぶることはできる」など、人生を重ねたエリセ監督が紡ぎ出す深みのあるせりふの数々が心に染みた。(藤井克郎)

2024年2月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/スペイン/169分)原題:Cerrar los ojos 英題:Close your Eyes 監督・脚本:ビクトル・エリセ 出演:マノロ・ソロ、ホセ・コロナド、アナ・トレント ほか 配給:ギャガ ©2023 La Mirada del Adiós A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.


『Firebird ファイアバード』

旧ソ連軍基地でひかれ合った兵士と将校の運命

1970年代後半、旧ソ連時代のエストニアを舞台にした実話に基づく作品で、同国出身のペーテル・レバネ監督が繊細な心理描写で織り上げた。エストニアのソ連軍基地で兵役に就く二等兵のセルゲイは、新たに配属されてきた将校のロマンとひかれ合うようになる。写真という同じ趣味を通して2人は交流を重ねるが、同性愛が違法だったソ連でもとりわけ規律の厳しい軍隊で、2人の関係は絶対に知られてはならなかった。やがてセルゲイは兵役を終え、夢見ていた役者を目指してモスクワに旅立つが……。エストニアでは初めてのLGBTQをテーマにした映画で、どこか古風な印象は否めない。ただ軍隊という舞台設定と、同僚女性のルイーザという存在が絡んでくることで、適度な緊張感が漂い、画面を引き締める。若いレバネ監督の挑戦者魂に今後の期待が膨らむ。(藤井克郎)

2024年2月9日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/エストニア、イギリス/107分/R18+)原題:Firebird 監督・脚色:ペーテル・レバネ 出演:トム・プライヤー、オレグ・ザゴロドニー、ダイアナ・ポザルスカヤ ほか 配給:リアリーライクフィルムズ ©FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms


『梟―フクロウ―』

激動の時代の史実と創作を巧みに融合

映画『梟―フクロウ―』メイン画像

朝鮮王朝時代の記録物に‟怪奇の死“と記された謎に、斬新なフィクションを加えたサスペンス・スリラー。2022 年の韓国年間最長No.1 記録を樹立した。病気の弟のために、秘密を抱えながら宮廷で働く盲目の天才鍼医ギョンスは、ある夜常闇の中で王の子の死を‟目撃“し、追われる身となる-。中国王朝が明から清へ変わり、その影響を色濃く受けた朝鮮王朝。激動の時代の史実と創作の融合により物語に厚みが加わった。誰が味方で誰が敵なのか。主人公の研ぎ澄まされた感覚がスクリーンを通して伝播する。予測不能かつスリリングな展開が続き、緊迫感も加速。今も残る謎と、陰謀が渦巻く宮廷内で“見過ぎて”しまったギョンスの運命の絡め方が巧みで、歴史映画の限界のない可能性を感じた(吉永くま)

2024 年2 月9 日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022 年/韓国/118 分)原題:올빼미 英題:THE NIGHT OWL 監督:アン・テジン 出演:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン 配給:ショウゲート ©2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & C-JES ENTERTAINMENT & CINEMA DAM DAM. All Rights Reserved.


『夜明けのすべて』

生きづらさを抱えた2人を温かく見守る周囲の人々

PMS(月経前症候群)を抱える藤沢さんは月に一度、どうしてもいらいらが抑えられなくなる。転職先の小さな町工場では理解ある同僚に恵まれていたが、新しく入ってきた山添くんの無気力さにある日、怒りを爆発させてしまう。実は山添くんはパニック障害で、就職した大企業で挫折を味わっていた。瀬尾まいこの同名小説を『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督が映画化。障害に悩みながらも無理をしないで自分らしく生きる若い2人と、彼らを温かく見守る職場の風景を、淡い色彩の中でしっとりと描く。山添くんの恋人が、藤沢さんに対して「彼の職場にあなたみたいな人がいてよかった」と話すなど、嫌味な人が1人も出てこないというのがすてきで、今のぎすぎすした世相への提言にもなっている気がした。2人を演じた松村北斗、上白石萌音の自然なたたずまいも印象的。(藤井克郎)

2024年2月9日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/119分)英題:All the Long Nights 監督・脚本:三宅唱 出演:松村北斗、上白石萌音、光石研 ほか 配給:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース ©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会


『フジヤマコットントン』

「みんなを幸せにする」仕事に励む障害者たち

『東京自転車節』の青柳拓監督が、地元の山梨県にある障害福祉サービス事業所「みらいファーム」の日常を1年にわたって見つめたドキュメンタリー。ここではさまざまな障害を抱える利用者が、農作物を育てたり、綿花を栽培して織物にしたり、それぞれやりたいことをして過ごしている。綿実から綿を取り出すいちろうさんに、色鮮やかな布を織るめぐさんにゆかさん、ゆかさんに好意を寄せる写真家のたつなりさんと、個性豊かな人たちが地のままの素顔をカメラにさらす。障害の程度や家族構成など各人の背景は全く示されないが、撮影隊との自然なコミュニケーションを見ているだけで、彼らの生活が充実していることが伝わってくる。「仕事って何?」と問いかけられて答えに窮した監督に対し、たつなりさんが「みんなを幸せにすること」と明快に答える様子に胸を打たれた。(藤井克郎)

2024年2月10日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/日本/95分) 監督・撮影:青柳拓 配給:ノンデライコ ©nondelaico/mizuguchiya film


『落下の解剖学』

夫の死の謎を法廷でのやりとりで探るサスペンス

フランスの若手、ジュスティーヌ・トリエ監督によるサスペンス調の法廷劇で、2023年のカンヌ国際映画祭では最高賞のパルムドールに輝いた。ドイツ人作家のサンドラは、フランス人の夫、サミュエルと視覚に障害のある息子のダニエルとともに人里離れた山荘で暮らしていた。ある日、ダニエルが犬の散歩から帰ると、山荘前の雪の上で父親が頭から血を流して倒れていることに気づく。そのとき、サンドラは山荘のベッドで眠っていた。サミュエルの死は事故死か自殺か、それとも他殺なのか。映画は夫婦間に何があったのかを、容疑者となったサンドラの裁判を中心に探っていく。回想シーンを用いず、法廷でのやりとりだけで明らかにしていく作劇術は鮮やかで、臨場感たっぷり。サンドラ役のドイツ人俳優、ザンドラ・ヒュラーの英語とフランス語による長ぜりふの迫力も見逃せない。(藤井克郎)

2024年2月23日(金祝)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/フランス/152分)原題:Anatomie d’une chute 監督・脚本:ジュスティーヌ・トリエ 出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール ほか 配給:ギャガ ©2023 L.F.P. – Les Films Pelleas / Les Films de Pierre / France 2 Cinema / Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

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