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10月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2022年09月27日更新
10月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE U 10/1(土)公開『ボーダレス アイランド』 10/7(金)公開『愛する人に伝える言葉』 10/7(金)公開『声/姿なき犯罪者』 10/7(金)公開『千夜、一夜』 10/7(金)公開『42-50 火光』 10/8(土)公開『裸のムラ』 10/8(土)公開『夜明けまでバス停で』 10/14(金)公開『スペンサー ダイアナの決意』 10/22(土)公開『こころの通訳者たち What a Wonderful World』※10月1日(土)よりシネマ・チュプキ・タバタにて先行公開 10/29(土)公開『ノベンバー』 |
『ボーダレス アイランド』
台湾と沖縄、生者と死者がシンクロするファンタジー
台北で母と2人で暮らすロロは、古い本の間に挟まれた1枚の写真を見つける。海岸の風景が映った写真の裏には、日本人の父親の名前が書かれてあった。父は生まれたばかりのロロと母を捨てて、沖縄に帰ったと聞かされていた。ロロは日本語を勉強中の男友達、アーロンとともに沖縄に向かうが、沖縄では先祖が帰ってくるとされるお盆を迎えるところだった。父の故郷である架空の離島ではお盆の期間中、死んだ人が生きていたときの姿のまま家族に会いにくるという設定がユニーク。台湾と沖縄、逝った人と残された人、それぞれの心の交流が微妙にシンクロして、ファンタジー色たっぷりに描かれる。沖縄出身で、沖縄に根づいて映画づくりを続けている岸本司監督の異文化間の相互理解への思いがじんわりと伝わってきた。(藤井克郎)
2022年10月1日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/日本、台湾/101分)監督・脚本:岸本司 出演:李佳穎(リ・ジャーイン)、朝井大智、中村映里子 ほか 配給:ムービー・アクト・プロジェクト © 2021「ボーダレス アイランド」製作委員会
『愛する人に伝える言葉』
末期がん患者と母親を巡る人間賛歌
『太陽のめざめ』のエマニュエル・ベルコ監督が、同作でも起用したカトリーヌ・ドヌーヴとブノワ・マジメルの競演で、末期がん患者を巡る人間賛歌を謳い上げた。演劇教師のバンジャマンは、医師から持って1年の命と宣告される。本人以上にショックを隠せない母親のクリスタルは、バンジャマンのかつての恋人で海外に住むアンナに電話で知らせる。バンジャマンはアンナとの間に息子を設けたが、生まれる前にクリスタルによって別れさせられていた。医師役を演じたガブリエル・サラは、実際に末期がんを専門とする名医で、音楽やダンスなどを取り入れた緩和ケアの描写は自身が実践しているものだという。医師がバンジャマンに対し、死ぬ前に愛する人に伝えてほしいと語る5つの言葉に心が震えた。(藤井克郎)
2022年10月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/フランス/122分)原題:De son vivant 監督・脚本:エマニュエル・ベルコ 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメル、セシル・ド・フランス ほか 配給:ハーク/TMC/SDP © 2021 – LES FILMS DU KIOSQUE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – SCOPE PICTURES. PHOTOS: LAURENT CHAMPOUSSIN.
『声/姿なき犯罪者』
元刑事が巨大詐欺組織に挑む!
韓国でも深刻な社会問題となっている振り込め詐欺を描き、韓国オープニング成績1位の大ヒットを記録した。ピョン・ヨハン主演。元刑事の現場作業員ソジュンは、振り込め詐欺にあった妻と同僚のお金を取り戻すため、相手の巨大な犯罪組織に潜入。卑劣な手段で大金を稼ぐ巨悪に立ち向かっていく。双子のキム・ソン、キム・ゴク両監督がリアリティを追求して描く組織は、高度に管理され恐怖に支配されたブラック企業またはカルト集団のようで、「人の痛みを食いものにする商売」と言い放つ責任者の冷酷さに戦慄する。一方、ソジュンに協力する警察やハッカーが時にコメディリリーフ的な役割を担い、シリアスとコミカルなシーンの絶妙なバランスで観客を引き込む。身近に潜む犯罪への警鐘を鳴らしながら、アクションなど娯楽テイストもしっかり盛り込んだ、スリル満点のクライムムービーだ。(吉永くま)
2022年10 月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/韓国 /109 分)原題:보이스(ボイス) 監督:キム・ソン&キム・ゴク 出演:ピョン・ヨハン、キム・ムヨル 、キム・ヒウォン ほか 配給:ツイン © 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED
『千夜、一夜』
大切な人の帰りを待ちわびる女たちの空虚感
島の港町の水産加工場で働く登美子は、30年前に姿を消したままの夫の帰りをいまだに待っていた。漁師の春男から思いを寄せられているものの、気持ちが揺らぐことはない。そんな登美子の元へ、2年前に失踪した夫を探しているという奈美が訪ねてくる。同じように夫の帰りを待ちわびながら、その思いは微妙に異なる2人の女性の立ち位置を、田中裕子と尾野真千子という演技派女優の競演で厳しく表現。佐渡で撮影したどんよりと重苦しい風景が、テーマの重さをさらに際立たせる。ドキュメンタリー出身で、前作『家路』では原発事故によって故郷を失った家族を描いた久保田直監督が、『いつか読書する日』の脚本家、青木研次と再タッグ。残された人々の空虚感をじっくりと描き出し、胸にずしりと響く作品に仕上げた。(藤井克郎)
2022年10月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/126分)監督・編集:久保田直 出演:田中裕子、尾野真千子、安藤政信 ほか 配給:ビターズ・エンド © 2022映画『千夜、一夜』製作委員会
『42-50 火光(かぎろい)』
現代のリアルながらもどこかコミカルな夫婦模様
『白夜行』『神様のカルテ』などの深川栄洋監督が、原点に帰って自主映画として連作に取り組んだプロジェクトの「sideA」。42歳の女優、佳奈は最近、母親役の依頼が来るようになり、子どもを産んだことのない身としては限界を感じていた。50歳の夫は脚本家で、彼の母親と同居しているが、夫と相談して不妊治療を始めることにする。だが遠く長野に暮らす佳奈の父親が難病のALSを発症。母親とともに近くに移住することになり、夫婦の気苦労がまた一つ増えた。佳奈を深川監督の妻の宮澤美保が演じ、監督の分身とも言える夫役の桂憲一と、リアルながらもどこかコミカルな夫婦模様を繰り広げる。加賀まりこ、柄本明、白川和子といった自主映画にしては贅沢なベテラン実力派が脇を固め、今日的な家庭劇に深みをもたらしていた。プロジェクトの「sideB」として、同じ宮澤主演の『光復』が12月9日に公開される予定。(藤井克郎)
2022年10月7日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/94分)監督・脚本:深川栄洋 出演:宮澤美保、桂憲一、加賀まりこ、柄本明 ほか 配給:スタンダードフィルム © 2022 スタンダードフィルム
『裸のムラ』
北陸の「ムラ」社会から見えるもの
『はりぼて』の五百旗頭幸男監督が、北陸の保守王国石川県を舞台に、「ムラ」社会に偏在する家父長制(パターナリズム)に迫るドキュメンタリー。今回追うのは、失言や尊大ぶりが目立つ前知事と選挙で勝った新知事、偏見を持たれているムスリム家族、自由を求めるバンライファーたちだ。何の関連性もないように見える取材対象だが、交わる部分もある。薄っぺらく聞こえる政治家の言葉、ムスリムのインドネシア人妻の冷静かつ客観的な指摘、バンライファー家族の妻がこぼす不安や不満。取材を通じて、自治体の長、父、夫という役割の男性たちが求めるものと、周囲とのずれが露呈する。さらに、カメラは皮肉にも監督の不遜さまで映し出し、彼自身さえも裸にしてしまう。これにより、誰かの人生や生活の一部を切り取ったものをそのまま受け入れる危険性を自ら示すことになる。さらに、「ムラ」で起こる出来事や人々の意識には特殊性とともに普遍性が垣間見え、ドキュメンタリーならではの面白さを随所に感じた。(吉永くま)
2022年10月8日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/118分)監督:五百旗頭幸男 プロデューサー:米澤利彦 © 石川テレビ放送
『夜明けまでバス停で』
作り手の覚悟が伝わる現状の政治への揶揄
バス停で寝泊まりしていたホームレスの女性が殺害された事件をモチーフに、『TATTOO〈刺青〉あり』の高橋伴明監督が諧謔味たっぷりに社会派娯楽作を織り上げた。焼き鳥店で住み込みのアルバイトとして働く三知子は、コロナ禍の影響で職と住まいを失う。特技のアクセサリーの販売もうまくいかず、途方に暮れる三知子の目の前には、そこだけ明るく浮かび上がるバス停があった。緊急事態宣言のニュース映像などをそのまま用いて、コロナ禍であぶり出されたこの国のひずみを、大胆な映像表現で喝破する。三知子を演じた板谷由夏をはじめ、柄本明や柄本佑、根岸季衣ら芸達者な出演陣が発するせりふは現在の政治状況を皮肉たっぷりに揶揄していて、高橋監督を筆頭とした作り手の覚悟のほどが伝わってきた。(藤井克郎)
2022年10月8日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/91分)監督:高橋伴明 出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大 ほか 配給:渋谷プロダクション © 2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
『スペンサー ダイアナの決意』
冷え切った夫婦仲でも揺るぎないわが子への愛
チャールズ3世の即位でダイアナ元妃が改めて脚光を浴びているが、彼女の身に起こったあるクリスマスの出来事を、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』のチリ出身、パブロ・ラライン監督が個性あふれる映像詩に編み上げた。1991年12月24日、エリザベス女王の私邸、サンドリンガム・ハウスに王室一家が次々と集まる中、自ら車を運転するダイアナ妃は道に迷っていた。夫婦仲が冷え切っていた上、幼少期を過ごしたスペンサー家の邸宅のすぐ近くということも心を乱す一因だった。ロイヤルファミリーを題材としているものの、描かれているのは1人の女性の苦悩と絶望で、2人の子への揺るぎない愛が胸に迫る。イギリス皇太子妃として孤独と狂気を繊細に演じたアメリカ人俳優、クリステン・スチュワートの表現力にうなった。(藤井克郎)
2022年10月14日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2021年/イギリス・ドイツ/117分)原題:Spencer 監督:パブロ・ラライン 出演:クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシング、ティモシー・スポール ほか 配給:STAR CHANNEL MOVIES © 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED Pablo Larrain
『こころの通訳者たち What a Wonderful World』
舞台手話通訳者たちの挑戦を、見えない人たちに伝える
耳の聴こえない人にも演劇を楽しんでもらうため、役者と一緒に舞台に立ち、セリフとそのニュアンスまでを手話と表情、動きなどを駆使して通訳する舞台手話通訳者。そんな舞台手話通訳者たちの記録映画の映像を見えない人にも伝えるため、「音声ガイド」づくりに挑んだ人々を追ったドキュメンタリー。見えない人に「手話」を伝えるという難題に加え、舞台上の動きや臨場感までもガイドしていくという、一見途方もないこのプロジェクト。その中心となったのが、東京・田端のミニシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」平塚千穂子代表だ。障がいがある人、乳幼児連れの人、誰もが映画を楽しめる日本唯一のユニバーサルシアターの会議室で繰り返される、音声ガイドづくりのディスカッション。見える、見えない、 聴こえる、 聴こえない、それぞれの立場の人が何度も話し合い、気づきと理解を深めながら、伝えるべき核心へと迫っていく。「やってみることに価値がある」「理解し合うことを簡単に諦めない」、その思いと行動の先に結実する「こころの共有」。深い敬意と感動を覚えると同時に、そのマインドこそがあらゆる壁をなくす第一歩だと感じ入った。(富田 旻)
2022年10月22日(土)より全国順次公開 ※10月1日(土)よりシネマ・チュプキ・タバタにて先行公開 公式サイト 予告編動画
(2022年/日本/90分)監督:山田礼於 プロデューサー:平塚千穂子 出演:平塚千穂子、難波創太、石井健介、近藤尚子、彩木香里、白井崇陽、瀬戸口裕子、廣川麻子、河合依子、高田美香、水野里香、加藤真紀 製作・配給:Chupki © Chupki
『ノベンバー』
エストニアの神話に基づく幻想的な映像詩
北欧エストニアのライナー・サルネ監督が、同郷の作家、アンドルス・キビラークの小説を映画化。エストニアの神話に基づいた幻想譚を、モノクロームの個性的な映像表現で紡いだ。厳しい冬へと向かう11月、貧しい村人たちは使い魔「クラット」を使役し、隣人から物を盗み合って生きている。村に住む若い娘のリーナはハンスに恋心を抱いているが、ハンスはドイツ男爵の娘に一目ぼれしてしまう。リーナは村の年老いた魔女に相談するが……。動物の頭骨や鎌などを組み合わせたようなクラットの造形や、よみがえる死者たちの白っぽいたたずまい、森の中の沼の静謐さなど、奇妙で独創的な光景が美しいモノクロの画像で展開される。ストーリーなど一度ではよくわからない難解さながら、神秘性あふれるサルネ監督の映像魔術に酔いしれた。(藤井克郎)
2022年10月29日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2017年/ポーランド・オランダ・エストニア/115分)原題:November 監督・脚本:ライナー・サルネ 出演:レア・レスト、ヨルゲン・リイイク、ジェッテ・ルーナ・ヘルマーニス ほか 配給:クレプスキュール フィルム © Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017
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