« 『ローズの秘密の頁(ページ)』― 秘めた愛を聖書に綴り、逆境を生き抜いた女性の軌跡と奇跡
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』-悲劇は仕組まれた罠か、人智を超えた存在によるものか? 奇才監督が放つ不条理サスペンス »
『ゆれる人魚』〜ポーランド発、東欧の不思議な音楽と、美少女人魚のホラー・ファンタジー〜
- 2018年02月10日更新
人魚の姉妹をヒロインに、東欧の音楽シーンを盛り込んだミュージカル要素満載の、ホラー・ファンタジー。ポーランドの新鋭女性監督による本作は、サンダンス映画祭2016年ワールドシネマコンペティションドラマ部門審査員特別賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。肉食人魚の恋と歌。美しくもグロテスクなビジュアルと、東欧文化を色濃く映した不思議な楽曲が、唯一無二の魅力を放つ!
2018年2月10日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
ナイトクラブのスターになった人魚の姉妹。姉は恋をし、妹は男を捕食する
【あらすじ】共産主義政権下であった1980年代らしきポーランド・ワルシャワ。陸に上がった美人姉妹の人魚、シルバー(マルタ・マズレク)と、ゴールデン(ミハリーナ・オルシャンスカ)は、ライヴやストリップレビューが行われるナイトクラブにスカウトされ、シンガーのクリシア(キンガ・プレイス )らとステージに立つうちに、華々しいスターとなる。やがて姉・シルバーは、ブロンドの浮気なベーシスト・ミーテク(ヤーコブ・ジェルシャル)に恋心を抱くようになる。一方、狡猾な妹ゴールデンは、人間に恋したシルバーの行く末を案じながら、男を次々捕食し始め……。
新旧の東欧文化をたっぷり詰め込んだ、不思議な楽曲のミュージカル
本作は、ミュージカル映画でもあり、数々の楽曲が登場する。カバー曲はさておき、オリジナル曲のほとんどが、キャッチーとは言い難い、不思議な旋律だ。ギター抜きでシンセサイザーを駆使し、ときに不協和音が響く。ポーランドにおいては「現代的でありながら郷愁を感じさせるサウンド」なのだという。手掛けたのは、ポーランドのインディー・ミュージックシーンに君臨する、ヴロンスカ姉妹(ズザンナ・ヴロンスカ&バルバラ・ヴロンスカ)。まるで、恋と捕食の間でゆれる、不穏で不安定な”人魚”という存在にシンクロするかのようだ。こうした楽曲の多くを、人魚の姉妹を演じる女優が歌いこなしているのも、聴きどころ。また、劇中に登場するナイトクラブだが、これは1980年代、共産主義政権下のポーランドで人気だった東欧圏独特の文化”ダンシング・レストラン”という存在をモデルにしているという。このような東欧の文化を色濃く反映しているのも、本作品の大きな特徴だ。
ミュージカル、人魚、ホラー、東欧文化。あらゆる要素が絡むハイブリッドな作品だが
もともとの作品企画は、楽曲を提供しているヴロンスカ姉妹をモデルにした、伝記的な心理ドラマだったという。紆余曲折の末、企画が再スタートをきった際に、主人公を人魚の姉妹にしようという案が生まれた。ナイトクラブが舞台で、人魚ならば美しい声を持っているだろう、ということからミュージカル映画へと発展していったようだ。さらに、本作に登場する人魚たちは、アンデルセン童話の純真な恋する人魚姫でもあるが、人を破滅させる邪悪な伝説のセイレーンでもある。だから肉を食らう人魚の物語として、ダークファンタジーへ、ホラーへと発展した。こうして本作は、あらゆる要素が絡み合った、超ハイブリッドな作品へと進化をとげた。スペシャルな楽曲、人魚の肉体の美しさとグロテスクさ、ショーアップされたビジュアル、旧東欧文化への郷愁……。しかしその実、魅力的な人物や心理的葛藤にあふれたストーリー展開でも、十分に楽しませてくれる。本作はどの方向から観ても、観ごたえのある芯の強い作品だといえるだろう。ぜひ映画館でに足を運んで、美しい悪夢に酔いしれていただきたいと思う。
▼『ゆれる人魚』作品・公開情報
(2015/ポーランド/ポーランド語/カラー/ DCP/92分)
英題:『HE LURE』
監督:アグニェシュカ・スモチンスカ
出演:キンガ・プレイス、ミハリーナ・オルシャンスカ、マルタ・マズレク、ヤーコブ・ジェルシャル、アンジェイ・コノプカ ほか
配給:コピアポア・フィルム
提供:ハピネット
●『ゆれる人魚』公式サイト
※2018年2月10日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
文:市川はるひ
- 2018年02月10日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2018/02/10/35959/trackback/