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『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』〜流れるような筆絵が鼓動する! ダイレクトに心へ響く驚愕のアニメーション〜
- 2018年08月17日更新
グリム童話を物語のベースに「現代に通じるヒロイン」の生き様を描く長編アニメーション。悪魔と取引する父に手を切られてしまった少女が、自分の居場所を求めて旅に出る物語。弾むように動く簡略化された筆絵の線に、風景や色など、いくつものレイヤーを重ねた美しい絵画的な世界が、刺激的な物語と共にスクリーンに広がる。東京アニメアワードフェスティバル・長編アニメーショングランプリ受賞、アヌシー国際アニメーション映画祭・審査員賞&最優秀フランス作品賞のW受賞。2018年8月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
悪魔に求められ、手を切り落とされた少女が切り開く運命とは?
【あらすじ】貧しい夫婦と一人娘が暮らす水車小屋。水も枯れ、食べるものにも困っているところに悪魔がやってきて「水車小屋の裏にあるものをくれたら、引き換えに黄金をやろう」と父親に言う。水車小屋の裏にあるものがリンゴの木だと思い込んだ父親は、悪魔と取引をしてしまう。しかし真に悪魔の欲したものとは、リンゴの木に登っていた娘だった。やがて川に黄金が流れ、富は与えられた。富を得て満足している父親に「悪魔に娘を渡すべきでない」と抵抗した母親は、野犬に襲われ死んでしまう。悪魔は娘を渡すよう迫りながらも、なぜか娘に近寄れない。その理由を「清い手を持っているからだ」と言う悪魔の言葉に従い、父親は斧で娘の手を切ってしまう。しかしそれでも悪魔は娘を連れ去れない。一方「守ってくれると思ったのに」と失意にくれた”手をなくした娘”は、黄金にあふれた家を離れ、新な人生を求めて自らの足で旅に出る。しかし悪魔は少女をあきらめたわけではなかった……。
クッションなしで、ダイレクトに響いてくるアニメーション
冒頭から、デッサンそのままのような大きくうねる太い線を一目観た瞬間、戸惑いを覚える方も多いかもしれない。水墨画のように省略化されてはいるが、明確に「もの」や「人」の形を表す、力強くなめらかな筆絵の線。本作では、この線がアニメーションとして弾むように動き回る。太く細く流れるような線が、ある時は消えまた現れ、大胆な彩色がスクリーンいっぱいに散らばる。やがてその中に、心臓が鼓動するような命あるものが見えてくる。スクリーンを見つめているうちに「アート作品を観ている」のではなく、動く線と散りばめられた色が、何のクッションもなくダイレクトに心に描きつけられていく、そんな体験へと変化していくだろう。
絵コンテなし、アシスタントなし。即興的に作り進めた、斬新なアニメーション
未完成のデッサンのような、この驚くべき手法で表現されているアニメーションは、すべてセバスチャン・ローデンバック監督1人で1年間をかけて作画したもの。流れるような筆絵を選んだのは「もっとも早く描ける線だから」。この力強く印象深い作品が、計画的に作り上げられたわけではなく、偶然が重なった中、苦肉の策として誕生したというから驚きだ。いきさつの詳細は、関連記事「大人のためのグリム童話 手をなくした少女』先行上映+トークイベント」で、ローデンバック監督が語っている内容をお読みいただければと思う。ちなみに、ローデンバック監督自身は、この手法を「クリプトキノグラフィー」と名付けたそうだ(「クリプトグラフィー」=暗号、「キノ」=映画)。
本作は、独特な手法のアニメーションとしてだけでなく、物語そのものも素晴らしくて心を奪われる。短篇であるグリム童話の原作から大きく逸脱・展開し、ストーリーのうえでも観ごたえのある長編アニメーションとして仕上がった。グリム童話の古典的な設定を借りながらも、ヒロインの少女が選択する行動、そして登場する人々の性質などは、現代を生きる私たちの日常に通じるさまざまな要素が取り込まれている。”人生に必要なもの”は何か? ということを提示しながら、生きる勇気を与える、心に響く物語。この刺激的な体験を、ぜひ劇場でお楽しみください。
>>『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』予告編映像<<
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▼『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』作品・公開情報
(2016年/フランス/80分/DCP/G)
原題:a Jeune fille sans mains 英題: The Girl without Hands
(※「東京アニメアワード2017」での上映時タイトル『手を失くした少女』)
監督:セバスチャン・ローデンバック
声の出演:アナイス・ドゥムースティエ(『彼は秘密の女ともだち』)、ジェレミー・エルカイム(『わたしたちの宣戦布告』)ほか
配給:ニューディアー 配給協力:チャイルド・フィルム
※2018年8月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
文:市川はるひ
- 2018年08月17日更新
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