« 1月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
映画の核となる部分は「自分の運命と尊厳をコントロールしようと奮闘する」という考え―『ジャンプ、ダーリン』フィル・コンネル監督インタビュー解禁! »
世界の映画祭で話題沸騰! ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』―公開記念舞台挨拶に役所広司・柄本時生・中野有紗が登場! 監督からのX’masプレゼントも!
- 2023年12月28日更新
名匠ヴィム・ヴェンダースが長年リスペクトしてきた役所広司を主演に迎え、東京・渋谷の公共トイレ清掃員の日々を描いた映画『PERFECT DAYS』(2023年12月22日より全国公開中)の公開記念舞台挨拶が12月23日(土)にTOHO シネマズ シャンテ(東京・千代田区)にて行われ、主演の役所広司とメインキャストの柄本時生、中野有紗が登壇した。
ヴィム・ヴェンダースが、日本の公共トイレのなかに small sanctuaries of peace and dignity(平穏と高貴さをあわせもった、ささやかで神聖な場所)を見出し、清掃員の平山という男の日々の小さな揺らぎを丁寧に紡いだ本作。
第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したことを皮切りに、第50回テルライド映画祭、第48回トロント国際映画祭、第71回サンセバスチャン映画祭、第60回台北金馬映画祭と名だたる映画祭に招待されるなど、世界中の映画祭を席巻してきた。
さらに、米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表にも選出が決定。先日行われた第36回東京国際映画祭では、オープニング作品としてヴェンダース監督を筆頭に役所広司をはじめキャスト、スタッフ総勢11名がレッドカーペットを歩き、その豪華な布陣にファンからの声援を受けて大きな話題となった。
舞台挨拶が実施されたTOHOシネマズ シャンテは、1988年にヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』が30週にわたるロングラン上映で大ヒットを記録した記念すべき映画館。監督にとって特別な思いがある場所で、役所広司、柄本時生、中野有紗が、満員の観客からの温かい拍手に迎えられ登壇した。
数々の映画賞を受賞し、世界中の映画祭を席巻している本作に関して、主人公の平山を演じた役所は「この映画にいろんな所に連れて行ってもらい、旅している感じがします。この映画の生まれ故郷の日本で上映が始まったということで、まだまだ続く旅に連れて行ってくれる楽しみがある一方、映画が一人歩きして色んな国でお客さんを楽しませてくれるのかと思うと、少し寂しい気持ちもあります」と本作を我が子のように思う親心を吐露した。
平山の同僚・タカシを演じた柄本は、役所との共演について「父から『役所はうまいぞ〜』とよく言われていて。その意味を少しでも理解できればいいなと(お芝居を)見させていただいて、濃密な時間でした」と家族とのエピソードを披露。柄本の父とも交流の深い役所は「お父さんからよく育ててもらいましたね。ちゃんと先輩を立てるところも本当に立派だと思います」と会場の笑いを誘いつつ、「子どもの頃からよく知っているので、良い役者さんになったと思います」と柄本との共演を振り返った。
本作が映画初出演となる、平山の姪を演じた中野は、出演が決まった時の気持ちについて「自分の人生でこんなことが起こるとは思わなかったので、驚きや責任の大きさ、重圧も感じたりと、色んな感情が混じっていました。役所さんはとってもお優しい方で、私が初めての現場でも役に集中して落ち着いて演じられたのは、役所さんのおかげだと思っています」と明かした。役所は、「本当に新鮮な女優さんだったので、このリアリティが脅威というか。自分の俳優の垢がバレちゃうんじゃないかととドキドキするくらい純粋で、とても良い女優さんだと思いました」と18歳の新星の存在感に太鼓判を押した。
平山の役作りについて尋ねられると役所は「今まで見たことのないような美しい脚本があったので、それをできるだけ読み込んで、台本に書かれていない部分と感じるものを探していくという作業と、実際のTHE TOKYO TOILETの清掃員の方に清掃の仕方を2日間くらい教えてもらいました」と振り返った。さらに「今回はカメラマンと監督がドキュメンタリーのように撮っていたので、カメラを意識する余裕もないくらいで、こういう撮影の仕方もあるのだと良い経験になりました。とにかく自由にやってごらんと、待ち時間と本番の境目が無いくらい自然に始まるのがとても心地良かったです」とヴェンダース監督ならではの撮影方法を明かした。
中野はヴェンダース監督とのやりとりについて「私は何もかもが初めてで、すごく不安でしたが、監督はありのままの私を受け入れてくださったような気がして。 撮影が始まる前の顔合わせで、『ニコという役はこの物語にとって重要な役なんだよ』と言っていただいた時に、まだ何者でもない私にもそうやって相手を信頼して託してくださる、堂々とした、大樹のような温かさを持った人なんだと感じました」と本作で監督と築き上げた信頼関係を垣間見せた。
また、毎日決まったルーティーンをこなす本作の主人公・平山にちなみ、それぞれのルーティンに尋ねられると中野は「朝に長時間歩くこと。自分の好きな音楽を聴きながら、なんとなく歩くだけでも1日が明るくなる気がします」と、役所は「パンデミック以降はうがい手洗い、マスク。おかげでずっと風邪も引いてないし、健康です」と回答。一方で柄本は少し悩んだあと、「起きたらだいたい喫茶店に行きますね」と言うや否や、「親父と一緒じゃん!笑」と役所から鋭いツッコミが。「そうなんですよ……」と肯定しつつ、「あとは寝る前に好きな映画のラストシーンを観ます。ラストだけをみて思い出す作業をしているんです」と一風変わったルーティーンも明かした。
舞台挨拶の終盤にはヴィム・ヴェンダース監督から日本のキャストと観客に向けたコメント動画を上映。動画内で「この映画はアカデミー賞の日本代表に選んでもらえたんです。幸運を祈っていてください!」と呼びかける監督に対し役所は「すごいクリスマスプレゼントですね。監督は自分がドイツ人なので、(アカデミー賞日本代表に)選ばれることに障害があるのではと気にしてらっしゃって。最初に選ばれたのを聞いたときに、ものすごく喜んで、ホッとしてらっしゃいました。そういう心優しい監督です」と、期待がかかるアカデミー賞への思いを明かした。
締めの挨拶で中野は「この作品は、日常に溢れている小さな幸せを、繊細に美しく描いた作品だと思います。この作品を見てくださった皆様の日常に落ちているような気づきを見逃さないきっかけになる映画になったらと思っています」と語りかけ、柄本は「ヴィム・ヴェンダース監督が日本で撮って、こうして公開されることは本当にありがたいことだと思っています。ぜひ色んな方に見てもらいたいです」と本作の成り立ちを振り返った。役所は「この作品を気に入っていただけたら、長く愛していただける作品になるよう、街や電車の中で“『PERFECT DAYS』、面白かったよ”とささやいていただけると嬉しいです」と最後までチャーミングに観客に呼びかけ、和やかな雰囲気でイベントを締めくくった。
予告編&作品概要
【STORY】東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。
▼『PERFECT DAYS』
(2023年/日本/124分)
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.
※2023年12月22日(金)より全国公開中
- 2023年12月28日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2023/12/28/perfect-days/trackback/