『ヒトラーの忘れもの』〜過酷な任務を背負わされた少年兵たち。恐怖と感動のコントラスト〜

  • 2016年12月17日更新

第二次大戦直後、異国の地で地雷撤去を命じられたのは、置き去りにされた少年兵たちだった。ショッキングな史実に基づくヒューマンドラマ。緊張の中で上がる息遣いや虫の羽音の中に満ちていく、地雷爆破の恐怖。そんな緊迫感と対比するような、美しい風景、心を打つ人間ドラマのバランスが素晴らしい。2017年アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表となった、涙なくして観られない感動作。
12月17日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF

飢えと暴力に耐えながら、危険に身をさらされる少年たち
【あらすじ】1945年5月デンマークは、ナチスドイツの占領から解放された。しかし、連合軍上陸を妨げるため、ドイツ軍によって海岸線に埋められた地雷は200万個も残されていた。そこで捕虜となったドイツ軍少年兵11人に、この地雷撤去が命じられる。「これが終われば帰れる」故郷を夢見ながら、飢えや暴力にひたすら耐え、少年たちは恐怖の任務を全うしようとする。しかしこの理不尽な環境の中、地雷は炸裂し、一人また一人と少年たちは命を落としていく……。この任務の監督役となったデンマーク人・ラスムスン軍曹(ローラン・ムラ)は、祖国を踏みにじったドイツ人を強く憎んでいたが、あまりの惨状を目の当たりにし、心を痛め、少年たちに心を開き始める。彼らが任務を終え、故郷に帰ることはいつしかラスムスン軍曹の望みにもなっていくのだが……。

残酷さと美しさの見事なコントラスト
とにかく凄まじい緊張感だ。異国の地で冷たい視線にさらされ、作品は冒頭から戦後の憎しみに満ちている。少年たちは威圧的なデンマークの軍人に暴力で管理され、常に地雷爆破の恐怖と隣り合わせにいることになるのだが、その臨場感で観客は手に汗を握りっぱなしになってしまう。少年の震える吐息と、虫の羽音がクローズアップされ、静けさの中、地雷爆破の恐怖を増強させる。あどけなさや青春の輝きを秘めた少年たちの命は、なんの予告もなく(いわゆる死亡フラグが立つ間もなく)、突如奪われ、愕然とさせられる。そんな残酷さと対比するような、地雷が埋まる海岸の美しさ、そして少年たちの投げやりにならない健気さが、コントラストとなって観る者の胸を打つだろう。

ドキュメンタリーも手がけてきた監督の緻密な眼差し
戦争の犠牲となるのは、いつの時代も子どもなのだろうか。戦争が終わっても、地雷や不発弾で奪われる健康な肉体と命。少年たちにも容赦無く向けられる、占領国への憎しみ。本作ではそんな戦争の傷跡が生々しく描かれている。ナチス・ドイツを悪とする映画作品は多いが、本作はドイツ国の責任を負わされた少年たちの物語だ。しかし「だれかを非難したり、責任を追求しているわけではない」とマーチン・サントフリート監督も述べている。戦争が人々に残す醜悪さや爪あと、そして奪い去るものはどうしたって計り知れないほど大きなものなのだ。ショッキングなシーンもあるものの、グロテスクにも感傷にも走ることなく、作品は一貫して緻密に計算されている。多くの観客は、最初から最後まで、駆け抜けるように観入ってしまうだろう。恐怖、憎しみ、悲しみ、夢、愛情を追体験した果てに、あなたの心に残るものは何だろうか。

▼『ヒトラーの忘れもの』作品・公開情報
(2015年/デンマーク・ドイツ/カラー/ドイツ語・デンマーク語・英語/101分/シネマスコープ/5.1ch)
原題:LAND OF MINE
脚本・監督:マーチン・サントフリート
出演: ローラン・ムラ、ミゲル・ボー・フルスゴー、ルイス・ホフマン、ジョエル・バズマン、エーミール・ベルトン、オスカー・ベルトンほか
配給:キノフィルムズ/木下グループ
●『ヒトラーの忘れもの』公式HP

12月17日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF

文:市川はるひ

  • 2016年12月17日更新

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