12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2020年12月02日更新
12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 12/4(金)公開 『夏、至るころ』 12/4(金)公開 『ノッティングヒルの洋菓子店』 12/4(金)公開 『燃ゆる女の肖像』 12/11(金)公開 『ニューヨーク 親切なロシア料理店』 12/11(金)公開 『ハッピー・オールド・イヤー』 12/18(金)公開 『この世界に残されて』 12/18(金)公開 『声優夫婦の甘くない生活』 12/18(金)公開『また、あなたとブッククラブで』 12/25(金)公開 『香港画』 |
更新情報:12月8日に『また、あなたとブッククラブで』を追加掲載しました。
『夏、至るころ』
ギター少女の出現で親友関係に変化が
「地域」「食」「高校生」をキーワードにした「ぼくらのレシピ図鑑」シリーズの第2弾で、福岡県田川市を舞台に女優の池田エライザが初監督に挑んだ。高校3年生の翔と泰我は幼いころからの親友で、伝統の和太鼓に一緒に取り組んできた。だが夏祭りを前に、泰我が受験勉強に専念するため太鼓をやめると言い出す。何をしたいのかわからない翔は、祖父の使いで訪れたペットショップで、東京から来たというギター少女の都と出会い……。ちょっと年上の都の出現で、翔と泰我との関係にわずかな変化が兆す。そんな思春期特有のときめくような心模様が、夏の日差しとのどかな田川の風景、それと祖父の初恋話が絡み合って、淡い輝きでつづられる。池田監督の柔らかな感性が見事で、新たな才能の出現を感じた。(藤井克郎)
2020年12月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/105分) 原案・監督:池田エライザ 出演:倉悠貴、石内呂依、さいとうなり ほか 配給:キネマ旬報DD、映画24区 © 2020「夏、至るころ」製作委員会
『ノッティングヒルの洋菓子店』
意地っ張りの愛情も郷愁も温める小さな店
小さな洋菓子店で繰り広げられる、心温まる人間ドラマ。パティシエのサラと親友のイザベラは、2人の店をオープンすることに。しかし、開店直前にサラが事故死してしまう。夢を諦めるイザベラだが、サラの娘クラリッサが現れ、絶縁していたサラの母ミミも巻き込み開店に向けて動き出す。パティシエの採用に苦戦する3人の前に現れたのは、2つ星レストランのシェフでサラの昔の恋人であるマシューだった……。
舞台となるロンドンのノッティングヒルは、多国籍の人が集うグローバルな街。洗練された飲食店が立ち並ぶ激戦区で、これといった個性がない彼女たちの店「Love Sarah」は見向きもされない。しかし、いろんな国の人に故郷を懐かしんでもらえるよう、各国の菓子を作るというミミのアイデアが当たり、次第に客が増えていく。店を運営する4人は、それぞれ愛情や夢を胸に仕舞い込んだ意地っ張りだ。しかし、レシピ開拓で生まれたさまざまな交流とサラへの哀惜が、頑な心を解いていく。「愛情」「多様性」「人生の時間の有限性」を色とりどりのお菓子に込めて描いたのは、ノッティングヒル在住のドイツ人女性監督、エリザ・シュローダー。眺めるだけでも幸せなスイーツは、ロンドンで大人気のデリカフェ「オットレンギ」の全面協力によるもの。人生を楽しむコツは、素直で柔軟であること。それでも意地を張ってしまいそうなら——甘いケーキでも食べながら考えましょうか。(min)
2020年12月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/イギリス/98分)原題:Love Sarah 監督:エリザ・シュローダー 出演:セリア・イムリー、シャノン・ターベット、シェリー・コン、ルパート・ぺンリー=ジョーンズ ほか 配給:アルバトロス・フィルム © FEMME FILMS 2019
『燃ゆる女の肖像』
女性画家とモデルの心のひだに肉薄
『ぼくの名前はズッキーニ』の脚本でも知られるセリーヌ・シアマ監督が、18世紀のフランスを舞台に、女性画家と令嬢との緊張感あふれる関係を、自らのオリジナル脚本で映画化した。2019年のカンヌ国際映画祭では脚本賞を受賞している。ブルターニュの孤島にやってきた画家のマリアンヌは、伯爵夫人から娘のエロイーズの見合いのための肖像画を依頼される。だが結婚を拒否しているエロイーズには肖像画を描いていることは気づかれないように、という条件があった。ちらちらと観察しながら、次第にエロイーズの魅力に取りつかれていくマリアンヌ。そんな女性同士の微妙な心のひだに、シアマ監督はアップ画面を多用して迫っていく。西洋絵画を思わせる女優たちの美しい表情に圧倒された。(藤井克郎)
2020年12月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/フランス/122分)原題:Portrait de la jeune fille en feu 英題:PORTRAIT OF A LADY ON FIRE 監督・脚本:セリーヌ・シアマ 出演:ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイアミ ほか 配給:ギャガ © Lilies Films.
『ニューヨーク 親切なロシア料理店』
支え合って生きる人々の群像劇
夫の暴力から逃れ、なけなしの金で2人の子どもとニューヨークにやってきたクララ。潜り込んだ老舗ロシア料理店では、刑務所から出所したばかりのマークがマネージャーとして働いていた。一方、常連客の看護師、アリスは、生きるのが不器用で職に就けないジェフと出会う。『17歳の肖像』のデンマーク出身、ロネ・シェルフィグ監督が、冬のニューヨークを舞台に、さまざまな問題を抱えた人々が支え合って生きるさまを群像劇にした。一見ばらばらに見えるいくつものエピソードが、ロシア料理店を中心に徐々に集約されていく手法が鮮やかで見惚れる。いざというときに頼りになるのは、公的機関でもなければ教会でも病院でもなく、普通の民間レストランというウイットがすてきだ。(藤井克郎)
2020年12月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/デンマーク、カナダ、スウェーデン、フランス、ドイツ/115分)原題:The Kindness of Strangers 監督・脚本:ロネ・シェルフィグ 出演:ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ほか 配給:セテラ・インターナショナル © 2019 CREATIVE ALLIANCE LIVS/RTR 2016 ONTARIO INC. All rights reserved
『ハッピー・オールド・イヤー』
記憶の断捨離は難しい!
世界的に大ヒットした『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の製作スタジオと主演女優が贈る、師走のこの時期にふさわしい断捨離映画。第93回アカデミー賞 国際長編映画賞のタイ代表に選出された。留学先でミニマルなライフスタイルを学んだジーンは、モノだらけの実家のビルを自分の理想通りの事務所に改装することを思い立ち、断捨離を開始。しかし、その途中、モノにまつわる記憶があふれ出し、彼女の心は乱れていく……。この作品の魅力のひとつは、“モノも人間関係も片付けたいのに片付けられない”ジーンに多くの人が共感できるという点だろう。目につくものを一気にゴミ袋に放り込むも思い直して取り出すシーンなど、身に覚えがありすぎて苦笑してしまう。断捨離というテーマをここまで膨らませ、繊細で魅力的なエンターテインメントに仕上げた監督の手腕に脱帽する。また、モノに宿るほろ苦く切ない記憶の断捨離に手こずり、複雑な思いをその表情に滲ませる主演のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンの演技にも釘付けになった。(吉永くま)
2020年12月11日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/タイ/113分)原題:ฮาวทูทิ้ง ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ 英題:Happy Old Year 監督・脚本・プロデューサー:ナワポン・タムロンラタナリット 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートシンスパー ほか 配給:ザジフィルムズ © 2019 GDH 559 Co., Ltd.
『この世界に残されて』
悲しみを埋めるぶっきらぼうな優しさ
1948年のハンガリーを舞台に、ホロコーストから生き残ったユダヤ人男女の複雑な思いを、時代色を再現した味わい豊かな映像でしっとりと描き上げた。もうじき16歳ながらまだ初潮のない少女、クララは、叔母に付き添われて病院を訪れる。婦人科の医師、アルドから「お母さんも不順だった?」と過去形で聞かれたクララは、「まだ生きています」と憮然と答える。だがクララもアルドも、お互いに家族を失った身の上だった。社会主義体制の脅威が迫る中、年の離れた孤独な男女が心を寄せ合う。そんな緊迫感と哀愁を、若手のバルナバーシュ・トート監督は、薄暗い照明による深い陰影で表現する。喪失感や悲しみを埋めるのがぶっきらぼうな優しさという示唆に、心があったかくなった。(藤井克郎)
2020年12月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/ハンガリー/88分)原題:Akik maradtak 英題:Those Who Remained 監督:バルナバーシュ・トート 出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ ほか 配給:シンカ ©Inforg-M&M Film 2019
『声優夫婦の甘くない生活』
映画への愛が詰まった人情喜劇
1990年、崩壊直前のソ連から、ユダヤ系のヴィクトルとラヤの夫婦がイスラエルに移住する。2人はソ連では人気声優として、ハリウッド映画の吹き替えなどで活躍していた。だがロシア語しか話せない2人にとって、新天地の風は冷たく……。自身も少年時代に旧ソ連のベラルーシからイスラエルに移住したエフゲニー・ルーマン監督が、文化のギャップと夫婦の気持ちのずれを、ユーモアと世相をちりばめつつ、ちょっとおしゃれに織り上げた。映画の吹き替えがテーマだけに、映画や映画館への愛が詰まっていて、中でもフェデリコ・フェリーニ監督に対するオマージュに胸が熱くなる。いろんな騒動が起きるものの、最後は夫婦愛に収束されていくという人情喜劇の王道にも心地よさを味わった。(藤井克郎)
2020年12月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/イスラエル/88分) 英題:Golden Voices 監督:エフゲニー・ルーマン 出演:ウラジミール・フリードマン、マリア・ベルキン、エヴェリン・ハゴエル ほか 配給:ロングライド
『また、あなたとブッククラブで』
“黄昏期”を感じさせない圧倒的な華やかさとバイタリティ
ハリウッドの豪華女優4人が共演した大人の恋と友情を描くコメディ作品。キャリアもバックグラウンドも異なる長年の友人ダイアン、ビビアン、シャロン、キャロルは、定期的に開く読書会“ブッククラブ”で交流を続けている。今回のお題本は「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」。この官能小説に感化された彼女たちは恋に対して大胆になり、代わり映えしなかった日常にも変化が訪れる。撮影当時の女優たちの平均年齢は74歳。世間でいう“黄昏期”など全く感じさせない華やかさとバイタリティに圧倒される。ワインを飲みながら下ネタに爆笑し、それぞれの恋を応援し合う姿は若い女性たちのそれと何ら変わらない。作品にさらに華を添えるのは恋の相手の男性たちだ。とくにダイアンの新しい彼、パイロットのミッチェルを演じるアンディ・ガルシアは、もともとの色気に余裕と渋さと包容力が加わり、大人の男性の魅力を放つ。また、たった1冊の本が日々を輝かせるという設定にもわくわくする。仕事も恋も現役で、今を生きるパワフルな人生の先輩たちに刺激を受けたからか、ステイホームで縮こまった背中をピンと伸ばし、楽しいことが待つであろう未来に目を向けたくなった。(吉永くま)
2020年12月18日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/アメリカ/104分)原題:Book Club 監督・共同脚本・製作:ビル・ホルダーマン 出演:ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェン 配給:キノフィルムズ ©2018 BOOKCLUB FOR CATS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『香港画』
ごく普通の若者が遭遇する自由への弾圧
わずか28分のドキュメンタリーだが、2019年の大みそかまでの1か月半に香港で生じた出来事をコンパクトにまとめていて、劇場公開される意義は大きい。堀井威久麿監督は別件で香港滞在中、民主化を求めるデモ隊と遭遇。特に若者を被写体に、彼らが求めていること、彼らの身に起こっていることをカメラに収めた。道端で警察から催涙ガスを吹きかけられているのは、渋谷や原宿を歩いているのと変わらない年格好の女の子で、そんな彼女らが逃げまどい、頭から血を流している光景は衝撃的だ。日本だっていつこんな光景が繰り広げられてもおかしくないという監督の危機感が垣間見える。「自由は空気みたいなもの」と語る青年が、今は息ができなくなっていると訴える言葉は重い。(藤井克郎)
2020年12月25日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/28分)企画・監督・撮影:堀井威久麿 配給:ノンデライコ © Ikuma Horii
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