10月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2019年10月03日更新
10月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 10/4(金)公開『典座 -TENZO-』 10/5(土)公開 『向こうの家』 10/11(金)公開『第三夫人と髪飾り』 10/11(金)公開 『ブルーアワーにぶっ飛ばす』 10/11(金)公開 『トスカーナの幸せレシピ』 10/18(金)公開 『解放区』 |
『典座 -TENZO-』
難解な教えを娯楽作品に昇華
『バンコクナイツ』などを手がけた映像制作集団、空族が、全国曹洞宗青年会の依頼に応じ、現代における宗教の意義に迫る革新的な作品を織り上げた。山梨県にある耕雲院の僧侶、河口智賢は、住職の父を補佐しつつ、いのちの電話相談などの活動で多忙な毎日を送っていた。一方、東日本大震災で寺を流された福島県の倉島隆行は、仮設住宅に住みながら本堂再建の道を模索する。曹洞宗の重要な役職である炊事係「典座」を基軸に、食を支える「甘・酸・辛・塩・苦・淡」の6つの柱を立て、その意味に沿ったエピソードを映像化。ドキュメンタリーとは異なる斬新な手法で、難解な教えを俗っぽくかみ砕く。見事に娯楽作品として昇華されていることに、富田克也監督の力量を感じた。(藤井克郎)
2019年10月4日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/62分)監督:富田克也 出演:河口智賢、近藤真弘、倉島隆行、青山俊董ほか 配給:空族 ©空族
『向こうの家』
無垢な透明感と、趣ある佇まい。そして少し毒のあるユーモア
「ええじゃないかとよはし映画祭2019」グランプリ受賞、「第19回TAMA NEW WAVE」ベスト男優賞受賞ほか、各地の国内映画祭で注目を集めた新鋭・西川達郎監督の長編デビュー作。父親の愛人との交流を通して、大人の事情を垣間見る17歳の少年の成長を、海辺の街の情緒溢れる風景のなかに描き出す。一見仲睦まじくも、実は壊れかけている家族の姿を、少し毒のあるユーモアと長閑(のどか)な描写で捉えるセンスが、作り手の非凡な才能を感じさせる作品だ。例えば、パンケーキをフォークで無造作に食べる冒頭の朝食シーン。そして、思春期の息子を愛人の家に送り出す父親と、理想の妻・母像を盲信しながら逸脱する母親。平凡で微笑ましい家族の日常を切り取ったように見せつつも、小さな違和感と滑稽さが観客の心に澱のように積もる。それでいて、父の愛人とも無邪気に接する主人公・萩の無垢さと、香り立つような魅力を讃えた父の愛人・瞳子の不思議な関係には、独特の透明感と温かさが漂う。望月歩と大谷麻衣の演技は、この関係性をより魅力的なものにしており、二人を取り巻く役者陣の存在感からも目が離せない。西川達郎監督の今後の作品にも、大いに期待したい。(min)
2019年10月5日(土)より公開 公式サイト
(2018年/日本/82分)監督・原案:西川達郎 出演:望月歩、大谷麻衣、生津徹、でんでん、南久松真奈、円井わん、植田まひる、小日向星一
『第三夫人と髪飾り』
大胆な映像美に陶酔
ベトナム出身の新鋭、アッシュ・メイフェア監督が5年の歳月をかけて完成させた長編デビュー作。昨年のトロント国際映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞するなど、世界中で高い評価を受けている。19世紀の北ベトナム。渓谷に囲まれた絹の産地に暮らす大富豪のもとに、14歳のメイが第三夫人として嫁いでくる。世継ぎの男児を産むことが最大の務めと知ったメイは、やがて第一子を身ごもるが……。封建的な旧家での禁断の恋模様を、若い女性のメイフェア監督は極上の美しい映像と社会性を伴った語り口で表現。1対1.5というちょっと狭い画面サイズも窮屈なベトナム社会を示唆したか。エキゾチシズムとエロチシズムを備えた大胆な映像美に酔いしれた。(藤井克郎)
2019年10月11日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/ベトナム/93分)原題:Vợ Ba 英題:The Third Wife 監督・脚本:アッシュ・メイフェア 出演:トラン・ヌー・イエン・ケー、マイ・トゥー・フオン、グエン・フオン・チャー・ミーほか 配給:クレストインターナショナル ©copyright Mayfair Pictures.
『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
日韓の実力派女優が共演する訳ありバディ・ムービー!?
夏帆とシム・ウンギョンという日韓実力派女優が共演。30歳の自称売れっ子CMディレクター砂田は毎日毒づいてばかり。ある日、幼い頃から困った時に現れる天真爛漫な秘密の友だち清浦と大嫌いな故郷に帰ることに。田舎の家族には砂田の理論武装は通用しない。やがて全てを剥がされたとき本当の自分が顔を出す。そして夕暮れ時の“ブルーアワー”、清浦との別れが訪れようとしていた……。砂田は時に攻撃的、時に投げやりな態度で自分を防御する。一方清浦は自然体で自由。砂田のように殻を纏っているという自覚がない人間は厄介だ。かくいう私もスクリーンの中の清浦と過ごすうちに、あるはずのない殻が少しずつ剥がれていく感覚を味わった。(吉永くま)
2019年10月11日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2019 年/日本/92 分)監督・脚本:箱田優子 出演:夏帆 シム・ウンギョン 南果歩 配給:ビターズ・エンド ©2019 「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
『トスカーナの幸せレシピ』
元一流シェフとアスペルガーの青年が育む友情と絆
年齢も経験も異なる二人の男性が、生きづらさを感じながらも料理を通じて友情を育むハートフルストーリー。不祥事を起こした元一流シェフのアルトゥーロは、社会奉仕先の施設で絶対味覚を持つアスペルガー症候群の青年グイドに出会う。ある日グイドが料理コンテストに応募したことから、2人は車でトスカーナへ出発。珍道中を繰り広げながら絆を深めていく。だがアルトゥーロに大仕事が舞い込み、グイドの元を離れることになる。怒りっぽい中年男とこだわりが強く対人関係に困難を抱える青年。そんな2人の関係がイタリアらしい明るいタッチで描かれる。外見からはわかりにくいアスペルガーの特性を理解する一助になる作品ともいえるだろう。(吉永くま)
2019年10月11日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/イタリア/92 分)原題:Quanto Basta 監督・脚本:フランチェスコ・ファラスキ 出演:ヴィニーチョ・マルキオーニ、ルイジ・フェデーレ、ヴァレリア・ソラリーノ 配給:ハーク ©2018 VERDEORO NOTORIOUS PICTURES TC FILMES GULLANE ENTRETENIMENTO
『解放区』
映画作りの本質に迫る衝撃作
ドキュメンタリーやミュージックビデオなどを手がけてきた太田信吾監督が、自らの主演で初の長編フィクションに挑んだ衝撃作。ドキュメンタリー作家を夢見て映像制作会社で働くスヤマは、先輩ディレクターの撮影手法に反発し、一人で番組を作ることを決意する。かつて出会ったはぐれ者の少年を取材しようと大阪に向かうが、少年の行方を探すうち、さまざまなトラブルに巻き込まれる。スヤマが寝泊まりする西成のドヤ街をはじめ、ディープな大阪の街や人々が登場。どこまでが本物でどこからが創作か判然としないリアルな描写で、映画作りの本質と欺瞞をあぶり出す。決して心地よくはないが、刮目すべき作品であることには間違いない。(藤井克郎)
2019年10月18日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2014年/日本/114分)英題:Fragile 監督・脚本・編集:太田信吾 出演:太田信吾、本山大、山口遥 ほか 配給:スペースシャワーネットワーク ©2019「解放区」上映委員会
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