「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション」-映画史に名を残す名匠の傑作がデジタルリマスター版で復活!

  • 2021年12月17日更新

カール・テオドア・ドライヤー特集「二十世紀の至宝」と謳われる孤高の映画作家カール・テオドア・ドライヤー監督の特集上映が、12月25日(土)より全国順次開催される。

上映作品は、“人間”ジャンヌ・ダルクを描いた無声映画の金字塔的作品『裁かるゝジャンヌ』(’28)、魔女狩りが横行した混沌の時代を映し出した衝撃作『怒りの日』(’43)、家族の葛藤と信仰の真髄を問い、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞した代表作『奇跡』(’54)、愛を探し求め続けた一人の女性の姿を完璧な様式美の映像でとらえた遺作にして集大成的作品『ゲアトルーズ』(’64)の4本。これらはすべてデジタルリマスター版での公開となり、『怒りの日』『奇跡』『ゲアトルーズ』については、この素材で初の上映となる。

ドライヤー監督は1889年デンマーク生まれ。その79年の生涯で長編14作品を発表した。ジャン=リュック・ゴダールやイングマールベルイマン、アルノー・デプレシャン、ギャスパ―・ノエなど、世代を超えた映画作家たちに多大な影響を与えたという。

「人間、とくに女性の心の本質をフィルムで見つめ続けた作家」といわれるが、今回の特集の主人公もすべて女性。戦いに身を投じ断罪される少女から男性を惑わせ不倫に走る妻まで、一人の女性に宿る脆さと強さ、喜びや悲しみ、内なる怒りなどを緻密にとらえ、繊細な心の動きを独特の距離感で描き出している。

映画史に名を残すドライヤー監督の珠玉の4作品の特集上映は、2021年12月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次開催。その世界観を堪能できるまたとない機会となるだろう。

【カール・テオドア・ドライヤー/Carl Theodor Dreyer】
1889年 2月3日、コペンハーゲンでスウェーデン人の母のもとに私生児として生まれる。経済的理由から養子に出され、学校卒業後は通信電話会社勤務を経てジャーナリストとして活動。手掛けた映画評が大手映画会社の目に留まったことから脚本執筆を開始。 1919年に『裁判長』で監督デビュー。デンマーク・ スウェーデン・ドイツ・ノルウェーと様々な国で制作を続け『あるじ』(25)のフランスでの大ヒットが『裁かるゝジャンヌ』制作へと繋がる。しばしば困難に見舞われながらも、『奇跡』がヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞。切望していた「ナザレのキリスト」映画化実現を目前 に控えた 1968年3月20日に息を引き取る。享年79。

 

上映作品

『裁かるゝジャンヌ

CTD特集『裁かるるジャンヌ』_main(1928年/フランス/モノクロ/97分 2Kレストア)
監督・脚本・編集:カール・テオドア・ドライヤー
伴奏音楽作曲・演奏・録音:カロル・モサコフスキ(オルガン奏者)/2016年
出演:ルネ・ファルコネッティ、アントナン・アルトー
©1928 Gaumont

<STORY>
ジャンヌ・ダルクは百年戦争で祖国オルレアンの地を解放に導くが、敵国イングランドで異端審問を受け司教からひどい尋問を受ける。心身ともに衰弱し一度は屈しそうになるが、神への信仰を貫き自ら火刑に処される道を選び処刑台へと向かっていく。実際の裁判の記録をもとに脚本化、“人間”ジャンヌ・ダルクを映し出した無声映画の金字塔的作品。

芯は強いが時に弱さも見せる少女ジャンヌ。彼女を演じるルネ・ファルコネッティが、細胞一つひとつにまで神経を行き渡らせた鬼気迫る演技で、見る者を圧倒する。裁判のシーンでは、極限状態に追い込まれたジャンヌのクローズアップと、彼女を陥れようとする司教たちの傲慢な姿が交互に映されるが、前衛的なカメラワークが生み出す臨場感により、それぞれの口元から聞こえるはずのない声が聞こえてくるようだ。火刑後の民衆の暴動の壮絶さに言葉を失う。


怒りの日

CTD特集『怒りの日』_main(1943年/デンマーク/モノクロ/94分 デジタルリマスター)
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー
出演:リスベト・ モーヴィン、トーキル・ローセ
【1974年ヴェネチア国際映画祭  審査員特別表彰】
© Danish Film Institute

<STORY>
中世ノルウェーの村で、牧師アプサロンと若き後妻アンネの夫婦は平穏に暮らしていた。しかし、前妻との一人息子マーチンが帰郷するとアンネと親密な関係に。そんな折アプサロンが急死し、アンネが魔女として死に至らしめたと告発を受けてしまう……。陰影を巧みに使ったモノクロームの映像美で、魔女狩りが横行する時代の複雑に絡み合う関係性 を映した衝撃作。

宗教が支配した息が詰まるような時代。魔女狩りを軸に、罪とは何か、愛とは何かを問いかける。無機質なはずのモノクロ映像は、魔女裁判のシーンでは恐怖を掻き立て、アンネとマーチンの逢瀬ではまるで色彩を放っているかのように美しい。従順だった若いアンネの顔に浮かぶのは、抑圧されこわばった表情、愛を知ったときの解放感に満ちた柔らかな表情、その後一転、開き直った表情。その驚くような変化に魅せられる。


『奇跡』

CTD特集『奇跡』_main(1954年/デンマーク/モノクロ/126分 2Kレストア)
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー
出演:ヘンリック・マルベア、エーミール・ハス・クリステンセン
© Danish Film Institute
【1955 年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、1956年ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞】

<STORY>
ユトランド半島に農場を営むボーオン一家が暮らしていた。長男の妻で妊婦であるインガーはお産が上手くいかず帰らぬ人に。家族が悲嘆に暮れる中、自らをキリストだと信じ精神的に不安定な次男ヨハンネスが失踪、しかし突如正気を取り戻しインガーの葬儀に現れる。カイ・ムンクの戯曲「御言葉」を原作に、演劇的目線で家族の葛藤と信仰の真髄を問う傑作。

信仰が生活の中心にある一家の温もりやしがらみ、喪失感、そして“奇跡”によってもたらされる喜びが綴られる会話劇。突き放しているようにも寄り添っているようにも感じられる立ち位置からとらえた、一見シンプルだが多面的で複雑な要素を含んだドラマに、作品の深みを感じた。


ゲアトルーズ

CTD特集『ゲアトルーズ』_main(1964年/デンマーク/モノクロ/118分 2Kレストア)
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー
出演:ニーナ・ペンス・ロゼ、ベンツ・ローテ
© Danish Film Institute
【1965 年ヴェネチア国際映画祭 国際映画批評家連盟賞 】


<STORY>
弁護士の妻であるゲアトルーズは夫との結婚生活に不満を抱き、若き作曲家エアランとも恋愛関係にある。ある日、彼女の元恋人であり著名な詩人ガブリエルが帰国し、祝賀会が催される。ゲアトルーズはエアランの伴奏で歌唱するが卒倒してしまう。愛を探し求め続けたゲアトルーズの姿を完璧な様式美の画面におさめ、会話劇に徹したドライヤーの遺作にして集大成的作品。

ほかの3作と異なり宗教的要素はほとんどなく、上流階級の女性ゲアトルーズを主人公に据えた俗世の物語。彼女が夫や昔の恋人と会話を交わす時、ほとんどその視線を合わせない。堅苦しい台詞や人工的な部屋の灯りが冷え冷えとした雰囲気を漂わせるが、それはまるでゲアトルーズの誇りの高さや心の壁を表しているかのようだ。幸せを求めながらも取り逃がしてしまう彼女の姿が、静かなざわめきを残す。

「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション』
予告編映像

 

開催情報

◆「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション」開催情報
日程・場所:2021年12月25日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
前売券販売情報:ポストカードセット付 4回券¥4,000(税込)

※上映の詳細は公式サイトでご確認ください

配給:ザジフィルムズ

※2021年12月25日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

文:吉永くま
編集:吉永くま、min

  • 2021年12月17日更新

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