『寝てるときだけ、あいしてる。』― トイカメラの映像に浮かび上がるいびつな愛の陰影

  • 2018年03月31日更新

『寝てるときだけ、あいしてる。』
些細なけんかを繰り返しながら、うだつが上がらぬ日々を送る若い夫婦。そこへ兄を溺愛する夫の妹が転がり込み、奇妙な三角関係が始まる……。全編トイカメラの「デジタルハリネズミ」で撮影された映像に浮かび上がるのは、歪んだ生活と拭えぬ孤独。目を背けたくなる日常のリアルとユーモアが同居する本作で監督・脚本・撮影・編集を務めたのは、2005年監督作品『おわりはおわり』で「第27回ぴあフィルムフェスティバル」の審査員特別賞を受賞し、サニーデイ・サービスのMVなども手掛ける川原康臣。前田多美、関口崇則、笠島智ら個性派の俳優たちが、うざくて滑稽で、切なく愛おしい人々を演じる。


閉ざされた夫婦の世界を踏み荒らす、夫の妹

『寝てるときだけ、あいしてる。』若葉朝夫(関口崇則)とのぞみ(前田多美)は、東京のとある町で暮らす夫婦。心を病んでいるのぞみは働きに出ることもなく、朝夫と些細なけんかを繰り返しながら夫婦だけの閉ざされた世界で日々を過ごしていた。そんなある日、朝夫の妹の凛(笠島智)が突然訪ねてくる。凛は実の兄である朝夫を愛していると言い、その明け透けな物言いと態度で夫婦の仲を引き裂こうと働きかける。思いがけず始まった3人の共同生活のなか、のぞみの心身は次第に追い込まれていく……。

想像を裏切る闇鍋のような愛の映画

『寝てるときだけ、あいしてる。』川原康臣監督の名前を意識的に覚えたのは、遅まきながらサニーデイ・サービス「セツナ」のMV(『刹那の粘』/2016年)だった。スカートをたくし上げた女性が、太ももに付いた米粒をおもむろに食べるシーンから始まる風変わりなこの作品は、唯一無二の世界観と不思議な中毒性を持っていて、今でもときどき無性に観たくなる。その川原監督による長編ラブストーリー、そしてトイカメラというポップな響きに心惹かれて本作を観たのだが、自分勝手に想像していた作品とはこれまた違っていて、序盤は戸惑いを隠せなかった。

『寝てるときだけ、あいしてる。』ノスタルジックでどこか幻想的な風合いを持つ「デジタルハリネズミ」の映像には、愛を隠れ蓑にして現実生活から逃げる男女の姿や、第三者から見れば滑稽この上ないカップルの営みが映し出される。覗き見しているような気恥ずかしさと、身につまされるような居心地の悪さに胸をザワつかせていると、そこに登場する朝夫の妹・凛の図々しさに、今度は苛立ちが止まらなくなる。しかし、それはまんまと監督の策にハマったということだろう。気付けば引き込まれ、登場人物たちの弱さや孤独が切なさに変わってくる。本作は、まるで闇鍋のようだ。はじめは鍋の上澄みに訝しげに箸を付けていたが、ついには何が入っているのかが気になって、鍋底まで箸を突っ込んでしまう。そうして、食べ尽くした後はかすかな余韻が体を温める。貴重なスクリーンでの上映機会に、ぜひこの感覚を味わってみてはいかがだろうか。

作品・公開情報

▼『寝てるときだけ、あいしてる。』
『寝てるときだけ、あいしてる。』(2014年/日本/110分/DCP)
英題:Nozomi and Tomo
監督・脚本・撮影・編集:川原康臣
出演:前田多美、関口崇則、笠島智
衣裳:藪野麻矢
音楽:寝子
助監督:堀切基和、安川有果
撮影照明助手:米山舞
制作応援:今村悠輔、横山真哉
脚本協力:上原三由樹
宣伝デザイン:岡太地
グッズ・イラスト:にどみ
製作:MayFly
©MayFly

『寝てるときだけ、あいしてる。』公式サイト

池袋シネマ・ロサにて、2018年3月31日(土)〜 4月6日(金)モーニングショー
 、4月7日(土)〜 4月13日(金)レイトショー上映

文:min

関連記事:
【独占レポート】『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント― 曽我部恵一さん×櫻井香純さん×川原康臣監督

  • 2018年03月31日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2018/03/31/36124/trackback/