ミニシアターに行こう。

写真家、作曲家、映画プロデューサーなど多彩な顔を持つ川端潤監督による、ミャンマー伝統音楽のドキュメンタリー映画、第2弾。撮影は前作に引き続き、ミュージシャンの万琳はるえが務める。

前作の『Beauty of Tradition－ミャンマー民族音楽への旅－』（2015）では、18世紀より受け継がれてきた正統派の伝統音楽を録音するとともに、急速な民主化と経済改革が進むミャンマー最大の都市・ヤンゴンの風景をカメラに記録した。今作では、ヤンゴンから約530kmの北東部に位置する古都マンダレーを舞台に、10代の少女・ピューが中心となるサインワイン楽団の演奏活動や録音風景に迫りながら、マンダレーの人々や街の香りまでもスクリーンに映し出す。

ミャンマーの民俗楽器“サインワイン”と“トラッド・アイドル”

前作を未見の方のために“サインワイン”という耳慣れない楽器について、少しだけ説明しておこう。サインワインは、美しい装飾が施されたサークル状の木枠の内側に、21個（21個でない場合もある）の調律太鼓を吊り下げたミャンマー特有の伝統楽器だ。演奏者はサークルの中央に座り、両手で太鼓を叩いて演奏をする。美しくも不思議な響きを奏でるサインワイン。その外枠の生産工房があるのが、本作の舞台となるミャンマー第2の都市・マンダレーであり、川端監督たちはこの土地でピューのサインワイン楽団と出会う。

ピューは撮影開始当時16歳ながら、親の代から続く楽団の中心人物として歌とサインワインの演奏を担当していた。主な興行先は、寄進祭や土地の祭りなど。彼らは年間200日ほど演奏で各地を回る「旅まわりの一座」であり、お祭りでは司会を務めるコメディアンたちと共にテント小屋（紙で出来ているらしい）に設営されたステージを盛り上げる。夕方から深夜まで繰り広げられるステージでは、伝統的な曲だけでなく現代楽器を取り入れたポップスやロックなども演奏することもある。

愛くるしいルックスのピューは、伝統音楽と現代音楽のどちらも奏でる“トラッド・アイドル”として一座を率いる。民族衣装で正装したかと思えば、革ジャンでハードに決めて歌うこともある。テント小屋の外観は無数の電球でド派手に彩られ、客席では近所から集まった老若男女が気楽な様子で演奏やコメディショーを楽しむ。伝統と現代の雑多なミクスチャー。素朴でありながらカオティック。ちょっぴり場末感が漂う風景だが、どこか懐かしく微笑ましい。

未知なる音楽と、表情豊かな街の風景で心の旅を

前作では正当派の伝統音楽の歴史と現状を、そして今作では民族音楽と歌謡曲をごった煮感覚で楽しむ人々のリアルな姿を垣間みることができた。さらに、お祭りの風景やミャンマーのコメディアンたちのちょっぴり寒いネタを観ることができたのも楽しかった（笑）。水かけ祭りではしゃぐ人々や停電シーンなど、前作同様に街と人々を表情豊かに映し出しているのも、大きなみどころだ。未知の文化に出合い、心をリフレッシュするのが“旅”の醍醐味の一つだと思うが、本作では映画館の客席にいながらにしてその感覚を味わうことができる。音楽好きはもちろん、好奇心にあふれた大人たちにオススメしたい一作だ。

 

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▼『MANDALAY STAR -ミャンマー民族音楽への旅-』作品・公開情報
（2018年／日本／92分）
監督・音楽・プロデューサー：川端潤
取材・撮影：万琳はるえ
出演：Pone Nyet Phyu、Ko Aung Myo、Daw Win Tin、Nanda Aung Myo ほか
翻訳：井上さゆり、U C.THANG ZA TUAN（リャンの父）、Daw Ohnmar Myat、小林のりこ
字幕：皆川秀
製作：株式会社プロジェクトラム、エアプレーンレーベル
配給・宣伝：株式会社プロジェクトラム、エアプレーンレーベル
© 株式会社プロジェクトラム

●『MANDALAY STAR -ミャンマー民族音楽への旅-』公式サイト

※2018年6月30日（土）〜7月13日（金）ポレポレ東中野にてレイトショー上映
（トークイベント開催日あり。詳細は公式サイトよりご確認ください）

文：min

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